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「空白の55分」混乱の連鎖 原発の注水中断問題

国会論戦で浮かんだ連携不足

福島第1原子力発電所1号機への海水注入が中断していた問題は23日の国会論戦で、事故当初から首相官邸と東京電力の連携がぎくしゃくしていた事実を浮き彫りにした。菅直人首相は注水中断への関与を否定し、東電自身が判断したと主張した。責任追及をかわす思惑がちらつくが、官邸の協議が迷走を招いた可能性は否めない。3月12日の経緯を探った。

3月12日午後6時 官邸の協議

海水注入を巡る官邸の協議が始まったのは3月12日午後6時。真水の注入はすでに停止し、午後3時36分には1号機が水素爆発した。原子炉を冷やす海水注入が喫緊の課題になっていた。

国会答弁などによると首相は「ありとあらゆる可能性を検討する」と呼びかけた。原子力安全委員会の班目春樹委員長が「海水を入れたら塩が結晶するかもしれない。配管の腐食が進むかもしれない」と指摘した。首相は「もっとないか」と納得せず、関係者は「再臨界は本当にないと言えるんだろうな、と強く迫った」と明かす。班目氏は「可能性はゼロではない」と応じた。

班目氏は23日、記者団に当時の状況を振り返り「首相に『何でもいいから可能性をあげろ』と言われた」と語った。福山哲郎官房副長官は同日の記者会見で、班目氏の再臨界の指摘を「大変重く受け止めた」と話す。首相らが班目氏の「ゼロではない」という発言を重視したフシがある。

午後7時4分~25分 海水注入、中断

官邸の協議は3月12日午後6時20分に休憩に入る。再開は1時間後をめどにしていた。官邸詰めの東電の担当者が「水素爆発で現場が混乱している。海水注入までに1時間はかかる」と報告したためだ。しかし、東電の緊急時の手順書に従い、現地では準備が着々と進んでいた。

実際、午後7時4分には海水注入が始まった。その直後、東電担当者が「官邸で今、議論されている。本店と対応を協議してはどうか」と現地に伝える。東電は「官邸側の判断が必要」と午後7時25分、注入を中断した。

「通知はなかった」。首相は23日の衆院東日本大震災復興特別委員会で関与を否定した。注入も中断も、東電の判断――。首相答弁からはこんな姿勢がにじむが、3月12日の格納容器の圧力を下げる作業(ベント)では違った。東電と激しくやり取りしている。そのベントを巡る首相の熱心さから「東電の注入中断にも首相の意向が働いたのではないか」との疑念を生んだ。

海江田万里経済産業相は2日の参院予算委で、首相から当時「本格的な注水をやれ」と指示を受けたと述べていた。東電による注水がその前にあったことを首相が認識していたとも受け取れる発言だ。東電は「経済産業省原子力安全・保安院に連絡した」と説明しているが、保安院に記録がない。

午後8時20分 海水注入が再開

経産相の命令を経て海水注入が再開したのは3月12日午後8時20分。中断から再開までの「55分間の空白」により、事故状況は悪化したのか。

二ノ方寿東工大教授は日本経済新聞の取材に「注水が中断すると毎時1000度単位で温度が上がる」と指摘した。中断が原子炉損傷につながったとの見方は残る。一方、首相が気にした再臨界は「可能性はありうるが、臨界が継続する危険はあり得ない」とみる。

当時は炉心溶融(メルトダウン)で燃料が圧力容器の底に溶け落ちていたことが、後に判明している。この状況では「仮に局所的に臨界が起きても、すぐ水が蒸発して止まるので大きな熱は出ない」(二ノ方教授)。

首相は23日の衆院特別委で「(再臨界は)色々な危険性の一つ」としたうえで「私は原子力の専門家ではない」と力説した。

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