出生率改善止まる 団塊ジュニア、不況で出産二の足

出生率の上昇が4年ぶりに止まった。2009年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むとされる子供の数)は前年と同じ1.37。景気後退で20代の若年層が出産に二の足を踏み、出生率の上昇を引っ張ってきた団塊ジュニア世代の出産にも陰りが見える。今後、団塊ジュニアが40代に差しかかり、出産適齢期の人口減少が加速する。政局の不透明感が強まるなか、少子化対策も待ったなしの状況だ。
厚生労働省が発表する合計特殊出生率はその年の出産期(15~49歳)の女性の出産傾向が続いたと仮定し、1人の女性が生涯で何人の子供を産むかを推計したものだ。05年に過去最低の1.26になった後、06年から3年連続で上昇した。
出生率の上昇が止まった最大の理由は、30歳未満の女性が産んだ赤ちゃんの数(出生数)が大幅に減ったことだ。09年の15~29歳の出生数は08年と比べて1万8680人減少し、前年比の減少数は08年(7561人)の2.5倍になった。
30代上げ幅鈍化
晩婚化が進み、30歳以上の出生率は09年も上昇したが、上げ幅は鈍化した。特に30代後半の団塊ジュニア世代で陰りが目立つ。第2次ベビーブーム期に生まれた団塊ジュニアは前後の世代よりも人口が多く、出生率のカギを握る。だが35~39歳の出生数の前年比増加数は9300人で、08年比で3割強減った。
背景には「不景気の影響がある」(第一生命経済研究所の松田茂樹主任研究員)。雇用の悪化や賃金の減少で将来の生活への不安が広がり、出産を手控えた家庭が増えた可能性が高い。
出生率の上昇ストップには、労働市場の構造変化も影響した。非正規社員の割合は労働者全体の3割を占め、24歳以下では5割に達する。30~34歳の男性のうち、配偶者がいる割合を厚労省が調べたところ、正社員の60%に対し、非正規社員は30%。無職の人は15%だった。結婚の減少で出生数が増えず、出生率も伸び悩む構図だ。
団塊ジュニアが年齢的に安全に出産できる「期限」は確実に近づいている。この世代の出産適齢期に間に合うように対策を打たないと、出生率を再び上向かせることは難しい。25~39歳の女性の人口は今後5年間で約145万人減り、約1090万人に落ち込む見通しだ。少子化対策は時間との競争になっている。
政府は6月に支給を始めた子ども手当をきっかけに、出生率の底上げを狙う。だが「財源が不確かで、今後は増税もあり得る。恒久制度になる保証もなく、出生率の上昇につながらない」(大和総研の是枝俊悟研究員)との見方が根強い。まず恒久財源を確保したうえで、腰を据えて少子化対策に取り組まないと効果は見込みづらい。
認可保育所に入れない待機児童の解消も、出産を促す環境整備として欠かせない。神戸大学の宇南山卓准教授は「大都市に保育所を集中整備すれば、出生率は1.62まで回復する」と試算する。現金給付と施設整備のバランスをいかに取るかが課題になる。
経済の安定カギ
そして何よりも子供を増やすには、安定的な景気回復が不可欠だ。出生率が2を超え、先進国の中で「少子化対策の優等生」といわれたフランスも金融危機後の世界同時不況で、09年の出生率は1.99に下がった。
日本で長期的に人口を保てる出生率は2.07。そこまで一気に上げることは難しいが、少子化に歯止めをかける対策を急がない限り、人口減少による経済停滞への懸念と将来不安による出産の見合わせという負の連鎖を断ち切れなくなる。