日米外交60年の瞬間 第3部

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「中立論は侵略の容認」とダレス サンフランシスコへ(12)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2011/11/5 7:01
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1951年4月、マッカーサーとダレスは、交互に新聞の見出しをつくった。4月24日に新聞の一面を占めたのはダレスだった。一週間の日本での日程を締めくくる形で、また東京・丸の内の日本工業倶楽部を選び、23日午後2時半から「恐怖なき平和」と題して講演した。

■全面講和は無講和

日経は一面トップでこれを扱い、ほぼ全文を伝えた。それはおそらくGHQの意向にも沿ったものだったろう。東京での演説なのだから、それは当然、日本国民に向けた発信だった。講演を取材した記者は、次の5点に着目した原稿を書いた。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

(1)米国の求めるものは迅速公平かつ集団的な力によって保障された講和である。

(2)米国の力が大西洋諸国の保護にのみ使用され、アジアは見捨てられるだろうという懸念に根拠はない。

(3)共産勢力の直接侵略を過度に恐れれば、その計画に乗ぜられる。

(4)全面講和や中立論を唱えるのは無講和を唱えるに等しい。

(5)米国は国連憲章が恒久的平和に不可欠と認める諸条件の実現を妨げるような経済的負担や制限を日本に押しつけることには反対している。

日本の世論に対して特に強いメッセージだったのは(4)の全面講和批判である。

既に述べたように、全面講和か多数講和か、世論は割れていた。しかし朝鮮半島では戦争が続いており、それに対する恐怖は、当時の日本では強かった。

(1)で集団的な力を強調し、(2)でアジアを見捨てないと日本を安心させ、(3)で共産主義を恐れるな、と強調したうえで(4)で現実的選択である多数講和を求め、(5)で日本への経済的配慮を表明した。

練られた演説であり、ダレスが日本での一週間の議論に満足した証左だろう。

講演に先立って23日午前10時35分から、GHQ外交局でダレスは吉田と会談した。日本側からは井口貞夫外務次官、西村熊雄条約局長らが同席し、安全保障協定について詰めたことをうかがわせる。

ダレス講演に対する鈴木茂三郎社会党委員長の反応が面白い。長野で記者から発言を求められた鈴木は次のように語った。

「日米間の単独講和(筆者注、社会党は「多数講和」を「単独講和」と呼んでいた)を、単にマリク・ソ連代表が講和に関する話し合いを拒否したことによって急速に進めていいかどうかは疑問である。われわれが繰り返し主張しているようにアジア諸国との正常な貿易ができるようにして、自立経済を達成し、生活水準を引き上げることが共産党の間接侵略に対抗する道である」

苦しい立場が透けて見える。全面講和を求めても、ソ連が拒否している現実があった。国内の左翼陣営内における共産党との戦いもあり、「共産主義国」による「直接侵略」ではなく、「共産党」が国会で多数を占める結果起こる「間接侵略」に神経をとがらせなければならない。板挟みのような社会党の姿がここにはある。

■「再軍備」に触れた佐藤栄作幹事長

一方、吉田の与党自由党の佐藤栄作幹事長は元気がいい。次のように、将来のことではあるが、再軍備にまで触れた。

「われわれは共産勢力の浸透に対する不安と恐怖とを一掃しなければならない。民主主義陣営の下に世界平和の確保に協力する積極的態度を示す時が来たと確信する。将来は国力に応じて再軍備の要がある」

24日付日経社説は、ダレス講演について論じた。「武装平和」という言葉をとりあげ、「武装することによってのみ維持された平和であり、平和を維持するためにこそ武装が必要なのである」「世界が武装平和の状態にある以上、わが国ひとり超然としておれないのも当然である」と非武装論を批判している。

無理もない。このころ朝鮮半島では中共(ママ)軍の6個師団を含む18万人が総攻撃を始めていた。国連軍は数カ所で共産軍に突破され、台北発の情報によれば、国際共産空軍が準備を終えたといわれた。国際共産軍は、ソ連、モンゴル、ドイツ、北朝鮮、ポーランド、日本、中共(ママ)などの出身者からなり、飛行機はすべてソ連製とされていた。

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