2019年8月24日(土)

日米外交60年の瞬間 第3部

フォローする

ソ連が朝鮮停戦交渉を提案 サンフランシスコへ(16)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2011/12/3 7:00
保存
共有
印刷
その他

アリソン公使の訪日は重要な意味を持った。吉田茂首相のほか、井口貞夫外務次官とも会談した。GHQ(連合国軍総司令部)と外務省、大蔵省などの局長級の協議で講和をめぐる実務的な詰めが進んだ。

対日講和をめぐる進展と平行して朝鮮半島の情勢にも変化があった。いままであまり前面に出ていなかったソ連がここで顔を出してきた。

マリク・ソ連国連代表が1951年6月23日に停戦交渉の提案を含む声明を発表した。米国もこれに反応した。

■グロムイコが説明

マリクは日本との縁が深い。

下斗米伸夫法政大学教授の近著「日本冷戦史」によれば、ウクライナ生まれのこの外交官は、1937年から在京ソ連大使館の参事官、42年から45年8月9日のソ連参戦まで駐日大使を務めた。モロトフ外相の信認厚く、日本語の基本的語感もわかっていた。

後に「ミスター・ニエット」と呼ばれるようになる冷戦時代のソ連外相、グロムイコが当時、外務次官だった。

そのグロムイコが、マリク提案の説明のために動いた。51年6月27日、モスクワ駐在のカーク米大使と会談し、マリク提案に関するソ連政府の見解を説明した。

説明を受けた米側は28日、これを国務省声明の形で明らかにした。それによれば、ソ連側見解は次のような内容だった。

・休戦交渉は国連軍および韓国軍の軍事代表と北朝鮮および中国義勇軍の軍事代表との間で行われるべきだ。

・休戦交渉は政治的または領土的な事項は一切含まず、厳格に軍事問題に限定される。

・ソ連政府は休戦協定の締結以外にマリク氏が言及した平和的解決に関して特別の措置を考えていない。

・政治的、領土的問題の解決のため、その後にいかなる特別の取り決めをするかを決定することは朝鮮における当事者に任せる。

・ソ連政府はマリク提案に関する中共政府(ママ)の見解は関知しない。

ポイントは軍事問題に限定した交渉である点と中共の見解に関知しないとする点である。米ソが世界を管理する時代。それが冷戦時代だったことを改めて思い起こさせる。

■トルーマンが交渉を承認

米国務省声明は、ソ連見解に対する態度を検討中であるとし、国連軍に参加している諸国の代表と協議していると結んだ。29日、トルーマン大統領は、朝鮮における現地交渉を承認し、リッジウェー最高司令官にこれを伝えた。ラヴェット国防次官が記者会見で明らかにした。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

国務省ではなく、国防総省から発表されたのは、軍事問題に限定するとのソ連側提案の土俵に乗ったようにも受け取れる。が、国務省つまり外交当局が無関係だったわけでは無論ない。

米英仏などの国連代表がマリク主催の夕食会で話をしている。グロムイコはモスクワでケリー英大使と会談した。

いまなら日本政府も何らかの動きをみせるところだが、独立前である。動くのは日本政府ではなく、総司令部だった。外相役のシーボルト外交局長がリッジウェーとの協議のため急きょ朝鮮に飛んだ。

めまぐるしい動きは停戦への光が見えたことを意味した。6月30日付日経社説は「停戦への希望強まる」と論じた。

「もちろんマリク提案に関するソ連の意向が明らかになったからといって直ちに休戦が実現するかどうかはまだわからない」と慎重な基本は崩さない。

同時に「しかし、それにしてもマリク提案に関するソ連の意向が示されたと(ママ)は停戦の可能性を大きくしたことは確かであり、その結実こそ望まれる」と締めくくり、期待を表明した。

この社説のなかに、60年後のいまでも通じるくだりがある。

「停戦の実現と朝鮮問題の解決は別であって、朝鮮問題の最終的解決は南北朝鮮の統一と民主的政府の樹立以外にはないが、停戦協定の次にその問題がどう解決されるかは、ひとり朝鮮民族だけの問題ではない」との一節だ。

歴史を先取りしていえば、休戦は実現したが、朝鮮半島はいまだにそこから先に歩み出してはいない。

北朝鮮は核、ミサイル実験によって地域に脅威を振りまき、国内では政治犯収用所で自国民に極端な人権侵害を強いている。「ひとり朝鮮民族だけの問題ではない」とされた問題は、60年たってもそのまま残っている。

日米外交60年の瞬間をMyニュースでまとめ読み
フォローする

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ

電子版トップ連載トップ


日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。