始まった位置認識と画像認識の融合 モバイルAR(4)

2010/7/1 7:00
保存
共有
印刷
その他

KDDIは7月1日、一般の携帯電話でAR(Augmented Reality、拡張現実)技術を利用できるアプリケーションの提供を始める。頓智・(とんちどっと、東京・新宿)と提携して開発した「セカイカメラZOOM」と呼ぶアプリで、ディスプレーに映した実空間に「エアタグ」と呼ぶ写真やテキストを重ね合わせて表示する。米クアルコムのアプリ実行環境「BREW4.0」を搭載する携帯電話にダウンロードして使うことができる。

KDDIが7月1日から提供する「セカイカメラZOOM」の画面

KDDIが7月1日から提供する「セカイカメラZOOM」の画面

このアプリはKDDIとKDDI研究所が共同で開発してきた携帯電話向けのARプラットフォーム「実空間透視ケータイ」を活用している。ただ対応機種の一部は電子コンパスを搭載していないため、端末の向きを認識できない。そこで携帯電話の左右キーを使いユーザーの周辺にあるエアタグを探す仕組みで代用することにした。

これまでモバイルARアプリを利用できる端末は、高機能な一部のスマートフォンに限られていた。KDDIはその枠を取り払いARアプリを一般の携帯電話へと広げようとしている。モバイルARを「実空間を使ってウェブにアクセスするブラウザー」(KDDI研究所のWebデータコンピューティンググループの小林亜令主任研究員)ととらえ、新たなコンテンツの流通プラットフォームにすることをめざしている。

気圧センサーやジャイロセンサーが登場

KDDIが2010年夏モデルの携帯電話として開発した「SOLAR PHONE SH007」には、「気圧センサー」が搭載された。もともとアウトドアで使うことを想定したものだが、「ビルの1フロアを上下したかどうか」という精度で垂直方向の移動を検知できる。このセンサー機能をモバイルARアプリに応用すれば、「今、ビルの何階にいる」ということまでわかり、全地球測位システム(GPS)にはできない新たなサービスの開発に結びつく可能性もある。

KDDIが発表した携帯電話「SOLAR PHONE SH007」。気圧センサーを搭載している 

KDDIが発表した携帯電話「SOLAR PHONE SH007」。気圧センサーを搭載している 

アップルは6月に発売したスマートフォン「iPhone4」に、端末の向きの変化を計測する「ジャイロセンサー」を搭載した。これと加速度センサーと組み合わせれば、端末の前後左右上下の6軸の動きを詳細に検出できる。「従来はこっちの方向にものがあるはずといった程度だった精度を、矢印で指し示すくらいに高められる」と、高機能なセンサーの普及に期待する声は多い。

アップルの「iPhone4」はジャイロセンサーを搭載する

アップルの「iPhone4」はジャイロセンサーを搭載する

複数のセンサー情報を掛け合わせれば、モバイルARの機能はさらに進化する。KDDI研究所が進めているのは「GPSを使わない位置追跡の研究」(小林主任研究員)だ。無線LAN基地局の情報や電子コンパスで把握した地磁気、加速度センサーで計測した方向を掛け合わせて、ユーザーが歩行しているか止まっているか、携帯電話をどのように持っているかを推定する。進行方向や歩幅、歩数を検出する技術の精度を高めれば、基準点からの相対的位置を追い続けることも不可能ではない。

画像認識方式のモバイルARでも、実空間を使ってシーン解析をするPTAM(Parallel Tracking and Mapping)といった技術が登場している。また、特定の場所から見える風景を稜線(りょうせん)や町並みなどから解析し、現在地を特定する「景観認識」の研究も進んでいる。

ただ、景観データを使って任意の位置を特定するには膨大なデータを処理する必要があり、そのままでは非現実的だ。そこで位置情報と画像認識を融合して、ARの精度を高めようとする取り組みもある。

画像A 2008年に東京大学暦本研究室が実施したマーカーレス型ARの研究事例(シーン抽出パターンマッチ技術によるAR研究)。東京・渋谷のビルにコンピューターグラフィックスを重ねている

画像A 2008年に東京大学暦本研究室が実施したマーカーレス型ARの研究事例(シーン抽出パターンマッチ技術によるAR研究)。東京・渋谷のビルにコンピューターグラフィックスを重ねている

例えば、渋谷駅前(東京・渋谷)のスクランブル交差点でモバイルARアプリを起動し、まずGPSや電子コンパスでおおよその場所と向きを把握して、景観データを絞り込む。次にカメラで読み取った実映像と絞り込んだ景観データを照合して端末の位置情報を補正する。これにより、周辺のビルに合わせて広告を表示するといった機能も実現できるようになる。画像Aはあらかじめ渋谷のある地点から景観の中にある目印(特異点)を検出し、特定の場所に重ねてコンピューターグラフィックス(CG)を表示するデモだが、技術が進化するとこうしたサービスを場所を問わずに提供できるようになる。

ユーザーの行動を拡張してこそAR

技術やサービスが進化すれば、モバイルARで提供されるデジタル情報は飛躍的に増えていくだろう。米ジオベクターは、そうした情報にシステムで優先度を付けてユーザーに働き掛ける「Importance」と呼ぶ技術の特許を申請している。

例えば、ユーザーがゴーグルをかけて行動しているときに「爆弾」を発見すると、他の情報より優先して警告する。特に重要と思われるものを見つけると、ほかよりも解像度を高めて表示するといったユーザーインターフェースも施すという。「ARであり余るほどの情報が提供されるようになると、3~5秒程度で何が重要かを判断してユーザーに示す技術が重要になる」(パトリック・ブレイ国際事業シニア・ディレクター)。

現在のモバイルARは、エンターテインメントの要素が強く、今の携帯電話でできる範囲のサービスを提供しているにすぎない。人間の知覚や行動の限界を拡張するには、今後も様々なブレークスルーが必要だ。例えば携帯電話のディスプレーをかざす必要がないユーザーインターフェースなど、端末の形状一つとっても条件が整うまでには時間がかかりそうだ。

以前からARを研究している技術者は「ARでやるべきことは、コンピューター技術を使った実世界への物理的な刺激。現状ではまだできていないのが残念」と指摘する。特に肌身離さず持ち歩くモバイル機器だからこそ、人間の次の行動を支援する役割が求められる。

保存
共有
印刷
その他

関連記事

電子版トップ



[PR]