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前例なき市場急拡大 インドネシアで伸びるゲームの条件

ゲームジャーナリスト 新 清士

これまで市場として認識されていなかった東南アジアが、世界のゲーム会社から高い関心を集めるようになってきた。この地域にある潜在的なパワーが、具体的な形で見え始めたからだ。経済成長を背景に、SNS(交流サイト)のフェイスブックを中心としたソーシャルネットワークの利用拡大と、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)の普及、それらを統合する存在となる「F2P(フリーツープレー)」と呼ばれるゲームアイテム課金方式のソーシャルゲームの浸透により、この地域に大量に出現したゲームユーザーの存在が大きい。

アジア初開催のイベントに予想以上の参加者

Casual Connect Asiaの会場の様子

5月22~24日に、シンガポールでカジュアル&ソーシャルゲームのビジネスイベント「Casual Connect Asia」が開催された。同イベントは毎年時期をずらしながら米シアトル、独ハンブルク、ウクライナのキエフで開かれており参加者は年を追って増加していたが、今回はアジア圏で初めて開催された。日本からは福岡市とJETRO(日本貿易振興機構)福岡が調査に参加した。

イベントを主催したカジュアル・ゲームズ・アソシエーションのジェシカ・タムズ氏は、当初の参加者は200~300人程度を見込んでいたという。いざフタを開けてみると900人を越える参加者が集まり、「現地に潜在ニーズが存在していた」ことに驚いていた。

欧米圏からの参加者は100人程度。それ以外はシンガポールのほか、フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイなど東南アジア諸国に加えインド、中東、オーストラリアなど幅広い地域から集まった。日本からもディー・エヌ・エー(DeNA)とグリーがソーシャルゲームのプラットフォーム企業として商談ブースを構え、3日間で延べ50社にも及ぶ現地企業とのミーティングに忙しく対応していた。

東南アジアにはこれまで、ゲーム市場がほとんど存在しないも同じだった。各国の家庭の所得水準が低すぎたため、高価なゲーム機を買うことが不可能だったためだ。

唯一、ゲーム機を買える所得があるのは、国民1人当たりの国内総生産(GDP)が日本よりも高いシンガポールだけ。2010年にはGDPが14.5%伸び、爆発的な成長に伴う好景気の中にある。シンガポールでは至る所で新規の高層ビル工事や改装工事を見かけ、ブランドショップが軒を連ねるさまは、かつての日本のバブル期の様相と重なる。

ただし人口が約500万人しかいないため、ゲーム市場が大きな広がりを持つことは難しい。違法コピーソフトが出回っていることもあり、成長の余地がさらに狭まっていた。

 ゲームをはじめとする娯楽産業が成長するためには、安定した社会に一定規模の可処分所得がある世帯が存在し、市場を形成できるだけの人口規模を抱えていなければならない。韓国や中国で国の成長とともにゲーム産業が成長してきたのは偶然ではない。シンガポールは貿易や金融などの中心地だが、コンテンツ産業が育つ市場にはなりにくい。

中間所得層の増加が引き起こす市場変化

ところがこうした条件を満たす環境が、東南アジア諸国で整い始めている。経済成長によって低所得者層(可処分所得が年間5000ドル以下)だった人々が、中間所得者層(可処分所得が年間5000~3万5000ドル)へと移行し始めているからだ。

特に注目されているのがインドネシアだ。1998年のアジア通貨危機を端を発する独裁政権崩壊により民主化が進んだ同国は、多様な民族や言語や文化を抱えつつも、社会的な安定性を維持して経済成長に成功してきた。

JETROによると、インドネシアの国民1人当たりのGDPでは2329ドルと、マレーシア(6950ドル、人口2800万人)やタイ(3941ドル、人口6800万人)には及ばない。しかし人口は世界第4位の2億3200万人を抱えており圧倒的に規模が大きい(数値は10年のもの)。

09年には低所得層が人口の6割に当たる1億4500万人だったが、15年には中間所得層が1億7100万人に増える。2020年には中間所得層は2億人を超えると予測されている。

こうした状況の変化を後押ししているのが、スマホの普及だ。米グーグルの基本ソフト(OS)「Android(アンドロイド)」を搭載したスマホを中心に、平均販売価格が300ドル前後にまで落ちてきているため、スマホを入手できる国民が急激に増加しているのだ。

「スマートフォンを最近1カ月で何にどの機能を利用したか」というニールセンのアンケート結果。「OnlineGames」はソーシャルゲームのことを含んでいる(エイドリアン・タン氏の講演より)

調査会社ニールセンのエイドリアン・タン氏は「スマホの浸透比率はアジア太平洋のすべての国で、従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)を上回っているわけではない」という。浸透率はシンガポールが73%でマレーシアで73%と高いが、タイは28%でインドネシアはわずか14%だ。

しかし今後1年のスマホ購入意向は、どこの地域でも50%前後となっており「健全な成長をみせている」とタン氏は指摘する。

スマホで使う機能を聞いた質問には、ウェブの閲覧とSNSの利用に並んで、オンラインゲーム(ソーシャルゲーム)が高い比率を示した。これは英国や中国と同じ程度の比率。インターネット回線の整備が進んでいる地域ほど、スマホとゲームとの親和性が高いことも明らかになっている。

「過去1カ月いくつのゲームをダウンロードして、いくら払ったのか」というニールセンのアンケート結果。青いバーの額が支払った米ドルでの金額(エイドリアン・タン氏の講演より)

 月に24ドルを支払うシンガポールを除いて、東南アジア圏で携帯ゲームに1カ月に支払う金額は低い。インドネシアではわずか1.3ドルだ。「消費者はゲームを遊んでいるが、すべての人がお金を払っているわけではない。広告を収益化の新しい方法とするなど模索が必要だ」(タン氏)

インドネシア独自のプラットフォームに期待も

インドネシアの投資会社MerahPutihのアントニー・ライエム氏は、「インドネシアの地元のゲームパブリッシャーや、ゲーム開発スタジオ、少額決済システムの提供企業、さらに地元投資家が成長する条件が整い始めている」という。

インドネシアでは、パソコン向けのオンラインゲーム市場で韓国製の大規模オンラインRPG(ロールプレイングゲーム)のほか、1人称シューティング(FPS)やダンスゲームが人気を博している。一方で、フェイスブックの利用率が高いため、軽いブラウザタイプのソーシャルゲームも流行している。ジンガの牧場育成ゲーム「FarmVille」や、プリペイドカード方式で課金される「ジンガポーカー」などが人気だ。

MerahPutihのアントニー・ライエム氏

これら海外勢に対抗するようにインドネシア国内でも、パソコンとスマホの両方に対応したSNSとソーシャルゲームが登場しつつある。インドネシアはインターネットへの接続がパソコン(31%)よりも携帯電話(78%)の割合が高いのが特徴で、スマホの機種ではカナダのリサーチ・イン・モーションの「BlackBerry」のシェアが高いが、韓国サムスン電子製の「Galaxy」が追い上げている。

ライエム氏がインドネシアで注目のモバイルSNSとして挙げていたのが、「mig33」だった。インドネシア国内で3500万人のユーザーを抱えており、同サービスの全ユーザー数の6割をインドネシアのユーザーが占めているという。「大半のユーザーは収入が少ないが、(サービスへの)忠誠心が高く、活発に使う」(ライエム氏)

新興国ユーザーが中心のSNS「mig33」のトップページ

 mig33を運営する米国の「Project Goth」は10年にグリーから出資を受け、「ソーシャルゲームについてはグリーと協調している」(ライエム氏)。昨年アプリケーション開発用のインターフェースを外部に公開し、他の企業がアプリ開発に参加できる仕組みにした。世界のゲーム開発会社が競い合うフェイスブックに比べて、mig33なら東南アジア企業にチャンスがあるとみているようだった。

インドネシアではソーシャルゲームの開発会社がベンチャーキャピタルから投資を受ける例が相次いでいる。ただし「グローバル・ブランドを持つゲームの来襲で、地元ブランドのゲームが成長できないかもしれない」(ライエム氏)。

ライエム氏は「インドネシア市場は多くの難しさを抱えているが、携帯電話を中心とした市場には巨大な可能性がある。インドネシア独自の生態系を作り、ローカルな強いブランドを作っていくことを手伝ってほしい」とアピールをしていた。

前例のない環境をどうとらえるか

多くの人口を抱えるインドネシアでは、かつての日本と似たパターンでゲーム市場の形成が進むだろう。日本の各家庭の可処分所得は70年に10万円から、90年には45万円近くにまで増加。大人がゲームセンターで多額の100円玉をつぎ込んで78年に「スペースインベーダー」(タイトー)を遊ぶ余裕が生まれ、83年に「ファミリーコンピュータ」(任天堂)が登場するころには、高価なオモチャにもかかわらず、子供に買い与えられるほど、家計に余裕ができた。日本でゲーム産業が形成したのは、可処分所得を持った家計の数の増加に、さらに安くなったコンピューター技術の存在が大きい。

ただ、かつての日本と東南アジアが大きく異なるのは、経済成長と並行してインターネット接続が広がり、グローバル競争にさらされているという点だ。ゲーム機は普及しておらず、スマホとその上で動くソーシャルゲームが基本となる。スマホはさらなる低価格化と高機能化が進むと予測できるため、さらにゲームの浸透を加速化させる。市場は必ず大きくなるだろう。

インドネシアに限らないが、東南アジア地域で作られたゲームにはまだ世界で通用したゲームはない。ただしインドネシアのゲーム開発会社の実力を過小に評価しない方がいい。市場形成が進んで5年もたてば人材も育つ。強い国内市場を背景に持つ企業は、地元ニーズを吸収しやすいためビジネスを有利に展開できる。

前例がない状態でゲーム市場の形成が始まった東南アジア地域を、どのように捉えるのか。初戦はすでに始まっている。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。
 また、グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にメンバーとして参加している。

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