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地域から元気になる日本を始めよう ヤマトHD・木川真社長

第14回(2月20日)

官民結集 新たな「街」を

東日本大震災は、政府、自治体の財政悪化、少子高齢化、地方の過疎化といった社会構造の変化を浮き彫りにしました。この大きな流れに対し、行政や企業の在り方も必然的に変わっていくべきですが、実態としてはそうなっていません。公共サービスのニーズが飛躍的に高まっているのに対応が間に合っていないのです。地方自治体の財政状況がそれを許さないという事情もあります。

木川真 ヤマトホールディングス社長

今こそ、民間企業が協力して、公共サービスを推進すべき時期に来ていると考えます。民間企業の保有するインフラが行政の一部を担えば、住民へのサービスの質も向上できると思います。行政としては、なかなか簡単にアウトソーシングには踏み出せないのが現状ですが、公共サービスの向上については、官だけでなく我々民間企業も、そして国民一人ひとりも真剣に考えなくてはいけない問題といえるでしょう。

地域活性化を目指すうえでは、衰退する商店街をいかに再び活気づかせるかが重要なテーマといえます。衰退の要因には、一極集中型で効率的な大型店舗の台頭が挙げられますが、今回の震災ではその弱さも露見しました。つまり、地産地消でないがゆえに、どこかで道路や橋などの交通網が遮断された瞬間にモノが流通しなくなってしまうわけです。

そこでたとえばこれまでバラバラに競争していた民間企業の力を結集し、商店街を作り直してはどうでしょうか。こうしたプラットフォームづくりを官の目線ではなく住民の目線で行いながら、商店街を再生して地域の活性化につなげる。地域の活性化を進めていけば、日本全体の活性化にもつながるはずです。

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もちろん、実現には自治体のサポートも欠かせません。自治体のトップのなかには、官と民による地域の活性化に高い意識を持っている方も多くいらっしゃいます。一人暮らしの高齢者の存在はどの地域にも共通の問題で、その安否確認を行うため、自治体からの要望としては家庭用のコミュニケーション端末の配備が挙がっています。この場合、通信会社を交えたプラットフォームづくりが必要で、自治体はもちろん、医療機関などとのコミュニケーションも欠かせません。たとえばヤマトグループも宅急便ネットワークというインフラをうまく活用すれば、低コストで高品質のサービスを生み出すお手伝いができます。ただ到底、一企業の力だけではなし得ず、やはり民間企業同士の協力が不可欠といえます。

今回の震災で、あらためて日本人の底力はすごいと感じました。復興への意欲はもちろん、あれだけの大災害でも秩序が乱れない点は、日本国民の我慢強さであるとか、冷静さであるとか、一言では言い表せない高い志は、国民一人ひとりが持っているものだと実感しました。たくさんの寄付やボランティアが日本全国から集まる日本は、まだまだ強く、一体感もあります。それが今回、目覚めたのではないのでしょうか。しかも、若い方たちにそういった風潮が見られたのは喜ばしいことだと思います。

震災後、当社も社内で議論をし、宅急便1個につき利用料金の中から10円を1年間寄付することにしました。総額約140億円を被災地の生活基盤である農・水産業など即効性のある事業に助成しています。本来、寄付の原則としては公平でなくてはいけないのですが、行政がなかなか手を付けられないところ、雇用が生まれるところ、というように、効果が早く表れるところに寄付することで素早い再出発の支援ができると考えたのです。

当初は税務当局から全額有税と言われましたが、結局は志を理解していただき、全額無税にしていただきました。株主の皆さんにも当社の決定を受け入れていただきました。この寄付活動が日本に民間企業の力を活用した新しい寄付文化が根付く「きっかけ」「呼び水」になればと考えています。「税金を集めて、あまねく配分する」という従来の方法では、かなりの時間を要します。生活基盤を根こそぎ奪われた被災地の皆さんにとっては時間との戦いであり、地域経済が一刻も早く立ち直ることが重要なのです。

被災地を走るクロネコヤマトのトラック(2011年3月17日、岩手県釜石市)

日本は国民一人ひとりと同様、民間企業も、まだまだ底力を秘めていると思います。これを結集して被災地の復興・再生を通じた新しい街づくりに取り組むことが全国の地域活性化のモデルとなり、ひいては日本の活性化につなげるチャンスが見えてくるのではないでしょうか。

消費者利益の追求が社会を変える

宅急便の生みの親である小倉昌男さんは「運輸省(現国土交通省)の役人は小学5年生以下」と、こき下ろしたことがある。全国配達を目指すヤマト運輸に対し、参入規制で業界保護の立場をとる運輸省と鋭く対立。現場を見ることもしない役人に憤慨したのだ。生殺与奪の権を持つ監督官庁に小倉さんが強い態度で臨むことができたのは、生活者利益の向上が事業推進の後ろ盾になっていたからにほかならない。

ヤマトにとっての生活者利益は荷物を受け取る側を指す。お金を払う荷主ではない。お金を基点に事業を組み立てると独りよがりな取り組みになりがちだという。受け取る側がセールスドライバーに直接電話して配送の時間帯を指定できるのはその典型だ。一人暮らしの高齢者の安否確認サービスも受け取るモノがあってこそ実現できる。ヤマトが地域を意識するのは、そこに生活者がいるからだ。

宅急便は全国一律のユニバーサルサービスとなり、生活に溶け込み、気が付けばインフラとなっていた。このインフラを使わない手はないと行政が秋波を送る。社会も時代も大きく変わったことを感じさせる。

(編集委員 田中陽)

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次回の未来面

次回の未来面は、2月15日に開催した未来面シンポジウム「停滞から再成長へ~変革を続ける、日本を始めよう」を詳しく紹介する予定です。

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