日本国債の利回りが低い理由
潤沢な個人金融資産、経常黒字の「土台」が機能
「日本の国債はいつか暴落する」。バブル崩壊後の20年間、あまたの市場関係者が予言してきた。だが、現実にそうはならなかった。

この間、長期金利が短期間に急上昇(価格は下落)したのは数えるほどだ。大蔵省(当時)が資金運用部の国債買い入れ停止を表明した1998年の「資金運用部ショック」や、銀行が国債の保有リスクを減らすため連鎖的に売りを出した2003年の「VaR(バリューアットリスク)ショック」などが有名だが、それらも短期間で収束した。
日本の財政状況は先進国中、最悪だ。債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率は11年で200%をゆうに超す。長期金利が危険水域とされる7%を一時上回ったイタリアですら128%なのに、だ。それでも国債が売られなかった背景には日本特有の国債保有構造がある。
日本国債(国庫短期証券を除く)は海外投資家による保有比率が11年9月末時点で6.3%。米国の45.3%など他の先進国に比べて極端に低い。なぜ9割超を国内投資家が保有できたかと言えば、潤沢な個人金融資産と安定した経常黒字という2つの「土台」がしっかりしていたからだ。銀行は景気低迷で預金に見合う貸出先がなく、余った資金を国債に振り向けている。財務規制が厳しくなった生命保険も「国債は増やす」(大手生保幹部)姿勢だ。

日本の消費税率の引き上げ余地が大きいことも、市場では「潜在的な財政改善余地」とみなされてきた。だから国債市場では、海外ヘッジファンドが空売りを仕掛けても、結局は国内勢の買いに踏み上げられる形で撤退するという歴史が繰り返されてきた。
日本が31年ぶりに貿易赤字に転落しても、今のところ国債市場は冷静だ。11年年間の貿易赤字が発表された25日午前も、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは前日比0.005%低い1.000%に低下した。
ただし、日本独特の国債保有構造を支えてきた2つの土台は確かに揺らぎ始めている。高齢化による貯蓄率の低下と産業の空洞化はボディーブローのようにきき、長期的には、国内資金で国債を消化しにくくなる可能性が十分考え得る。将来、本当に「オオカミが来る」かどうかは、政治が財政再建と税収を増やすための成長戦略をきちんと実行できるか次第だろう。(藤原隆人)
[日経ヴェリタス2012年1月29日付]