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「自己分析」に頼るより「好き・嫌い」から始めよう

石黒謙吾氏インタビュー

 仕事を、会社を、業界を、そして、自分の将来を選ぶ。就職活動は「選択」の連続で成り立っている。何を基準に選択をしていけばいいのか? 選択する勇気はどうすれば持てるのか? 「選ぶ」と言えば、編集者。思いや特徴を他人に伝えるために企画や言葉を取捨選択するプロだ。『盲導犬クイールの一生』(文藝春秋)をはじめ、160冊以上の書籍を執筆・プロデュース、編集してきた石黒謙吾さんが語る、「選ぶこと」と「好き嫌い」の関係の、目からウロコの考え方を聞いてみよう。

なぜ自己分析がうまくいかないのか

──「いくら情報を集めても、自己分析をしても、何を基準に仕事を選べばいいのか、分からない」と、選択に悩んでいる学生によく出会います。

石黒 若い人たちが大変な状況にあるというのは理解しています。「なぜこんな苦労をしなきゃいけないんだ」と言いたくなる気持ちも分かる。

でも、いつまでも選べず、迷い続けてしまうのは、ロジックに頼って先に計算してしまうからだと思います。まず「好き」か「嫌い」かで、ものを見ればいいんです。

──学生は「自分の生まれた時から現在までで、嬉しかったこと、感動したこと、将来どうなりたいか」を年表につける「自己分析」で、論理的に適職を見つけようとしているのですが、それではいけませんか?

石黒 うーん、それをやると、今なんとなく頭の中で考えている企業や業界に合うような経験を、無理やり思い出そうとするでしょうね。で「あ、やっぱり俺は商社に向いている」とか。興味が変われば「いや、やり直したらメーカーだったぞ」となる。筋書きありきの「後づけ自己分析」になってしまいます。

「好き」「嫌い」は、理屈ではありません。今までの人生で自分が経験したことが、たくさん重なって生まれる、心の動き。それが「直感」と言われるものなのです。

何にしても、たくさん候補があって選べない時は、まず自分が「こちらが心地良いなあ」と思う「好き」なほうと、そうでないほうの2つに分けてみる。この「二択」を繰り返して、最終的に1つを選ぶことを、選択の基本に置けばいい。

 選択に迷う。どうしても不安が拭い去れない。現実に押しつぶされて次の一歩が踏み出せない。そういう時は、シンプルに考えてみればいいのだ。「私は何が好きで、何が嫌いなんだろう」と。
 選べないのも、不安に思うのも、一歩が踏み出せないのも、無理して好きでもないことをやろうとしているからではないだろうか? 就職活動の最初のボールは、企業ではなくあなたの側にある。どこを受けるかはあなたが決める。だから「私はこういうことが好きだ!」から、始めてみればいいではないか。

意外に知らない、自分の「好き嫌い」

──好き嫌いはこれまでの体験の蓄積で、間違いなく誰もが持っている。まずはそこからスタートしようということですね。

石黒 例えば、お店でもそうですよね。路地裏にあるシブイ雰囲気の店が好きな人もいれば、表通りの華やかな造りの店が好きな人もいる。服装だってそうです。自分の好みの洋服があるじゃないですか。その「好み」が明確な人ほど、就職活動でも苦労しないでしょう。選び方を知っていますから。問題は、普段から自分の好き嫌いを意識しないで、「なんとなく」選んでいる人たちだと思います。

──普段から選んでいないから、いざという時も選べないままでいる。

石黒 そうです。選ぶ力は、日ごろからの小さな積み重ねの中で養われていくものですから。

──今から「選ぶ力を身につけたい」と思ったら、、どんなことができるでしょうか。

石黒 目の前にあるものを、好きか嫌いか全部決めていくといい。身近な例ならば、電車に乗ったら、男性だったら女性、女性だった男性を見て点数を付けてみる。ぼくは必ずと言っていいほどやっています(笑)。「おっ、28点」とか「この人は98点」とか。点数をつけたら、なぜその点数になったのかを考えてみる。こっちの点数が高くて、あっちが低いのはなぜか。そうしたら見えてくるんです。自分の中で「異性の外見について、どこが好みのポイントなのか」が。

異性に限らず、何を見ても「どっちが好き?」と自分に問う意識を積み重ねていけば、好き嫌いに敏感になり、直感が鋭くなって、自然に自分にとって心地良いほうを選ぶ力がつくでしょう。いわば、選択の筋トレですね(笑)。

──選ぶ基準は、本当に自分だけの勝手な価値観でいいんですか。

石黒 もちろん。「好き嫌い」は自分だけが納得できればいいもので、パブリックな、他人に賛成してもらうためのものではありません。そこには正解も不正解もないんです。

例えば、ぼくは洋服を「似合うかな」と考えて買ったことは一度もありません。似合うかどうか、つまり、他人からどう見えるのかは考えず、好きなものを買います。もちろん、外すこともたくさんありますよ。「俺、何を着てるんだ?」って(笑)。でも、いいじゃないですか。ぼくが洋服に合わせることはない。洋服はぼくが自分の好みで選ぶものなんですから。

会社や仕事選びも同じですよ。この会社の雰囲気が好き。働いている人たちの表情が好き。それでいいと思う。理屈じゃなく、他人の意見でもなくて、「自分が」好きだ、と思える部分がより多い会社を選べばいいんです。

──でも「好きだから受けました」と言ったら、企業側はどう思うんでしょうね。やっぱり、納得できるロジックを志望動機には求めるのでは。

石黒 ぼくは案外「インスピレーションで御社を選びました!」と言っても、印象は悪くないんじゃないかと思います。フィギュアスケートの規定演技をこなすような志望動機を聞かされ続けているでしょうから、かえって目立つかも。ただし、苦し紛れで言っても見抜かれる。本当に自分の直観がその会社を指しているなら、「同業他社よりここのほうが好きな理由」から考えれば、説明できると思います。自己分析と似ていますが、あくまで「好き」が先なんですよ。

 好きか嫌いかの判断を積み重ねていけば、世の中の評価軸と違う、自分だけの尺度が見えてくる。「自己分析」にもつながっている。
 自分の人生を振り返ってみればいい。どんなスポーツが好きだったか。それは個人競技か、団体競技か? どんなアニメが好きだったのか。ストーリー性の高いものか? それともハチャメチャのコメディーか? これまでの人生の中で、皆さんも好き嫌いの判断をしてきた。その都度、あなたの中に無意識のうちに「好み」が形作られていったはず。その最新版が、今のあなた。

──今までやってきたことの蓄積が好み、好き嫌いを生む。ということは、好みはいくらでも変わるってことですよね。

石黒 そうです。好みは生まれつきではなく、後天的なもの。新しい体験をして刺激を受ければ、どんどん変化します。だから、昔の好みにとらわれず、今の好き嫌いで考えるほうがいいし、今の興味の範囲からわざと遠ざかっていったほうが、新しい「好き」が生まれるでしょう。そして知らない分野でも「自分は、これとこれだったらどっちがいいかな」を意識すると、面白くなってくるものですよ。

全責任を自分で負うから、自分で選べる

──しかし、好き嫌いの基準は誰でも持っているはずなのに、例えば「やりたい仕事」を選べなくなっているのはなぜなんでしょう。

石黒 代表的なのは「偏差値」だと思うんですけど、人より上だとか下だとか、生まれた時から物事を優劣で見ざるを得ないように育てられてきたから。だから、すぐに「いい会社」という言葉が出てくる。規模が大きくて給料がいいとか、そうしたいわゆる「待遇」と「絶対的な満足感」は別なものなのに、そこに考えが及ばない。年収が300万円で満足して暮らせる人もいるし、1000万円あっても不満ばかりの人もいるんです。

──「いい」「悪い」は、先ほど出てきた、ほかと比較しての判断ということですね。

石黒 そうです。自分の中にある尺度での判断ではありません。「いい会社」という優劣で見ると、上には上があるわけですから、もうキリがない。ならばいっそ「面白い会社」で選んだほうがいい。

自分の好き嫌い、感性で「面白い会社はないか」と探してみたら、今まで見えていなかったところに自分にピッタリの会社があるかもしれない。そんな視点で会社を見直してみてもいいと思いますね。

──「安定が大事」という言葉も学生から良く出てきます。

石黒逃げ道を作っているんですね。いい会社に入れなければ、お金がなければ幸せになれないなんて、最初から逃げている。最後は不幸の原因を「会社」や「金」や「社会」のせいにすればいいだけですから。

好き嫌い、面白い面白くないという、自分だけの価値観や尺度で、選択、決断するということは、自分の責任において決める、ということです。逃げ道を作らない。覚悟を持って、何事も自分自身で選ぶ。

それで失敗してもOKなんですよ。よく「心が折れそうだ」という人がいますが、そんなに簡単に折れやしません。だって世の中のほとんどのことはうまくいかないんですから、その度に心が折れていたら、みんなこんなに長生きしてません(笑)。

──失敗するのは当然、だけど、失敗の仕方が大事なのかもしれませんね。

石黒 失敗したらその理由を考え、次は間違わないように努力する。成長とはそういうことでしょう。「選んだ会社が悪かった」ではなく「選んだ自分がバカだった」と考える人は、伸びます。

だから、すぐに成功しようなんて思わずに、まずは失敗するものだと気楽に構えて始めたほうがいい。あれだけ猛練習しているイチローだって10打席のうち6打席は必ず失敗するんですよ。誰でも失敗のほうが多くて当たり前で、恥じることでも恐れることでもない。それよりも自分が「好き」じゃないほうに行くことを恐れるべきじゃないでしょうか。

 選ぶこと、決断することには覚悟がいる。でも、そこで選択から逃げていいのか。選択の中心に「自分」がいなくて、いいのだろうか。自分で決める。失敗することを覚悟して選ぶ。それが失敗しても後悔しない、唯一の選択だ。

──就活情報は世にあふれています。自分の責任において選択するためには、情報がありすぎるのも考えものかもしれません。

石黒 全部見たい、全部見て、全部の方法論を手に入れて、その中からベストなものを選びたい、と焦っちゃうんですよね。

誰かの価値観にとらわれがちだと感じたら、そういう情報から距離を置いたほうがいいと思います。ぼくもたまにやるんですけど、携帯の電源をOFFにして電話もメールもしない、パソコンもやらない、何もしないでぼーっと自分と向き合う日というのを作ればいい。朝から夜まで何もせず、例えば「どんな会社に行ったら楽しいか」「どんな人生にしたいか」を、じっくりイメージしてみればいいんです。

他人より、自分の「好き」を信じよう

石黒 情報がありすぎて困るというのは、他人の言うことを鵜呑みにするからでしょう。自分が積み重ねてきた感性や判断力をもっと信じたほうがいい。ぼくは本を作るときは、版元さんや編集長と意見が違っても、自分が「こちらがいい」と思ったら、意見は言います。結果はどう転ぶか分かりませんが、自分の考えはクリアですし、そうしないと、失敗した時に誰かのせいにしてしまいがちなので。

就職活動でも同じことが言えると思います。自分自身が納得できるレベルまで「好き嫌い」の基準をハッキリさせておくと、面接においても言動が揺るがなくなります。すると、企業に合わせた物言いをするより、間違いなく好印象を与えます。もし、好き嫌いを率直に出してハネられるなら、そこは、入るべき企業じゃなかったと考えればいいんです。

他人の基準に合わせるのではなく、「僕はこれが好きなんです」でいいじゃないですか。どんな人生が良くて、どんな人生が悪いのかも、人に決めてもらうことじゃない。幸せの尺度は、自分が設定するものなのです。

石黒謙吾(いしぐろ・けんご)
 1961年生まれ。著述家・編集者。著書に『2択思考』(マガジンハウス)『盲導犬クイールの一生』(写真:秋元良平、文藝春秋)『エア新書』(学研)『ダジャレ ヌーヴォー』(扶桑社)など。

(ライター 双里大介)

[日経ビジネスアソシエ特別編集 みん就データブック2012の記事を基に再構成]

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