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金融ニッポン 新興国の成長を取り込み(金融力シンポ)

パネル討論

――損害保険業界における成長戦略とはなんですか。

東京海上日動火災保険の永野毅社長 損害保険はお金の供給、仲介によって産業の発展に貢献する典型的な金融業と違い、現場に実際に行って安心を届けるという面がある。2011年の東日本大震災では9000人の社員が被災地に行った。契約者の家の床にはいつくばって損傷を確認し、支払える保険金がないか調べた。

東京海上日動火災保険社長・永野毅氏  ながの・つよし 1975年(昭50年)慶大商卒、旧東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)に入社。東京海上HD、東京海上日動両社の副社長を経て6月に社長に就任。主力商品である「超保険」の開発に携わった。

保険商品はふだんは目に見えないが、保険金を支払うときに具現化する。いざというときに支払えなくなったら何の意味もない。企業などが何かに挑戦するときにはリスクを伴うので、事前に安心を提供するのが損保の仕事だ。

損害保険ジャパンの桜田謙悟社長 10年前の損害保険の市場規模は約7兆円だった。現在も約7兆円で何も変わっていない。損保の売り上げに大きな影響を与える人口、自動車、建物の数は今後右肩下がりになることが確実だ。市場が広がらないなかで成長戦略を描くには、軸足を保険に置きながら、プラスαをどう築いていくかが重要になる。

これまで構造不況業種と言われた業界は、収益をあげるために筋肉質になり、本業に軸足を置きながらより収益をあげられる分野に出ることで生き残ってきた。損保で言えば今後収益を上げられる新しい分野は海外での保険事業と介護などのサービス産業だ。

三井住友海上火災保険の柄沢康喜社長 損害保険は自動車や家屋など身近なものから、人工衛星のような多様なもののリスクに対応した補償を提供し、国民生活の安定と経済成長を支える。業界で約2兆円の保険金を支払った東日本大震災は、損保の経営にとっては厳しかった。だが、契約者にとっては損保の存在意義を再認識するきっかけになったと思う。

保険自由化以降の競争激化で、事業の効率化を求めて業界再編が進んだ。今は3メガ損保グループで市場の90%を占めている。

昨今の縮小傾向にある市場で損保の課題は3つある。ひとつは少子高齢化にどう対処するか。2つ目は長期的視野に立って海外投資をどう進めるか。3つ目は自然災害にどう対処するか。

新しい成長分野に対応する商品、サービスを提供すれば市場の成長を維持できる。再生可能エネルギー分野や6次産業化などニーズを掘り起こして新たな市場を作ることが求められる。海外投資の流れは今後も加速する。かつて損保が日本経済の発展に貢献したように、新興国の成長を下支えする一翼を担うべきだ。アジアなどの新興国の着実な成長は日本の経済成長にとっても不可欠だ。

――海外進出の仕方には3グループそれぞれに特徴があります。どのような戦略ですか。

永野氏 損保が海外に出て行くのは必然だ。生卵をひとつのかごに入れておくと何かあったら全部割れてしまう。そうならないよう分散をきかせるということが最も大事だ。地域も事業も細分化して分散をすることが日本国内の顧客を守ることになる。

新興国の成長をとること、先進国の規模をとることを両方やらないといけない。先進国では米国だけで3000の保険会社があるように多様なもうけ方ができる。さまざまな商機を取り込んでいく。

討論する(左から)東京海上日動火災保険の永野社長、損害保険ジャパンの桜田社長、三井住友海上火災保険の柄沢社長(17日、東京・大手町)

東京海上の海外進出の基本は自前での成長だ。アジアや再保険の分野では地力で汗をかいてビジネスを成長させている。もう一つは欧米を中心にしたM&A(合併・買収)だ。M&Aは投資だと見られるが、投資とは考えていない。あくまで保険事業を行うための手段だ。

M&Aではトップ同士の理念が合うか、出資先の会社が強いビジネスを持っているか、経営の中核にいる人材のレベルが高いかの3つの条件に照らして出資先を選んでいる。強い会社を買い、経営をできるかぎり任せることで、その強さを継続する。過剰に介入するとうまくいかない。

柄沢氏 三井住友海上の海外戦略はアジアを中心にやっている。アジアはモータリゼーション、人口増加、都市化の流れがあり、大きな成長を果たしている。アジアでは保険制度そのものがまだ黎明(れいめい)期にある。保険料率の算出や損害査定のノウハウなど日本の保険制度の技術を移転することも重要だ。

MS&ADグループは世界トップ水準の保険グループを目指している。そのためには現在2割程度の海外事業の比率を中長期的に5割近くまで上げていく。M&Aもいい案件があればやっていきたい。

当社は東南アジア諸国連合(ASEAN)の10カ国全てに拠点を設け、アジアでのトップシェアを取っている。ある地域で最大のプレーヤーとなることは市場を支配するという意味でも極めて重要だ。こちらからノウハウを提供する部分も大きいが、出資先、提携先から様々なノウハウを学ぶことがある。グローバリズムが進む中では、海外からも素直に学んで生かすということも重要だ。

桜田氏 成長の取り込みとリスクの分散というだけではなく、しっかり利益をあげないといけない。ただ、成長著しい新興国でも収益をあげるのは本当に大変なことだ。長い時間がかかるので「バスに乗り遅れるな」と安易に進出すると痛い目にあう。

トップダウンで進出するのではなく、よく知っている国で、よく知っている人がいる会社と組み、利益を与えてくれる会社になるのかを見極めないといけない。

(モデレーターは日本経済新聞社経済部長、品田卓)

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