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「ノート」に賭けるサムスン ジョブズ氏が否定したペン入力で勝負

ジャーナリスト 石川 温

韓国サムスン電子は、NTTドコモ向けに新製品「GALAXY Note」を投入する。画面サイズが5.3インチで、4インチ台が主力のスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)と比べると一回り大きく、7~10インチが中心のタブレットに比べると一回り小さい。片手で持てるサイズでペン入力を主体とした「ノート」という新しいジャンルで攻めてきた。4月6日に発売するという。

ワコムの技術で128段階もの筆圧を認識

2011年秋から欧州、中東、米国、韓国などで販売されてきたGALAXY Noteが、ようやく日本にも上陸する。サムスン電子ジャパンの趙洪植(チョウ・ホンシク)代表取締役は、「(GALAXY Noteを)世界で500万台以上販売している」とし、現在では月産200万台ペースで製造しているという。特にお膝元の韓国では、スマホの1日の平均販売台数である6万のうち1万5000台をGALAXY Noteが占めるという大ヒットぶりだ。

購入者の男女比は女性が47%と想定以上に高い比率を占め、年代別では20~30代が79%と圧倒的に高い。海外ではブラックとホワイトのカラーバリエーションがあるが、日本向けはホワイトだけ。これまでのGALAXYシリーズとは違ったイメージを狙い、プリントシールなどを好む女性を意識した結果、ホワイト一色で攻めることにしたようだ。

GALAXY Noteの発売を前にチョウ氏は「日本市場は、韓国以上に売り上げを伸ばしたい」と意気込んだ。

GALAXY Noteは「Sペン」と呼ぶペンで入力するのが特徴だ。Sペンは、パソコン用周辺機器のペン入力タブレットなどで定評のあるワコムとの協業で生まれたという。128段階もの筆圧を認識し、過去にあった電子手帳やPDA(携帯情報端末)のスタイラスペンに比べて書き味が非常に優れている。

サムスン電子では絵を描くだけでなく、ノートとして手書きですぐにメモを取る使い方を訴えている。そのため、日本市場に向けては7knowledge(セブンナレッジ)の「7notes with mazec」という手書き日本語入力アプリを内蔵。多少、乱筆でもかなり高い精度で日本語を入力できるようにした。

 ウェブページや地図などの画面をキャプチャーし、その画像ファイルに手書きでメモを書き込み、メールや交流サイト(SNS)などで共有するといった使い方ができる。メールで受信したワードやパワーポイントのドキュメントでは、キャプチャーした画面に指示を書き込んで返信することも簡単だ。大画面となめらかに入力できるペンを組み合わせることで、スマートフォンになかった使い勝手を実現している。

サムスン電子では、「ペン入力」による使い勝手の良さをアピールするため、「GALAXY Note Studio」という街頭イベントを世界中で開催してきた。似顔絵を得意とするイラストレーターを大量に雇い、人の集まる広場や携帯電話ショップなどで似顔絵を描く企画だ。すでに世界82の国や地域の491都市、1700カ所以上で開催してきた。

店頭ではGALAXY Noteとテレビをつなぎ、似顔絵を描いている過程をギャラリーが確認できるようにした。描きあがった似顔絵はその場でプリントアウトしたり、メールで送信して本人に渡すため、ツイッターのアイコンなどに利用できる。「イベントを開催した周辺のショップでは、GALAXY Noteの売り上げが急増する」(サムスン電子関係者)という人気ぶりだ。

日本でも渋谷でイベントを始めており、今後は全国の主要都市150カ所以上に展開するという。

「5.3インチでペン入力」というジャンルを創る

iPhoneを投入した2007年、米アップルのスティーブ・ジョブズCEO(当時)はスマホのキーボードやスタイラスペンを完全否定。「指こそが最高の入力インターフェースだ」と語り、iPhoneを華々しくプレゼンした。それから年月が経過した今、アップルのライバルとなったサムスンは、あえて「ペン入力」で勝負を挑もうとしている。

これまでサムスンには、どちらかと言うとアップルのiPhoneを「後追い」している印象がつきまとっていた。これはアップルがサムスン電子との訴訟合戦でデザイン面を強調したことからも明らかだ。しかしGALAXY Noteは「新しいセグメントの立ち上げが開発の発端にあった」(商品企画担当のキム・ジョンイン常務)という。

5.3インチでペン入力の機器は、サムスン電子がゼロから創り上げようとしているジャンルなのだ。

 過去を振り返ると、5インチ台のスマートデバイスはいくつもあり、ほとんどは市場を形成するまでには至らなかった。それでもサムスン電子があえて5インチ台のデバイスで攻めていく背景には、「スマホが市場の半分以上を占めるようになって、画面サイズは大きいほどいいという調査データがある」(キム氏)という。ただし、単に大きいだけでは失敗の恐れがあり、5インチにプラスして新たな価値を提案する必要があった。「それがペン入力によるノートというカテゴリーだった」(同)。

ノートというコンセプトが明確で、消費者にうまく伝わったからこそ、GALAXY Noteが世界でヒットしたようだ。

製品化を可能にしたペン入力の技術進化

だがペン入力はジョブズ氏が否定したように、業界内でも評価が真っ二つに分かれる。「いまさら、なぜペン入力なのか」という否定的な意見も多い。

米マイクロソフトの「Windows Mobile」などはペン入力が主体で、決して使いやすいものではなかった。当然ながらサムスン電子内でも、ペン入力に対する慎重な意見があったようだ。キム氏も過去を振り返って、こう話す。「感圧式入力だったWindows Mobileは悪夢でしかなかった。しかし技術の大きな進化があり、GALAXY Noteを製品化できた」――。

NTTドコモが4月に発売するサムスン電子製の「ギャラクシーNote SC―05D」

NTTドコモが4月に発売するサムスン電子製の「ギャラクシーNote SC―05D」

GALAXY Noteはワコムとのコラボレーションで静電容量式の技術を取り入れ、過去の"使いにくいペン入力デバイス"とは全く違うものに仕上がったという。

実際に海外版、日本版のGALAXY Noteを使って見ると、確かにこれまでのスマホにない使い勝手が新鮮で楽しく感じられる。写真を撮って、その場で文字や絵を書き込み、SNSにアップするという使い方は、スマホにはあり得なかった。

立ったまま、殴り書きでメモを取るといったこともGALAXY Noteだからこその用途だ。ユーザーインターフェースがタッチペンに完璧に最適化されていない点は気になるが、使っていくうちに慣れてくるだろう。

GALAXY Noteはスマホでもタブレットでもないノートという新しいジャンルの製品だ。大画面のスマホを待ち望んでいた人、通話専用の携帯電話を使いながらスケジュールを調べたり手書きでメモを取りたいビジネスパーソン、イラストや写真に手書きで装飾をしたい女性など、幅広いニーズを満たす製品として日本でも受け入れられる可能性は十分にありそうだ。

石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「スティーブ・ジョブズ 奇跡のスマホ戦略」(エンターブレイン)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

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