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ゲームで社会をよくする「ゲーミフィケーション」

ゲームジャーナリスト 新 清士

「EVOKE」の公式サイト画面

「ゲーミフィケーション(Gamification)」という考え方が米国などで注目されている。これは、ゲームをおもしろくするために使われる技術やノウハウをゲーム以外の分野に応用していこうとする取り組みのことで、ビジネスへの利用だけでなく、社会をよりよくするための活動に生かす実験も進み始めた。

ゲーム的な方法論をゲーム以外の分野に持ち込もうとするアイデアは日本にもある。立命館大学のサイトウアキヒロ教授は「ゲームニクス」という考え方を提唱し、任天堂に代表されるゲームを一般のカーナビや家電製品などに応用しようと試みている。このゲームニクスが主に、直感的で使いやすいゲームのユーザーインターフェースに注目したのに対し、ゲーミフィケーションはユーザー心理をかき立てるゲームデザインを利用しようとしているところが少し違う。

具体的には、ゲームをクリアしていくとスコアが上がる「実績システム」、ユーザーを特定行動に方向付ける「レベルアップ」、ユーザー同士を競い合わせる「スコア表示」、ゲームを持続させる「モチベーション」を引き出す仕組みなどだ。こうしたゲーム的要素はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を中心に利用されつつあり、さらに幅広いビジネスに展開しようとする企業も増えている。

代替現実ゲーム「EVOKE」の実験

さまざまな社会問題の解決のためにゲーミフィケーションを実際に使う人も現れ始めた。オンラインゲームのデザイナーであるジェーン・マクゴニガル氏もその一人だ。

「ゲーム開発者会議(GDC)2011」で講演するジェーン・マクゴニガル氏

今年2月末に米サンフランシスコで開かれた「ゲーム開発者会議(GDC)2011」で、マクゴニガル氏は「ゲーム的なデザインは、生活を変え、現実を変え、ゲームの考え方を変え、世界さえも変える力を持ちうる」と述べた。オンラインゲームでは毎週、世界のユーザーが合計30億時間も費やしている。ゲームデザインをうまく利用することで、そのエネルギーを社会に役立つ価値を生み出す方向に持っていけるという主張だ。

その実践として、マクゴニガル氏は2010年、世界銀行の支援を受けて「EVOKE」というゲームを発表した。これは「代替現実ゲーム(Alternative Reality Game )」と呼ばれるジャンルのゲームで、仮想の世界設定を現実世界に持ち込んで、現実生活のなかでゲームを進めていく。EVOKEでは、ブラウザーを使ったオンラインゲームの仕組みとプレーヤーの実際の世界をリンクさせている。

ゲームのプレーヤーは、2020年に社会が直面する危機について解決案を模索して、他のユーザーと議論や協力をしながら現実世界でできる行動を考えるように促される。テーマは「食の安全」や「電力不足」など週単位で変わり、解決策や2020年の予想、現実世界で実行したことなどを投稿していく。投稿内容には他のユーザーからポイントが付き、自分のアイデアへの評価を知ったり、相対的な位置づけを理解したりできるようになっている。

このゲームは10週間続き、世界130カ国・地域以上から1万9893人が参加した。ゲームをきっかけに、フィリピンでは初等教育に取り組む企業が生まれ、南アフリカでは貧困層の子育て環境を改善する取り組みが始まるなど、発展途上国を中心に20以上の社会プロジェクトが立ち上がったという。

マクゴニガル氏は「ゲーミフィケーションを機能させるには4つの要素が必要だ」と指摘する。(1)自ら達成したいと感じさせるための「しつこいまでの楽観性」、(2)あまり負荷をかけずに新しい能力が得られていく「至福の生産性」、(3)ユーザー同士が自分の居場所を確かめられて、それが次のモチベーションを生み出す「ソーシャル性」、(4)未来や世界といった壮大なスケールを持ち、関わることが楽しくなる「ストーリー性」――だ。これらを組み込むことで、ゲームユーザーに自らのプレーに対する責任を感じてもらえるようになるという。

震災後に登場した「節電ゲーム」

節電ゲーム「#denkimeter」の公式サイト画面

日本でも同じような方法論の取り組みを目にすることができる。今回の東日本大震災で節電の必要が叫ばれるなかで登場したのが、ミニブログ「ツイッター」と連動した節電ゲーム「#denkimeter」だ。

自宅の電力メーターを1時間や1日ごとにチェックして、その数値をツイッターにつぶやくとともに公式サイトに入力すると、節電の「戦闘力」が算出される。電力使用量をパラメーターに使ってユーザー同士で獲得ポイントを競い合う仕組みで、ゲームデザインを担当した国際大学GLOCOM研究員・助教の井上明人氏は、開発の狙いを「節電を楽しむものにできれば」と語っている。

現状では、自宅にいないとプレーできず電力使用量の入力が手作業になるなど、ゲームとしての課題は多い。しかし、近くアップルのスマートフォン「iPhone」向けアプリの公開を予定しており、記録の煩雑さなどを軽減して多くの人に遊んでもらえるように準備を進めている。

ゲーム的な要素を社会活動の手段として使う試みは、ソーシャルメディアの普及とともに今後、日本でもさらに増えていくだろう。その効果を引き出すためには、ゲームデザインについての研究をさらに深め、共有化していく必要がある。「ゲームは社会をよい方向に変える手段になり得る」と言うマクゴニガル氏の提案は一見すると夢想的にも映るが、大震災に直面した日本のソーシャルメディアを見ていると、決して実現不可能なビジョンではないと感じられてくる。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(igda日本)代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。

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