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規制 岩盤を崩す 混合診療、出口見えぬまま10年

第4回

名古屋市に住む土井和子さん(70)は1年前に受けた白内障の手術でいまだに納得できないことがある。

患者の選択肢は広がるか?

原則禁止のまま

眼科医がすすめたのは遠近ともに焦点が合う多焦点レンズ「レンティス」を入れる手術。一般的な単焦点のレンズよりも術後にまぶしさやにじみが少ないと言われ同意したが、料金を聞いて目を丸くした。

100万円――。公的な医療保険の対象にならないと聞かされたが、単焦点は10万円。こちらは保険がきくとはいえ、値段が違いすぎる。医師に詰めると「手術費だけでなく、保険適用のはずの手術前後の診療費や薬代もすべて自己負担になる」。渋々大金を払った。

からくりはこうだ。患者が医療機関の窓口で払うのは実際の医療費の一部。大半は公的保険で賄われる。ところが国が認めていない薬や治療法を使うと、本来なら保険で賄えるはずの診察や検査の費用も含め、患者がすべての項目で全額を負担しないといけない。

保険の適用外だけ自費で負担し、適用分は通常どおり保険で賄えばいい。だが、そんな「混合診療」は原則禁止だ。政府は2004年に混合診療の範囲を大きく広げると決めたが、実態は厚生労働省が一部の例外を認めてきただけ。それから10年近く。原則解禁の気配はない。

政府規制改革会議の委員だった松井証券の松井道夫社長。「患者の選択肢が広がる」と解禁を唱える。厚労省や日本医師会との論争を思い出してもらった。

おきまりの反対論は「低所得層が良質な医療を受けられなくなる」。これから出る新しい治療法は混合診療が原則となり、保険の適用外となって所得の低い人が困るという理屈だ。松井氏は「全く逆。保険適用分の負担が減り、経済的な恩恵もある」と訴える。正論だろう。

「保険外の医療が安全か保証できない」と厚労省。松井氏は「保険適用かどうかに関係なく、安全を守るのが仕事ではないか」と切り返す。これもそうだ。

医師会は主張する。「必要な医療技術は混合診療ではなく、速やかに保険の対象に」と主張。一理ありそうだが、すかさず「保険財政がもたない」と松井氏。11年度の国の医療費は概算で前年度比3%増の37.8兆円。背景の1つが医療の進歩が一因だ。保険を充実させ続けるか財政負担を考えて見直すか。どうやら医療制度の根幹にかかわる対立のようだ。

話が大きくなりすぎた。当事者の声も聞きたい。「医療現場に競争原理が働くから解禁に反対」。岐阜県内の病院の勤務医(32)は明かす。最新の治療法を常に身につけていないと、混合診療を望む患者に応えられない。「腕の悪い医者には患者が来なくなる」

歯科には広がる

歯科医療は事実上の混合診療が広がっていると聞いた。保険適用と保険外を別々の診療の形にするケースもあるという。東京・世田谷の3つの歯科医院を回った。虫歯にすすめられたのは保険外のセラミック製のかぶせもので、3万5000~6万円。最も安い医院は「技術だけでなく価格もすぐにインターネットで広がる」と競争を認めた。

技術や価格を競う世界を遠ざけ、公的保険の殻にこもる医療。患者の選択肢は広がらない。そこに皆保険の見直し論議や財政の問題も絡むから余計にややこしい。まるで解けない知恵の輪だ。そういえば名人にコツを聞いたことがある。構造を知り抜き、発想を転換する。そんな知恵者たちが立場を超え「輪」になればいいのに――。

(おわり)

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