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再生エネ、収益は地域のために 長野で始まった挑戦

2012年7月に始まった太陽光、小水力など再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を巡り、一部の地方自治体が新たな取り組みを始めている。公共施設の屋根貸しや、公有地の貸し出しは盛んに行われているものの、地元に落ちる収益は少なく、雇用もさほど生み出さないことがわかってきたためだ。どうすれば地域に利益を還元できるか。モデルとなる長野県内の2つの事例を追った。

小水力でバス増便を

「上村(かみむら)といえば、小水力発電と言われるようにしたい」。長野県飯田市の上村地区。地元住民による協議会の会長を務める前島忠夫さんはこう話す。飯田市の中心部から車で30分余り、「遠山郷」と呼ばれる山間部を流れる小沢川で住民による発電所の建設計画が進んでいる。建設費用は約2億3000万円。最大出力は約150キロワットで一般家庭約280世帯分の電力が賄える。必要な資金は融資のほか、ファンドを設けて全国から投資を募る。電力はすべて売却して利益を配当に充てるほか、地域振興にも使おうという構想だ。地域のバスの増便や公民館の改修などが案に挙がる。

構想のお膳立てをしたのは飯田市だ。4月に「再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」を施行した。再生可能エネルギーを地域住民共有の財産とみなし、地域住民が優先的に活用する権利「地域環境権」をうたっている。

これを後押しする仕組みとして発足させるのが、諸富徹京大大学院教授らによる支援組織「再生可能エネルギー導入支援審査会」だ。

建設資金調達のためのファンドへの出資は、あくまで投資家がリスクを負う。ただ、事業内容は事前に市長の諮問機関である審査会が採算性や公益性をチェックする。審査に受かれば、市が「公民協働事業」と位置付けて支援する。幅広く出資を募るビジネスモデルにはうさんくささが漂いがちだが、市のお墨付きにより信頼性が高まり、資金調達もしやすくなるという仕組みだ。

自治会に法人格、事業主体に

飯田市のもう一つの仕掛けが、自治会などに市長が法人格を与え、売電事業の主体にする点だ。住民が主導して計画を進めるには、共同出資で会社をつくる手もあるが「かなりハードルが高い」(地球温暖化対策課)。そこで、地方自治法では、市長の権限で自治会などに「認可地縁団体」として法人格を与えられる点に着目した。もともとは地域の共用施設を登記する場合に、自治会に法人格がないと不便だとの観点から設けられている制度だ。自治会が法人格を持てば、金融機関が融資しやすくなるうえに小水力発電の設備を自治会名義にすることも可能になる。

上村地区を第1号として、飯田市は数件の地域主導の発電プロジェクトを検討中。担当者は「(多くのプロジェクトで)電気は大都市に運ばれてしまい、利益も十分に地域に還元されないことが多い」と、企業を誘致して発電所を建設する方式をとらない理由を説明する。

太陽光で土地公社の借金返済

4月2日、長野県富士見町でメガソーラーの起工式があり、約50人が出席した。出力は2メガワット。事業主体は町が全額出資する第三セクター、富士見メガソーラーで11月1日の発電開始を予定している。

すぐ隣では長野県が、県有地を使って約8メガワットのもっと大きいメガソーラーの建設を進めている。しかし大きく異なるのは、長野県が事業主体となるシャープに土地を貸し出しただけなのに、富士見町は収益目的で自ら事業を手掛けていることだ。建設工事はNTTファシリティーズが担うが、事業の中心はあくまでも町だ。

自治体直営の発電所は珍しくない。ただ、民間の先例にするために取り組むのが大半で、収益の用途もはっきりしないことが多い。富士見町の計画の特徴は、稼いだ収益を財政の足を引っ張っている富士見町土地開発公社の借金返済に充てると明言している点だ。

同公社は12年3月期末で13億円に上る借入金を抱え、債務超過の状態が続いている。町はメガソーラーから20年間で19億円の収入を得ることで、経費などを差し引いたうえで、土地公社の借金を6億円強返せるとはじく。

町議会からは事業リスクへの懸念や、新たに3セクを設置することに反対する声も上がった。実際、茨城県阿見町のように、直営での事業構想が議会の反対によって頓挫した例もあるが、何とか事業開始にこぎ着けた。

NEC取締役を務めた経験を持つ小林一彦町長は、自ら事業に乗り出した理由について「大企業にやらせておいたら、金持ちがさらに金持ちになるだけではないか」と話す。

工場誘致モデルには限界

こうした問題意識は地方に広がりつつある。PHP総研は2012年10月に「地域主導型再生可能エネルギー事業を確立するために」という自治体向けの政策提言をまとめた。固定価格買い取り制度によって地方の自然エネルギーが大企業の草刈り場となっているとの認識のもと、地域振興に回すための策を盛り込んだ。富士見町のような直営方式は多くの自治体にはハードルが高いと想定。自治体には側面支援の役割を期待している。発電事業のボトルネックとなる信用補完の役割を担え、再生エネ推進本格条例を制定せよといった内容は、飯田市の政策とも一部重なる。

提言をまとめた佐々木陽一主任研究員は「既存の工場誘致型のモデルでは地域に落ちる収益はあまりに少ない。また、採算にシビアな大企業では持続性にも疑問がある。再生可能エネルギーを地域経済の活性化に役立てる視点を持つべきだ」と話している。

(松本支局長 長沼俊洋)

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