まんべくん騒動にみる「炎上マーケティング」の教訓
ブロガー 藤代 裕之

「どう見ても日本の侵略戦争が全てのはじまりです。ありがとうございました」。北海道長万部町のイメージキャラクター(いわゆる、ゆるキャラ)「まんべくん」による8月14日のツイッター発言(ツイート)をきっかけに、早くも2日後にはアカウント中止に追い込まれた「まんべくん騒動」。以前から「毒舌」で話題になり9万人を超えるフォロワーを集めていたが、戦争に関するツイートがネットで広がると町への抗議があり、報道によって騒ぎは全国に知られてしまった。
長万部町は町長名でお詫びをホームページに掲載。観光協会のブログにもお詫びが掲載された(現在は削除)。まんべくんのサイトは閉鎖されたが、町のホームページのあちこちにキャラクターは残る。9万人を超えるフォロワーは奈良県のゆるキャラ「せんとくん」のツイッターの3倍。知名度の高いゆるキャラをプロモーションに利用してきた痕跡は、簡単に消し去ることはできない。
ネガティブに注目される結果となったまんべくんだが、ソーシャルメディアを使ったプロモーションに取り組む自治体や企業にとっても多くの学ぶべき点がある。
ツイッターで大ブレイク、イベントや女性誌にも登場
まんべくんは、2003年に「長万部町開礎130年町制施行60年」の記念事業でのキャラクター公募がきっかけで誕生した。長万部の名産品がキャラクターに組み込まれ、髪はアイリスの花、耳はホタテ、体はカニという不思議なスタイルで、実は最初から人気があったわけではなかった。
ブレイクのきっかけはツイッターだった。10年に長万部生まれのウェブ制作会社の男性がプロモーションを請け負い、10月中旬にツイッターを始めた。半年で1300フォロワーを集め、11月には北海道新聞の夕刊に早くも紹介された。11年にはまんべくん宛てに年賀状が300通、バレンタインのチョコレートが88個届いたという。その後もネットニュース、テレビやラジオ、各種イベントに出演。長万部の一日消防署長や駅長になる。女性誌にまで登場するようになった。
長万部町の人口は約6000人。駅弁ファンなら「かにめし」を知っているかもしれないが、これといった観光資源に恵まれているわけではなく、ゆるキャラが全国区の人気となっていくのは朗報であったに違いない。
自ら「火」をつけて急速に有名になったが・・・
ツイッターでの人気の秘訣は「毒舌」。さまざまな方面に突っ込みを入れるため「あんまり反感を買うと長万部のイメージも悪くなる」といった意見もあった。掲示板「2ちゃんねる」のユーザーに対して「全力でこい」と対立姿勢を見せたこともある。ネット上でのコミュニケーションだけでなく、町長にチョップしたり、一緒に毛布に入ったりする写真までネットで出回った。
発言に対して謝罪することもあったが、トーンが弱まることはなく、次第に過激になる。戦争に関する発言後も「炎上の後のペプシネックスは格別だよーッ!(((^-^)))」とツイートしていたほどだ。
このようなトラブルが予想される話題に踏み込んだり、絡んだりして話題を広げることを「炎上マーケティング」と呼ぶ。自ら「火」をつけて話題をつくりだす。確かにフォロワー数は増えたが、危険な方法であることは今回の騒動を見ても分かる。だが、普通では有名にはならないという面もある。特色のない地方のゆるキャラが話題になるのは簡単ではない。なにせ、ゆるキャラが多過ぎるのだ。
先に挙げたせんとくんのほか、滋賀県彦根市の「ひこにゃん」などがゆるキャラとして知られる。中央省庁や警察にもあり、警視庁の「ぴーぽ君」を見た人は少なくないかもしれないが、多くのキャラクターは知られないままだ。東京都の新宿区や足立区、板橋区、江戸川区などにも観光や防犯キャラクターがあり、地方の自治体になるともっと多い。「ゆるキャラさみっと協会」に登録している会員キャラは北海道から沖縄まで約100キャラもある。この中で全国的な話題を獲得するのは相当難しい。
せんとくんもひこにゃんも、実はトラブルが注目度を高めた側面がある。せんとくんはデザインに対して地元からも批判が起き、「まんとくん」「なーむくん」という対抗する独自キャラクターも生み出された。ひこにゃんも原案者とのトラブルが起こっている。これらがニュースとなって全国に流れ、さらに話題を呼ぶという循環である。まんべくんは、自ら話題をつくって有名になった。途中までは…。
ソーシャルメディアは発信するだけでなく、ユーザーと双方向のコミュニケーションが可能だ。そのコミュニケーションを使って、相手に突っ込んだり「キレて」みたりすることで、炎上が加速する。当たり障りのない発言では知名度は上がらない。フォロワーを集めることを真っ先に考えたときに、炎上マーケティングを選んでも不思議はない。キワモノだからこそ人気がでるというのは世の常だ。
だが、炎上マーケティングにはリスクがある。態度を面白いと思う人もいれば、不快に思う人もいる。たとえ、ゆるキャラの発言でも言い訳できない話題もある。
広報戦略と整合性をもたせているか
今回の事例で、自治体や企業にとって教訓となる点は何か。まずは自治体の職員が自らソーシャルメディアを利用せず、外部に運用を「丸投げ」していた点と町の広報方針との不整合だ。同町の総務課はマスメディアへの取材に対し「町としてはかわいいキャラを目指しているので、そんなに毒舌で売らなくても…」と困惑気味にコメントしていた。
ソーシャルメディアが注目されているが、よく分からないから、外部のコンサルタントや運営会社に取り組みを任せ、マスメディアで取り上げられれば不整合でも推進し、トラブルになったら中止や閉鎖し、なかったことにする。そこには戦略性は見られない。
このようなソーシャルメディア利用は自治体だけでなく、企業にも起き得ることだ。ゆるキャラにしても、ソーシャルメディア活用にしても、明確な目標なくブームになっているから取り組むという側面はないだろうか。
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。学習院大学非常勤講師。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。