国内生産再生で脚光 「新4大工業地帯」はココ - 日本経済新聞
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国内生産再生で脚光 「新4大工業地帯」はココ

東北の「第2トヨタ市」など台頭する「新4大工業地帯」が新たな産業集積と雇用を生み、地域経済を活性化、やがては日本全体を成長軌道に復帰させる――。超円高が是正され、新興国のコスト上昇が進んだことで、生産を国内に戻す動きが広がりつつある。しかも単に国内回帰を進めるのではなく、モノ作り全体を底上げすべく、知恵を絞って国内生産を見直す動きだ。

「3冠王」は京浜工業地帯からも中京工業地帯からも出なかった。都道府県別に1000m2(平方メートル)以上の工場用地の取得状況を調べた経済産業省の「工場立地動向調査」。2013年に立地件数、面積、他県企業の進出数すべてで1位に輝いたのは、北関東の茨城県だった。

過去10年間で見ても、茨城の立地面積は全国トップだ。創業の地である東京都日野市から茨城県の古河市に主力工場を移す日野自動車。茨城港に並び立ち、建設機械を世界中に輸出するコマツと日立建機。確かに、最近の大きな工場投資は茨城が目立つ。食品産業でも、巨大消費地・東京の人々の胃袋を満たそうと、雪印メグミルクや日本ハムが最近、相次ぎ工場を稼働させた。

北関東自動車道で広がる工場地帯

産業立地に詳しい東京大学の松原宏教授は「茨城は東京の本社や(研究機関の多い)つくばに近く、R&D機能と一体化している」と工場進出が相次ぐ理由を分析する。生産技術や研究開発、素材開発などの知を軸に結びついた企業連携、すなわち「知のケイレツ」を築く最適地でもあるというわけだ(注:知のケイレツの詳細は、日経ビジネス2014年4月28日・5月5日合併号の特集「ニッポンの工場」に掲載)。

2011年に全線開通した北関東自動車道で茨城とつながった栃木県や群馬県にも、同様の動きが広がっている。東京の約100km北にある北関東道沿いを走ると、群馬県高崎市には2013年に稼働したばかりの森永製菓の工場が立ち、栃木県真岡市では木工会社ファーストウッドの拠点建設が進む。先述の日野自は群馬県太田市の部品工場でも増設工事を始めた。この一帯は、いわば「北関東横断工場ロード」である。

学生時代、社会科で「4大工業地帯」を学んだ読者は多いだろう。東京近郊の京浜、自動車産業の盛んな中京、電機の阪神、鉄鋼の北九州。生産額は合計で年100兆円を上回る。日本全体の工業生産額の4割を占め、日本のモノ作りの柱であることに変わりはない。

一方で、先に挙げた北関東横断工場ロードのように、従来はなかった工業地帯が姿を現し始めた。創業の地や社長の出身地といった理由ではなく、モノ作りの最適地としての日本を考え抜くことで生まれてきた、新たな工場の集積とは言えないか。日経ビジネス誌は「新4大工業地帯」を提示したい。

トヨタが東北の町を変えた

宮城県大衡村。木々に囲まれた工業団地の一角で、杭打ちの基礎工事が進んでいた。2015年春には、昭和シェル石油の子会社、ソーラーフロンティアの太陽電池工場が完成する。これまでより生産コストを30%下げた、新たな国内生産の中核をここに造ると決めた。一因は、ある企業の進出によって工場に最適なインフラが整備されたからだ。

ソーラーフロンティアの工場予定地の目と鼻の先にあるのが、トヨタ自動車東日本の本社と2011年に稼働した「カローラ」の工場。周囲にはトヨタ紡織東北などの部品メーカーも揃い、「東北第2トヨタ市」の様相を見せる。工業団地内の道路は拡張され、大衡村と仙台市を30分でつなぐ東北自動車道の大衡インターチェンジも整備された。「このご時世に専用インターチェンジを作ってもらえる企業はトヨタだけ」と、ある自治体関係者は言う。当然、工場進出を検討する他の企業にも魅力に映った。

愛知県豊田市を中心とする「第1トヨタ市」は戦後、自動車産業の集積地として中京工業地帯を形成した。一方、東北第2トヨタ市はソーラーフロンティアや半導体製造装置の東京エレクトロン、段ボール大手のレンゴーなど、既にクルマ以外の企業も呼び込んでいる。東日本大震災の復興支援策も手伝い、のどかな山村が新しい産業集積地に育ち始めた。

大震災の可能性が小さい地域に着目

近年、世界シェアの高い企業の進出が相次ぐのが、震災や津波といった自然災害が少ないとされる地域だ。とりわけ中国地方から北陸地方にかけて、「グローバルニッチトップベルト」が形成されつつある。

心臓血管のカテーテル治療に使う「ガイドワイヤー」と呼ぶ器具で世界シェア6割を握るテルモ。東日本大震災の数日後に静岡県東部を襲った震度6強の揺れが、ガイドワイヤーを作る愛鷹工場(富士宮市)の操業を止めた。

設備の復旧や東京電力の計画停電に必死で対応しながら、小熊彰取締役は痛烈な反省の念を抱いていた。「我々次第で『医療』が止まるリスクがあるのに、収益を追求するあまり、生産を1カ所にまとめてしまっていた」。

小熊氏は生産拠点を分散させるため、すぐさま全国の震災・災害のリスクを調べた。過去に大きな地震がなく、国が予測する「震度5強以上の震災が起こる可能性」が小さい山口市に30年ぶりの新工場建設を決めた。

石川県能美市はこの動きを象徴する自治体だ。人口5万人、山手線の内側の1.3倍ほどの面積しかなく、企業誘致担当の職員も1人だけ。税制優遇など誘致策に特色があるわけではない。それにもかかわらず、東レの航空機向け炭素繊維複合材料、ジャパンディスプレイのスマートフォン向け中小型液晶パネルといった世界シェアの高い製品の工場が集中する。

能美市に近い金沢市でも、航空機の逆噴射装置部品で95%の世界シェアを握る日機装が、静岡からの生産移管を始めた。震災で「供給責任」を突き付けられた企業の大移動はこれからも続くだろう。

アジアとの一体化が進む北九州

かつての4大工業地帯の中で最も生産額の凋落が大きい北九州は、鉄鋼の町として語られていた頃とは違った特色を持つ工場集積地に変貌している。福岡県や大分県に林立する自動車・部品の工場が示すのは、「アジア一体工業地帯」という新しい姿だ。

日産自動車九州が韓国と日本の両国の道を走れるトレーラーを用意し、釡山~博多間の海上輸送を組み合わせた「積み替え無し」の部品調達を始めたのは2012年から。日産九州にとって韓国はもはや国内と変わらない。今年4月、トレーラーも増やしている。

福岡から釡山までは約250kmと、東京よりもずっと近い。中国の上海だって飛行機で1時間40分と、東京からの所要時間の半分だ。クルマに限らず、アジアの企業を巻き込んだサプライチェーン(供給網)を作ろうという企業にとってこれほどの好条件はないだろう。

海外企業も日本立地探る

新4大工業地帯に目を向けるのは、日本企業ばかりではない。今年3月、京都大学の企業支援施設に約20人の中国人の姿があった。京都府が日本貿易振興機構(ジェトロ)と共同で開いた上海市での誘致イベントで京都に関心を持ち、視察に訪れたのだ。

グローバルニッチトップベルトにも重なり、高シェア企業の多い京都には地場の製造業100社以上が参加する試作のネットワークがある。対応可能な企業を紹介してくれる窓口も一元化されており、大学とも共同研究を進めやすい。中国の家電大手ハイアールや韓国のLG電子が京都で研究開発や試作の拠点を設立した。

中国企業は日本立地により「高付加価値製品の開発を求めるようになってきた」と京都府の田中準一・商工労働観光部長は言う。新4大工業団地が新しいモノ作りのモデルを世界に発信していけば、海外企業にとっても生産の最適地はニッポンになるに違いない。

(日経ビジネス 佐藤浩実)

[日経ビジネス2014年4月28日・5月5日合併号の記事を再構成]

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