広がる増資の選択肢 金融庁、規制緩和案を発表
既存株主の権利保護、海外投資家も歓迎

金融庁は19日、既存株主の保護を重視した株主割当増資(ライツ・イシュー)の使い勝手を高めるための規制緩和案を正式に発表した。障害になっていた増資の際の事務負担を軽減することが柱。新手法で大型の増資がやりやすくなるなど企業にとっては資本調達の選択肢が大きく広がり、海外投資家にも歓迎する声が多い。欧州やアジア市場と同様に日本企業の間で本格的に普及するためには、既存株主の利益を守る企業側の意識も課題になりそうだ。
2008年秋のリーマン・ショック後に相次いだ日本企業の生き残りを懸けた公募増資では、傷んだ財務体質を改善するために増資規模が大型化した。従来、増資の際の新株発行規模は発行済み株式の15~20%程度が上限とされたが、09年以降はこの水準を超える増資が増加。投資家の間では海外勢を中心に「日本市場では大規模なダイリューション(1株利益の希薄化)を招く増資が多すぎる」(米大手運用会社)との不満が高まっていた。
大型増資で株主割当増資を使えば、企業が全株主に新株予約権を無償で交付するため、予約権を行使して増資に応じさえすれば株主は持ち分の低下を防げる。みずほフィナンシャルグループや東芝など09年以降に大型の公募増資に踏み切った一部の企業は株主割当増資の活用を検討したが、現状では実務上の障害が大きく最終的に実施を見送った例も多いとされる。
金融庁が今回公表した規制緩和は、新型増資の導入を妨げていた実務上のハードルを大きく下げるものだ。増資の際の有価証券目論見書の作成・送付義務を株主割当増資については撤廃し、「実務上の最大の障害がなくなる」(米大手証券の引受担当者)。行使されなかった予約権を証券会社が取得する際の規制もなくし、活用促進に向けて前進することになる。
海外投資家からは今回の規制緩和案を歓迎する声が多い。カルパース(米カリフォルニア州職員退職年金基金)など欧米年金に議決権行使を助言するガバナンス・フォー・オーナーズの小口俊朗日本代表は「海外市場からかけ離れた株主利益をないがしろにする日本企業の増資手法が、変わるきっかけになる」と話す。
同手法で米国を含めたグローバル市場で資金を調達するためにはクリアすべき課題が残っている。
米国株主が10%以上いる場合は日本企業であっても米証券取引委員会(SEC)の規制が適用され、目論見書や決算書などをSECに登録する必要が出てくる。欧州では、米国株主に対して予約権の行使を制限している国もある。金融庁は外国人株主の権利を制限することが会社法の株主平等原則に反しないように法務省や証券界と対応を協議する。
今回の緩和で国内市場での新型増資実施に向けた障害はほぼなくなる見通し。ある大手証券の投資銀行部門幹部は「株主割当増資が日本でも普及するのかどうかは、結局、経営者が株主の利益を本気で守ろうとしているのかという意欲次第だろう」と指摘する。
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