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一定の効果はあった釜石の湾口防波堤

三陸海岸沿いのほとんどの集落が原形をとどめない壊滅状態に陥るなかで、岩手県釜石市の釜石港後背地の中心市街地は、アーケードの商店街などの町並みをかろうじて残していた。2009年に完成したばかりの「湾口防波堤」が、津波の軽減に一定の効果を発揮したとみられる。

湾口防波堤は、湾の入り口付近に設ける津波対策の防波堤だ。湾の奥行きと水深で決まる湾の固有周期と共振する津波の襲来を防ぐ。湾の固有周期と共振する周期の津波が来れば、津波が湾奥で増幅するからだ。

釜石湾の湾口防波堤は、1200億円以上の総事業費と約30年の歳月を費やして09年3月に完成した。全国で初めて耐震設計を採用。最大水深63mはギネス記録に認定された。

三陸では釜石港のほか、大船渡港と久慈港に、湾口防波堤がある。ただし、大船渡港の湾口防波堤は完成から40年以上経過し、老朽化に加え耐震性にも問題を抱える。久慈港の湾口防波堤はまだ建設中だ。

ケーソン"水没"するも水面下で耐える

遠くの高台から釜石湾の湾口防波堤を見た。北堤はところどころでケーソンが沈んでいる。南堤は開口部付近で残っているが、あと半分ほどあるはずの堤防が水面上に見えない。

港湾空港技術研究所などの調査団が船で近くまで行って調べたところ、全長990mの北堤はケーソン44函のうち7函ほどはほぼ原形をとどめているが、それら以外はほとんど移動している。全長670mの南堤は22函のうち半数以上のケーソンが水面上から姿を消していたという。

湾口防波堤に沈下や傾斜などの被害が生じているが、津波被害の軽減に効果はあったのか。東北大学大学院の今村文彦教授は、あったと推察する。「水深63mある防波堤のうち、水面上に見えているのはほんの一部。破壊されたわけではない」とみる。

津波高さを最大6m軽減したと推定

港湾空港技研は沖合に設置しているGPS(全地球測位システム)波浪計による津波観測値から、もしも湾口防波堤がなかった場合の湾奥部の津波高さを推定した。

釜石沖約20kmでの津波高さは6.6m。湾口防波堤がなかったら、沿岸で約13mの高さの津波が襲来すると推定される。湾口防波堤がある実際は、沿岸の浸水高さは実測で7~9mだった。つまり、湾口防波堤によって最大6mほど津波の高さを抑えることができたと言える。

浸水高さが13mならば、一般的な2階建ての木造住宅を完全にのみ込む高さになる。7mならば2階の上部までの高さだ。

湾口防波堤が津波被害の軽減にある程度の効果を発揮したのは間違いなさそうだ。しかし、30年、1200億円もの年月と費用をかけ、ほかの都市よりは津波の浸水を抑えられたとはいえ被害は甚大だ。ハードによる津波対策の限界を示したとみることもできる。

(日経コンストラクション 渋谷和久)

[ケンプラッツ 2011年3月31日掲載]

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