地域経済活性化、中小企業目利きが原点(金融力シンポ)
――地域経済の現状をどう見ていますか。3月に中小企業金融円滑化法が終了する影響はありますか。

ほくほくフィナンシャルグループ・高木繁雄社長 (傘下銀行が営業する)北陸地方や北海道の景況はおおむね横ばい、もしくは弱含みだ。消費増税を控えて住宅建設や一部の個人消費で比較的明るさが出てきた。
金融円滑化法が施行された2009年以降、北陸地方の金融機関の貸し出し態度は緩み、企業の資金繰りも楽になった。一方、条件変更した企業の8割は何回も変更を繰り返している問題もある。
円滑化法の期限が到来しても、対応方針は変わらない。支援している約1500先のうち、98.5%はすでに経営改善計画を策定しており、計画の実施を支えていく。
京都銀行・高崎秀夫頭取 2月に実施した取引先約500社調査で、景気の先行きにようやく薄日が差してきた。潮目が変わる兆しが表れてきたと判断している。
京都は東日本大震災後減った外国人観光客が足元では回復している。電子部品の輸出も持ち直し、太陽光発電関連の受注も好調だ。ただ、円高是正で輸入原材料や燃料費の上昇が先行し、企業の収益改善を遅らせる懸念も残る。
金融の円滑化は地銀の本分だ。円滑化法終了後も方針を変えるつもりはない。
――円滑化法の功罪をどう分析しますか。

東日本大震災事業者再生支援機構・池田憲人社長 円滑化法はリーマン・ショックで景気が悪化する局面で緊急避難の安全網だった。だが、借り入れ条件の変更に依存したのでは中小企業の活力が高まらない。
企業再生支援機構を改組する「地域経済活性化支援機構」は活力向上で機能を果たすだろう。企業の財布の中身を知っているのは銀行だ。銀行が企業のために立ち上がらないと同機構が生きない。被災地の震災支援機構も同様だ。金融機関のトップが機構の役割を分かっているだけでは不十分だ。前線の支店長や担当者が意義を理解するかどうかが問題解決の鍵を握る。
――企業再生ファンドの立場で円滑化法をどう見ますか。

ジェイ・ウィル・パートナーズ・佐藤雅典社長 リーマン・ショック後の経済下支え策として導入された法の趣旨は否定しない。欧米でも似たような政策が短期間に打たれている。だが、当初、約1年の時限立法だったのが、2回延長されて通算3年に及んだ。退場すべき企業が存続し、価格メカニズムが壊れて経済全体をデフレ方向に引っ張ってしまった。
再生ファンドの運営者としては企業が存続できるか、退場すべきかを市場の座標軸に沿って判断する。大都市に偏在している資本や人を地方に供給するのがファンドの役割だ。2000年代前半と比べて、銀行の不良債権比率は大幅に下がっている。銀行のバランスシートを改善すればいいという問題ではない。
――地域経済の再生に向けた金融機関の役割はどこにありますか。
高崎氏 京都では地元の金融機関などが一体で取り組む「京都再生ネットワーク会議」が重要な役割を果たしている。京都信用保証協会の協力で04年7月に支援担当者の会議を発足させた。08年4月に、「オール京都」で取り組む思いを込めて、現在の名前に変更した。

会議には地元金融機関はもちろん、保証協会、中小企業再生支援協議会、京都府、京都市といった行政、整理回収機構、さらには企業再生支援機構などの公的機関が加わる。担当者が一堂に会する場は全国に先駆けた事例だった。事務局の保証協会の協力体制が充実しており、これが「京都モデル」成功の秘訣だ。
自治体も中小企業を支援する融資制度を創設した。直近では約1100億円の利用があり、保証協会の保証が付いている。期間が最長20年という特徴がある。制度を利用するには全ての取引金融機関が企業の改善計画に合意することが原則。円滑化法の出口に向けても活用できる。
高木氏 すべての大企業はかつては中小企業だった。中小企業に目利きをしてどう資金を供給するかが地域再生の原点だ。
04年9月に北海道銀行と北陸銀行が経営統合した。広域にまたがる地銀として企業のために何ができるか。企業の取引先を探すビジネスマッチングを始めた。今では多くの金融機関が実施している。商談の成功例は把握しているだけでも379件に達する。

外部機関や専門家も重要になる。中小企業再生支援協議会や企業再生支援機構、整理回収機構を活用すべきだ。当社は自前で弁護士5人、公認会計士12人を抱えている。さらに提携先の弁護士や税理士も一緒になって、企業ごとに膝詰めでやっている。
海外で必死に事業展開する中小企業が増えている。
中国には608社、タイやベトナムは201社、シンガポールやマレーシアなどにも約200社が進出している。当社は現地の進出企業が150社に達した段階で事務所を開設し、情報提供や個別の相談会などで支援している。
――地域の成長戦略をどう描きますか。
池田氏 銀行の役割は点の再生だ。面の再生は自治体が中心になって絵を描くが、銀行の利益にすぐにつながる訳ではなく、両者のすり合わせが重要になる。
焦点は地域として需要不足、過剰供給をどうするかだ。自治体には多様な融資制度がある。20年前の制度が残っているなど、優先順位が明確になっていない場合もある。
過剰供給に直面する地域では、すべての企業を応援するエネルギーはない。銀行時代は廃業や他社との合併を勧めて需給のバランスを取ろうとしていた。企業には場外退場という選択もある。
(モデレーターは日本経済新聞社経済部長 品田卓)
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