EVの祭典で見た「光」 普及モードに入るための条件

次世代のクルマとして期待される電気自動車(EV)。市販車としての普及は遅々として進んでいないが、2012年10月20日に茨城県の筑波サーキットで開催された「日本EVフェスティバル」(主催:日本EVクラブ)では、近い将来におけるEVの普及を予感させる動きがあった。
同イベントは毎年開催されている。電動カート(ERK)による耐久レースや見た目の華麗さを競う走行、コンバージョン(改造)EVによる耐久レース、大手自動車メーカーが主催するEVの試乗などが行われる。
筆者はEVの定点観測の一環として、このイベントを毎年取材している。今年の特徴として挙げられるのが、(1)コンバージョン(改造)EVが国内メーカー製のリチウムイオン2次電池(LIB)を搭載したこと、(2)国内自動車メーカー大手5社による市販EVの競演、(3)移動型の急速充電器の登場、の3点である。
出走車両の40%以上が既にLIB搭載
改造EVによる耐久レースでは、出走車両におけるリチウムイオン電池(LIB)搭載車の割合が近年高まっている(図1)。3年ほど前までは鉛蓄電池が大半で、LIBを採用する動きは非常に限定的だった。
今年のレースでは25台の出走車両中、11台がLIBを搭載していた。昨年と比較すると伸びていないが、出走車両の40%以上が既にLIB(ほとんどが中国製)に移行している。耐久レースでは、上位5車すべてがLIB搭載車だった。今後、LIBのコストがさらに下落し、入手が容易になれば、バッテリー切れ(電欠)の心配の少ないLIB搭載車が過半数を占めるようになるだろう。
注目の東芝製LIB搭載車が健闘

LIB関連で見られた新たな動きは、東芝製の「SCiB」というLIBを搭載した改造EVの出走である。山梨EV研究会(代表:轟秀明氏)がエントリーした「富士山 de EV ワゴンR」は、スズキの「ワゴンR」をベース車両としてSCiBを12個(容量13.2kWh)搭載した(図2)。初出場ながら1時間を26周(規定違反による罰則のため25周で集計)で完走し、5位に食い込んだ。 SCiBは負極にチタン酸リチウム(LTO)という材料を採用することで、寿命や安全性などを改善したLIBである。
これまで車載用LIBでは、自動車メーカーとLIBメーカーが強固に結びつき、排他的に共同開発するやり方が主流だった。一方で東芝のSCiBは、三菱自動車の「i-MiEV M」や「Minicab-MiEV」、ホンダの「フィットEV」など複数企業のEVに採用されている。今回はさらに進んで、一般ユーザーが手掛ける改造EVにも初めて搭載された。
東芝がSCiBの低コスト化をどの程度のペースで進めるかにもよるが、今後は他の改造EVや、軽自動車と原付きバイクの中間的位置付けの環境対応車である「超小型モビリティ」でもSCiBの採用車がさらに増加するかもしれない。
自動車大手5社のEVが勢揃い
EVフェスティバルは、大手自動車メーカーによるEVの認知度向上や普及/啓蒙の場としての地位も確立しつつある。今回のイベントでは、初めて国内自動車メーカー大手5社によるEVが勢揃いした。三菱のi-MiEVや日産の「リーフ」、トヨタ自動車の「プリウスPHV」などの常連組に加え、トヨタの「eQ」、ホンダの「フィットEV」、マツダの「デミオEV」が試乗や展示用に供された(図3、4、5)。



今回EVを初めて出展した3社は、EVについてはいずれも法人向けのリース販売が中心で、その市場投入規模は年に数百台程度と現時点では「消極的」と言わざるを得ない。それでも、大手5社のEVが一堂に会して試乗も可能だった事実は、今後の普及を期待させる動きではある。
国内大手以外では、独ダイムラーが昨年に引き続いて「Smart fortwo Electric Drive」を出展した。この他、SIM-Driveや日本エレクトライク、EV改造などを手がける東京R&Dも初参加した。EVベンチャーであるSIM-Driveの「SIM-WIL」は、展示や試乗で存在感を示していた。

改造EVでは、お馴染みのトヨタスポーツ800(トヨタ東京自動車大学校)などに加え、今回も「ポルシェ911ターボ」や「ケーターハム スーパー7」といった個性的なクルマをベースとしたEVが目立った(図6)。改造EVを事業として成立させるのはまだ難しいが、こういった趣味性の強いスポーツカーやクラシックカーであれば成功する可能性があると見ている。
急速充電をどこでも可能に
EVフェスティバルで今回初登場したもう一つのものが、移動型の急速充電器である。タイヤやホイールなどを販売する三輪タイヤ(京都市)は、EV用移動急速充電車「Q電丸」を出展した(図7)。

Q電丸は、日野自動車のトラック「デュトロ」をベース車両とし、ディーゼル発電機とリチウムイオン蓄電池、急速充電器(菊水電子工業製)を搭載する。Q電丸があれば遠方で電欠を起こしたEVの所まで走っていき、充電することができる。また、菊水電子工業も急速充電器を搭載したワゴン車で来場し、メーカーの試乗用EVと一般来場者のEV数台に対して充電を行っていた(図8)。

実は筆者も、日産のリーフを都内でレンタルし、筑波まで来ていた。幸い、筑波サーキットで充電できたため、帰路で電欠の懸念もなく安心して走行することができた。
菊水電子工業によると、「この種のイベントでの急速充電の協力要請が最近は増えている」という。「こうした時には協力はするものの、急速充電器の販売まではなかなか到達しない」と同社の社員は苦笑しつつ、固定型急速充電器とともにQ電丸のような移動急速充電車両や移動充電サービスの登場に期待感を示していた。
確かに、現状を見るとEVの普及は一朝一夕には進みそうもない。しかし、今回のイベントで示されたように、自動車メーカー大手の大半がEVを販売し、固定型か移動型かを問わず充電インフラの整備が進展すれば、EVは急速に「普及モード」に突入する可能性はある。
(テクノアソシエーツ 大場淳一)