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人気に比例しないミラーレス一眼

製品の「デザイン価値」を測る(1)

 低成長にあえぐ日本でも、人々の価値観は確実に変化し、新たなニーズが誕生していることは間違いない。それらをとらえ、正対する質の高い製品デザインの重要性は増す一方だ。低価格志向を強める消費者はどんなデザインならお金を払うのか。日経デザイン誌が注目の製品ジャンルを取り上げ、消費者がどの製品デザインやパッケージを選ぶか、そのデザインのどこを評価し、いくらまでなら金額を上乗せして払ってもよいと思うかを調べた[注1]。数値化が難しい「デザインの価値」を金額に落とし込む。今回(連載第1回)はミラーレス一眼5製品を扱う。

一眼レフとコンパクトの中間に位置するデジタルカメラ(デジカメ)の新ジャンル、ミラーレス一眼カメラ。メーカーによって呼び名は異なるが、コンパクトな本体に用途に合わせてレンズを付け替えるという構成は同じだ。

今回の調査ではレンズ付きで実売価格(調査は2012年1月)が5万~6万円台の5機種をピックアップ。コンパクトデジカメ(コンデジ)に比べると高価だが、ミラーレス一眼の売れ筋の価格帯である。調査で提示する製品画像は白のモデルで統一した(図1)。調査結果を基に5機種の「デザイン価値」[注2]と「価格寄与度」[注3]を算出してみたが、それらの数値と人気は比例しないことが分かった。以下で詳しく分析していく。

図1 ミラーレス一眼5製品の「デザイン価値」と「価格寄与度」  一般価格(今回は5万円)と比べていくらまでなら上乗せして買いたいかを聞き、その平均額を算出したデザイン価値は、Bの製品が「+4692.3円」でトップ。ところが単にデザインで選ぶとしたらどれがいいかを聞いたところ、Cの製品がトップだった(図2を参照)。
[注1]2011年11月中旬と12月初旬の2回に分け、インターネットを介してアンケート調査を実施。有効回答数は男性155人、女性155人の合計310人。20代、30代、40代、50代、60代以上の各世代とも男女31人ずつ。調査協力はマクロミルやフォーデジット。
[注2]本連載での「デザイン価値」とは、製品価値を引き上げるデザインの力を指す。「デザインで選ぶならどれ?」という設問で選んだ製品が同ジャンルの一般的な製品の価格(一般価格)と比べて高かった場合、いくらまでなら買うかを尋ね、その平均額を算出。一般価格との差をデザイン価値とした。
[注3]本連載での「価格寄与度」とは、同一ジャンルの製品の一般価格に対するデザイン価値の割合(デザイン価値÷一般価格)を指す。

パッと見で人気があるのは製品C

デジカメ2大巨頭のうちの1社、キヤノンの参入がないなか、発売間もないニコン「1」シリーズの「J1」(図1の製品C)が今回の調査では一番人気となった(図2)。オリンパス「PEN Lite E-PL3 」(製品A)シリーズは、20~30代に強い(図3)。ミラーレス一眼の草分けであるPENは「最初から指名買いが多い」(都内量販店のカメラコーナー担当)と言う。

図2 デザインで選ぶなら、どれを選ぶ?
図3 男女・年代別に見た選択製品の違い

ソニー「α」シリーズ「NEX-5N」(製品B)の場合、20~30代の女性からは敬遠されている。だが、これは姉妹機「NEXC3」とコンセプトですみ分けができているから問題とはならない。「C3は手を添えるような小さめのグリップだが、5Nは指をグッと巻き込める形。ガジェット好きをメーンのターゲットに据え、コンパクトカメラからのステップアップや一眼レフのサブ機に利用してもらっている。一方のC3は、女性を想定し、カラーバリエーションも多い」(ソニー広報センターの大津留博文氏)。

対照的なニコンとソニー

前モデルまでと比べ、優しい曲線のフォルムを強く打ち出したパナソニックの「LUMIX GF3」(製品D)は、「一眼レフ初心者が快適に楽しめる操作性と、スタイリッシュに持ち歩けるデザイン性を重視した」(パナソニック広報チームの伊藤陽子氏)と言うとおり、今回の調査でも幅広い層から支持を得た。特に50代と60歳以上の女性に好評だった。モデルチェンジによって一躍「かわいらしさ」という個性も得たようだ(図4)。

図4 それぞれのデザインの印象は?

我が道を行くのは、ペンタックス「Q」(製品E)。グリップ部のモードダイヤルや、レンズ横のクイックダイヤルは、他メーカーにない意匠だ。20代女性と40代男性の支持から、ガジェット好きな層の嗜好がうかがえる。

ここで、人気と「デザイン価値」との相関を見てみよう。一般的なミラーレス一眼の価格を5万円としてデザイン価値を算出したところ、デザイン価値が最も高かったのはB、次いでEだが、人気はそれぞれ5位と4位(図1、図2)。つまり、欲しがる人は少ないが、欲しい人は多少高くても買いたいと思う「ニッチさ」を持つと言える。

一番人気だがデザイン価値はそれほど高くないC。反対に、人気は低いがデザイン価値は図抜けているB。対照的な2機種をさまざまな角度で比較してみた(図5図7)。Cの選択者がコストパフォーマンスを重視する傾向が一目瞭然だ。一方、Bの支持者には、カメラとしての性能にこだわりを感じる。

図5 BとCの支持層を比較
図6 BとC、それぞれを選んだ理由
図7 BとCにいくらまで出せるか?

ここで、「安いから人気」という因果関係はないことに注意すべきだろう。それが分かるのが前出の図4 。Cはコストパフォーマンス重視の層に支持されているが、同時に「操作が簡単そうな」親しみやすさを持ち、「自分のファッションや持ち物にも合い」「仕事や趣味に使いたい」と思われている。財布のひもが固い20~30代が選ぶ理由があるのだ。

今回の調査結果が感じさせるのは、世代によって価値観がかなり異なるのでないか、ということだ。例えば、図8で30代の女性が「ブランド」や「カラー」といった属性へ示す興味が低い事実と、彼女たちがシンプルさ、ナチュラルさを目指す傾向には、合致するところがあるのではないか。30代女性の25.8%が選んだCは、「静止画と動画の融合など、新しい映像表現を提供するためにゼロから開発。ミニマルとハイクオリティーを掲げ、ストレスなく簡単に操作できることを目指した」(ニコンの橋本信雄・映像カンパニーデザイン部マネージャー)というものだ。ここにも、無駄を削ぎ落とした「シンプルなデザイン」がある。

図8 どこを重視して購入するか?

成長市場で増すデザインの重要性

ある製品群がポピュラーになるにつれて競争も激しくなり、価格の引き下げを余儀なくされることは少なくない。ミラーレス一眼にもその可能性がある。だが、そんな中でもさまざまな要素でデザイン価値は上げられる。20代女性の過半数が重視する「カラー」も要素の1つだ(図8)。

豊富なカラーバリエーションを用意するメーカーは多いが、Cはレンズまでカラーバリエーションを施したモデルをそろえる。「ピンクの本体はシャッターボタンやレンズの着脱ボタンも色を変えた。限定キットのレンズも、金属素材からプラスチック部品、ローレットのゴムパーツまでピンク色に仕上げた」(橋本マネージャー)。

20代女性を唯一の例外として、ミラーレス一眼の購入者すべてが、価格、性能に次いで重視するのが「大きさ・重さ」(図8)。「店頭で小型軽量なペンタックスQを手に取って愛着がわき、その場で購入を決める例も少なくない」(都内量販店のカメラコーナー担当者)。Bのマグネシウム合金が持つ素材感もデザイン価値を押し上げる要素だろう。

「ミラーレス型ではセンサーの進化だけでなく、レンズのバリエーションや画像処理エンジンの改良などの方向でも進化・高性能化していく可能性がある」(ソニーの大津留氏)。今後の成長市場でデザインが活躍する可能性は大いにありそうだ。

◇  ◇  ◇

次回(本連載の第2回)は、この冬に人気だった充電式カイロ6製品の「デザイン価値」や「価格寄与度」を分析。そこからは、若年層がお金を出したくなる携帯機器の製品デザインの姿が見えてきた。

(次回は4月9日掲載)

(エディター 神吉弘邦)

[日経デザイン 2012年2月号の記事を基に再構成]

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