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マクドナルド、カウンターのメニューが消えた理由

狙いは顧客満足向上、広がる戸惑いの声

「マクドナルド」の店舗で10月初め、レジカウンター上にあったA3サイズのメニューが姿を消した。戸惑いの声はネット上で渦巻き、波紋が広がる。日本マクドナルドが狙ったのは顧客満足の向上で、替わりに大型のメニューポスターや手に取れるメニュー表を用意した。客の拒否反応は一過性のものなのか。狙い通りの効果はあるのか。取り組みの背景から探ってみる。

「分かりにくい」と話題

レジ待ちの行列ができるマクドナルドの店舗

「学校ですごく話題になってる。もっぱら『分かりにくくなった』と評判」。10月中旬の平日、マクドナルド新宿大ガード西店(東京・新宿)を訪れた男子高校生3人組はこう語る。

大型のこの店舗では、カウンターの頭上にあるメニューボードに季節限定のハンバーガーにポテトと飲み物を合わせたセットや、飲み物の種類などが表示されており一見、不便はなさそうだ。しかし「ハンバーガー類の単品価格が分からないし、見上げるよりカウンターメニューに視線を落とす方が断然楽」というのが高校生の言い分だ。

5歳と3歳の子供を連れて高輪ウイング店(東京・港)を訪れた主婦(32)は「子供と一緒にのぞき込めるメニューがなくなったのは残念。言葉が十分でなく、メニューを見ながら指さしで決めさせることが多いので」と話す。

もちろん「不便はない」との声もある。「レジのメニューがなくなったのに気づかなかった」と話すのは巣鴨店(東京・豊島)に来店した70代の夫婦。「頼むメニューは決まっている」ので、文字が小さいカウンターメニューは見ないという。

頻繁にマクドナルドを利用する常連客ほど、カウンターメニューを必要としていない。「頼むのは常にビッグマックのセット。価格も分かっている」(男性会社員、24)、「カウンターにメニューがあると、注文を決めていても、また悩んじゃう」(女性会社員、45)などの意見が目立つ。

ただ、都内の店舗でアルバイトとして働く大学生は10月1日以降「メニューが見づらいという苦情が多い」と漏らす。カウンターのメニューがない今は頭上のメニューボードを左右に見渡さなければならず「レジ前で動いて眺める人もいる」という。

注文を受けるスタッフの間で混乱はないというが「メニューボードに価格が書かれていない商品もあり、(カウンターメニューは)あった方がいい」と話す。

「注文ストレスなくす」

現在、マクドナルドは約3300店のうち、3100店でカウンター上にメニューを置いていない。狙いは何か。日本マクドナルドはこう説明する。「目的はお客様にカウンターでストレスなく注文してもらうこと。列に並んでいる間に触れるメニューの情報量を増やし、考える時間を持てるようにした」

店内にメニューが見られるポスターを設置(東京都新宿区の新宿大ガード西店)

カウンターにたどり着いてからメニューを見て注文を考えようとしても、後ろの行列が気になって客はストレスを感じる。その解決策として、新方式を編み出した。

同社の原田泳幸会長兼社長は以前から「1秒早く商品を提供すれば、全店で8億円の増収につながる」と口にしてきた。業務効率化により、マクドナルドで店員が注文を受けてから商品を提供するまでの時間は1分以内と、ファストフード他社に比べても断然短い。

一方で、店側の努力が及ばないのが、客がカウンター前で悩む時間だ。店舗で見ていると順番が来るまでスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)をいじっていたり、友人との話に夢中になっていたりと、とても注文を考えながら並んでいるとは思えない。

「注文を受けた後」だけでなく「注文するまで」の時間も短縮できたら、回転率の向上につながる――。そこに着目したという解釈も成り立つ。

レジ待ちの間にメニューを見られるようにA4サイズのメニュー表を用意(新宿大ガード西店)

日本マクドナルドは「カウンターでじっくり考えていただくのは、まったく問題ない」と反論。それよりも「カウンターに到着する前に十分なメニュー情報があれば、お客様がストレスなく注文できる」という。ただ、「十分なメニュー情報」の一部にカウンター上のメニュー表も含まれるはずで、同社の説明は「なぜメニューを撤去しなければならなかったのか」を説明する理由としては不十分にも映る。

では、カウンターメニューに替わって、何を頼りに注文するのか。まずはカウンター奥の上部にあるメニューボードだ。大型店では7枚程度あり、目立つ位置には期間限定などお薦め商品のセットメニューが載る。

カウンターメニューを撤廃した10月1日以降はイーゼルなどを使い、全メニューを表示した大判のポスターをカウンター前に設置した。並んでいる間に見て注文を決められるようにという配慮だ。

1日以降は「分かりにくい」などの声がネット上で広がり、日本マクドナルドにも同様の意見が寄せられた。同社も「カウンターに行くまでに(ポスターで)メニュー情報が得られると十分にお客様に認知されたか、反省も残る」と話す。

 そこで5日ごろからは入り口とカウンターの動線上に、プラスチックのB5サイズのメニューを客が手に取れるように箱に入れて配置。列に並びながら見られるようにした。プラスチックメニューは注文時に返却する。10月中旬からは返却不要の紙のメニューも置いている。

日本マクドナルドホールディングスの既存店売上高は9月まで6カ月連続で前年を割り込んでいる。ただ、5月以降、客数は前年を上回っており、前年割れの大きな要因は客単価の下落だ。

いちよし経済研究所の鮫島誠一郎主席研究員は、同社の狙いには(1)マクドナルドに慣れていない高齢者対応(2)単価の高いセットの訴求――の2点があるとみる。

客数の増加が示す通り、カフェ利用の中高年などマクドナルドの客層は広がっている。こうした新規層は、まだ注文の仕方に慣れずカウンターで時間を取り、行列を長くしている可能性は否定できない。一方で、セットを大々的に訴求する頭上のボードに頼って注文する客の増加は単価の押し上げ要因になる。

日本マクドナルドは「たとえ増収になっても結果の話。お客様のストレス解消が第1の狙い」と強調する。顧客の満足度や客単価、客数はどうなるか。さらに検証する価値のある取り組みではある。

(松本史、上野宜彦)

[日経MJ 2012年10月17日付]

大きく、しぶとく、考え抜く。―原田泳幸の実践経営論

著者:原田 泳幸.
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,680円(税込み)

マクドナルドの研究 原田マジック“最強”経営の真髄

日本経済新聞社/日経BP社 編
税込価格:600円

日本マクドナルドの成長をリードする「原田マジック」とは? 日経新聞などの記事をまとめた

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