中国、米の包囲網けん制 日本との友好演出
日中両首相は25日の会談で、海上安全保障から金融まで幅広い分野での協力で合意した。中国側はアジアに傾斜する米国をけん制するため、経済を軸に日本に秋波を送る。だが政治が絡む肝心の東シナ海でのガス田共同開発ではゼロ回答。日中国交正常化40周年の来年、どこまで協力が進むのか見通せない。
「日中の戦略的互恵関係を新たに進展させたい」。温家宝首相は会談で強調した。合意した経済案件は、日本による中国国債の購入や環境関連ファンド創設など多岐にわたる。海上安全保障に関する定期協議は当初案の局長級から次官級に格上げされた。
中国側は友好演出へ細部にこだわった。「海上危機管理という表現には危機が前提の負の雰囲気もある。『海での協力』と呼びたい」。その背景には米国の戦略転換への危機意識がある。米国は安全保障と経済でアジア太平洋を中核に置く戦略を打ち出し、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国やインドと連携。11月中旬には、中国の反対にもかかわらず、米国の後ろ盾を得た各国が南シナ海の領有権問題を協議する場として多国間協議を支持した。
米国による「対中包囲網」の拡大と反比例するように、中国が日本に送る秋波が強まる。野田首相が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に向けた関係国との協議入りを表明すると、中国は慎重だった日中韓3カ国の自由貿易協定(FTA)への態度でも豹変(ひょうへん)。「妥協の用意がある。交渉を先に進めよう」と投資協定締結に向け、懸案で大幅に譲歩した。
中国は日中2国間のFTAでも日本の関心を引こうと躍起だ。「交渉が難しい多国間や3カ国より、2国間の方が強固な経済連携が可能だ」。中国側は誘いをかける。TPPの成否を左右する日本を取り込み、米国のアジア戦略にくさびを打ち込む狙いも見える。
「オーストラリア北部のダーウィンは第2次大戦中、一度撤退したマッカーサーが日本軍からフィリピンを奪還する際の拠点にした。今後、ダーウィンは中国に対抗するための拠点になる」。米政府当局者は、米海兵隊の初の豪州駐留の意味を説明し、南シナ海での中国と対峙を辞さない。安全保障を巡るパワーゲームは、中国を揺さぶる。
そもそも中国は今月13日にかけて予定していた野田首相の訪中日程を一方的に延期。雰囲気づくりのため南京事件の記念日を避けたはずだったが、蓋を開けてみると東シナ海のガス田共同開発など政治案件での進展はなかった。垣間見えた対日修復への動きが、中国国内での利害調整や、強硬な対日世論を乗り越えるほど確固たる意思になるのかは不透明で、見せかけの外交戦術に終わりかねない。(北京=桃井裕理)