異次元緩和、揺れる市場 「黒田ショック」消化できず

2013/4/5付
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黒田東彦日銀総裁が打ち出した新たな金融緩和策が5日、金融市場を大きく揺さぶった。債券市場で長期国債の価格が乱高下し、先物市場では2度にわたって売買の一時停止措置が発動された。大胆緩和を好感して進んだ円安・株高にも水を差す格好となった。

大胆緩和の導入決定から一夜明けた5日、債券市場はまず日銀の国債購入額拡大を受け、長期金利の低下(債券価格の上昇)で反応した。

史上最低利回り

「買い遅れるわけにはいかない」。市場参加者の間では、日銀の購入拡大による金利低下を見越して債券買いが殺到した。10年債利回りは一時、前日比0.14%低い0.315%に低下。昨年後半、欧州債務危機で資金流入が加速したスイスでついた0.39%程度を下回り、「史上最低利回り」を更新した。

長年にわたって、世界史上最低金利とされてきたのは1619年イタリア・ジェノバで記録した1.125%。これを大きく下回る歴史的な水準で推移してきた日本の長期金利は、黒田日銀の異次元緩和とともにさらなる未知の空間に踏み込んだ。

債券高を好感した朝方の日経平均株価は前日比の上げ幅が591円に達し、一時1万3000円の大台に乗せた。東京証券取引所第1部の株式売買高は64億4900万株と過去最高を更新。売買代金も4兆8633億円と5年8カ月ぶりの高水準に膨らんだ。外資系証券では「2005年の郵政解散時をしのぐ注文が押し寄せた」という。

デフレで不動産価格の上昇につながると期待したマネーは不動産株に流入し、三菱地所株などが一時、値幅制限いっぱいとなるストップ高水準まで上昇した。個人投資家によるインターネット証券経由の売買も急増。マネックス証券では朝方に取引画面にログインしづらい状況が10分以上続き、SBI証券や楽天証券でも遅延などのトラブルが発生した。

債券先物が急落

ところが午後になると市場の様相は一変した。午後1時過ぎ、過去最高値圏にあった債券の先物市場で価格が値幅制限いっぱいに急落し、取引所がサーキットブレーカーを発動させた。15分間の中断を経て取引が再開されたが、再び価格が急落。午後1時30分に2度目のサーキットブレーカーが発動された。

きっかけは「先物市場での海外勢の利益確定売り」(国内証券)とも、「メガバンクの一角が売った」(米系証券)とも観測が飛び交った。

動揺した市場では債券売りが殺到。現物市場でも10年債利回りが一時0.62%まで急騰した。

これまで債券市場では、短期間のうちに金利が急上昇した局面が何度もあった。03年の「VaRショック」や1998年の「運用部ショック」など例がある。

ただ今回の金利急騰は過去のショックとは異なるとの見方が多い。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の石井純チーフ債券ストラテジストは「今回は最後の買い手の日銀がいる」と指摘する。過去のショックでは金利が持続的に上昇したが、5日夕には10年債利回りは0.4%台半ばまで再び低下した。

肝心の日銀の動き方がまだ見えない。国債の購入増額を発表して市場の期待が高まる半面、実際に市場から購入を始めるのはこれからだ。

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは日銀が債券市場の「池の中の鯨」になると指摘。日銀の需給によって債券市場の価格が決まるようになるため、「適正な価格水準が失われてしまった」と警鐘を鳴らす。

黒田日銀の異次元緩和に喜色満面だった安倍政権の面々も大揺れする市場に緊張感を隠さない。「金利水準へのコメントは控えるが、市場の動向にしっかり注意を払っていきたい」。5日夕刻。菅義偉官房長官は市場の動揺が収束するか監視する姿勢を示した。

債券相場の大揺れは金融市場全般に波及。株式市場では利益を確定する動きが膨らみ、日経平均株価も上げ幅を急速に縮めた。日経平均は結局199円高で大引けを迎えた。高値から一気に400円近く下げたことになる。「持てる政策を総動員する」。4日の記者会見で語った黒田日銀総裁。金融市場はまだ、異次元緩和の意味を消化しきれていない。

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