瀬谷再生機構社長「海外とも連携、面で再生」(金融力シンポ)
地域の現状は全体としては非常に厳しい。今後、地域経済に非常に大きな影響を与えるものが2つある。
1つは日本流のビジネスモデルの喪失だ。例えばIT産業が海外に出てラインを移し、地域が空洞化していく問題がある。
もう1つはエネルギーだ。私は福島出身だし、原子力発電所事故の恐ろしさを人一倍感じている。しかし、ベストミックスという口当たりのいい言葉だけで、実質的に原発を廃止していったら、電気料金の値上げは今言われている水準ではすまなくなる。企業は海外に逃げざるをえず、雇用の問題が出てくる。

産業構造変化とエネルギー問題はある地域が頑張ってこういう再生モデルを作ったというだけでは克服できない話になりつつある。
今回、企業再生支援機構は組織を変える。個の企業から地域全体に目を向け、そこに人を出して面的な再生を目指す。冒険かもしれないが、挑戦する必要があると思う。資本金は200億円強あり、借入額も1兆円ぐらい使える。
機構は一つの社会実験だと考えている。競争原理は一番正しいと思うが、副作用があってもこういうものが必要だということは、もっと長い時間軸の中で認知されればいい。
今後の地域再生については、その地域だけでまとまる再生もいくつかはできるだろう。ただ、中国や台湾の企業と組むとか、欧州連合(EU)に出ていくといった方向になっていくと思う。官民ファンドの機構で仕上げた案件を何で外資にという問題も出てくる。ただ、今後克服されなければいけないと思っている。
中小企業金融円滑化法の終了が騒がれているが、どんな企業を残し、再生させるか。その哲学は難しくて今でも解がない。
銀行法第1条には信用、健全性が大事であると書いてある。同じ第1条の中には、円滑な金融機能が期待されるとも書いてある。今後の我々の仕事も、健全性維持とリスクマネーの供給という2つの相矛盾する命題を抱えている。
この20年を振り返れば、バブル崩壊に伴う不良債権問題で(銀行は)随分たたかれてきた。大蔵省銀行局が金融監督庁になったとき、収益性とかリスクマネーの供給よりも、いかに不良債権を減らすかに振り子が大きく傾いた。
金融庁ができてからはリーマン・ショックが起き、緊急避難として中小企業金融円滑化法ができた。本来ならば淘汰されるべきものがかなり残ってしまった。
中小零細企業に対する考え方は政治的な偏見が非常にあると思う。よほど恣意的に金融機関を指導して、弱者に目線を注がないといけない、という感じが常にどこかにある。確かに戦後の一時期は資金が不足していたが、今は良い企業には頭取自らが行って、拝み倒して借りていただく時代。いいお客さんは中小企業でもほとんど無借金経営だ。
貸しはがしという言葉もあるが、リスクが生じたら相応の担保を求めるのは当たり前だ。危なければ当然融資しないし、銀行には株主に対する責任もある。
企業再生を進めるためのコンサルティング機能を強化するには人材が足りない。東邦銀行は地銀64行のちょうど真ん中ぐらいだが、私が自信を持って送り出せる職員は10人ぐらいしかいない。絶対的な人員の制約があり、地域の支援協議会とか地域ファンドとの間で取り合いになる。
廃業や再生の目利きができるのは、どうしても自分がやってきた業種に限られる。例えば、半導体のビジネスが台湾勢に負けたが、今後については専門領域の人を引っ張ってこないと話にならない。
地銀の不良債権比率は下がってきているが、ビジネスモデルが見つからない企業をどうやって再生させるかは非常に難しい。
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――地域経済の活性化の担い手として期待している分野はあるか。
「例えば、原発事故の除染、廃炉に関する技術の集積だ。国が汚染土壌の中間貯蔵地を設け、その周辺に関連する企業の集合体を作ることが考えられる。福島には製薬会社などいろいろな企業が来ている。日本は労務慣行も環境もいい。海外から引っ張ってくることもできる」
――複数の金融機関が関わる企業再生をどう進めればいいか。
「不良債権処理をやってきて、大手銀行の逃げ足の速さにしばしば泣かされた。地域の企業まで再生すると手間暇がかかるので間尺に合わないのかもしれないが、困ったときには一緒に助けてやってほしい」
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