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名刺大・2400円・丈夫…英国発パソコン、日本でも起動

発売約1年、全世界で130万台突破

 低価格のデジタル機器が次々登場する中、「超低価格」とユニークなコンセプトで注目を集めるパソコンがある。英国発の「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」で、サイズは名刺大、価格はなんと日本円で2400円からだ。世界中でIT(情報技術)環境をより身近にすることを目的に開発され、販売台数は全世界で130万台を突破。日本でも筑波大学など教育現場で導入されるなど普及し始めた。

筑波大、演習講義の教材に採用

7月中旬、茨城県つくば市にある筑波大学・システム情報系の講義室では、集まった大学院の学生らが次々に研究成果を発表していた。タブレット(多機能携帯端末)を使って洗濯物の乾燥状況をチェックするアプリ、掃除ロボット「ルンバ」を遠隔操作するシステム――。いずれもユニークな機能を開発するのに活用したのがラズベリーパイだ。

筑波大は文部科学省などと連携して実施する人材育成事業「enPiT」で、今春からシステム・プログラム開発の演習講義にラズベリーパイを教材として採用。価格の安さや使い勝手の良さに目を付けて45台を購入し、学生らに実際に利用できるスマホ向けアプリなどを同製品を使って開発するという課題を与えた。

講義に参加した大学院生の落合遥堂さん(22)は、タブレットでルンバを動かせるソフトを作成。ルンバの本体にラズベリーパイを載せ、信号を受けて制御する仕組みにした。「高価な機器を使うと冒険はできない。壊れてもいいと思うと色々試すことができ、楽しかった」と話す。

「超低価格」「丈夫」「壊れても惜しくない」――。従来のパソコンの概念を覆す特徴がラズベリーパイのキーワードだ。英ケンブリッジ大学が支援するラズベリーパイ財団が、「世界の学生や子どもに手軽なIT環境を提供する」目的で開発し、2012年春に発売した。

基板は約8.6センチ×約5.4センチと手のひらに収まるサイズで、無償基本ソフト(OS)「リナックス」を搭載。中高生でも基本を学べばディスプレーやキーボードをつないでゲームや文書作成、プログラムなど一通りの機能を利用できる。価格は当初日本円で2950円から、現在は機能を一部絞った2400円の製品も販売。激安パソコンでも3万~4万円台という状況の中では割安感は群を抜く。発売後約1年で世界での販売台数は130万台を突破する異例のヒットを記録。従来は欧米での展開が中心だったが、日本でも広がり始めている。

 日本での販売は電子部品ネット販売のアールエスコンポーネンツ(横浜市)が正規代理店として担い、企業・教育機関のほか個人でも調達できる。個人輸入した商品をアマゾンジャパン(東京・目黒)の通販サイトなどで販売している事例もあるほか、複数の出版社は初心者向けの解説本を発行している。

初心者向けにソフト改良も

IT企業に勤める技術者の太田昌文さん(42)は同好の士とユーザーのコミュニティーを開設。現在参加者は200人を超え、2カ月に1回程度勉強会やセミナーを開催している。お互いの情報を提供し合い、プログラミングのアイデアなどを共有。太田さんは「国内での周知や大学などと連携したイベントなどにも取り組みたい」と意欲を見せる。

海外ではラズベリーパイを組み込んだロボットやビール醸造管理システムが開発されるなど、低価格で高機能なパソコンを使った取り組みは様々に広がっている。さらに米グーグルは今年1月、同製品1万5000台を英国の教育機関に寄贈すると発表。先進的なIT愛好家だけでなく、教育の現場への浸透も進む。

ラズベリーパイ財団では、より初心者が利用しやすいよう、ソフトの改良やネット上でのPRも積極的にする方針。「企業や学校からの問いあわせも増えている」(アールエスコンポーネンツ)といい、将来は日本の中学生、高校生が熱中する姿を見られるようになるかもしれない。

(河野祥平)

《開発者エベン・アプトン氏に聞く》

学生や子どもの「おもちゃ」に

注目を集めるラズベリーパイ。2006年から開発の中心人物として活躍し、ラズベリーパイ財団を創設したIT技術者、エベン・アプトン氏に同製品の特徴や今後の販売戦略、低価格デバイスの可能性について聞いた。

――ラズベリーパイ開発のきっかけは。

「ケンブリッジ大学に勤務し、ITや数学に関心を持つ優秀な学生が年々減っていることに懸念を抱いたのがきっかけだ。自分には子どもの頃から自宅のパソコンに触れ、夜な夜な熱中して自分なりにプログラミングを試していた環境があった。今の子どもたちにも同じような経験をしてほしいと考えた際、浮かんだのが、いい意味で『おもちゃ』に近く、安価で持ち歩けるような丈夫さというコンセプトだった」

「ビジネスモデルとしては、ラズベリーパイの設計については我々が担い、商標も保持している。一方、ライセンス契約を結んだ連携先の企業が製造や物流、販売を担う形態だ。現在は全世界で販売台数が130万台を突破、欧州が4割、北米が4割で残りの地域が2割を占める」

アフリカや南米も市場として注視

――デバイスとしての完成度の高さも注目されている。

「秘密に関わる部分だが、我々の選んだICチップは非常に機能性に優れ、私も積極的にチップの開発に参加して工夫を凝らした。部品の選択と絞り込みは価格と機能のバランスを取るためにかなり苦労したが、価格を抑えることは最も重要なポイントだった。基本ソフト(OS)はリナックスを採用している」

――今後の拡販の戦略は。

「販売面ではパートナーに様々なマーケティング手法を活用してもらっている。我々はソーシャルメディアを駆使し、積極的に情報発信し、ユーザーの各種コミュニティーとも連携することを重視している。日本に関してはこれまでの販売台数は2万台程度で、まだ規模は小さいが、市場の可能性としては北米と同じぐらいに成長できると考えている。今後はコンテンツの日本語訳の提供、日本での動きについてもリサーチし、プロモーションを積極化させていきたい」

――低価格デバイスの意義は。

「デバイスの『民主化』、つまり誰でも利用できるよう環境を整備することは非常に重要だ。先進国では大人も子どもも楽しめるおもちゃ、教材として活用、新興国では多くの人々が最初に触れるパソコンとして新しい体験を提供し、ひいてはITの土壌作りを助けることができる。今後はアフリカ、南米なども市場として注視している」

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