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なぜ増える、建物の反射光が起こすトラブル

反射「光害」が問題に(1)

 省エネ住宅への助成強化や改正省エネ法の施行などの動きに伴い、環境配慮型の建物への関心は一段と高まっている。近年、日射や照明光を反射させる建材を使い、意匠だけでなく省エネ効果をもくろむ建物が目立ってきた。ただ、反射の利用は別の場所でのまぶしさや温度上昇などを招きかねない。反射のリスクを考慮した設計手法は確立しておらず、設計者が検討する際の手掛かりも少ない。反射光がもたらした近年のトラブルなどを参考に、反射の利点と欠点を踏まえた設計手法を本連載で探ることにしたい。
図1 「まぶしい建物」が増えている

建物に反射した光が、ほかの建物の利用者にまぶしさなどをもたらすトラブルは、いまに始まったことではない。『日経アーキテクチュア』でも、反射光のトラブルを過去に何度か報じてきた。

ただ、反射光のトラブルが起こっても、表面化したり、大きな問題になったりするケースは限られていた。頻繁に話題に上ってきた日照権や日影の問題と比べて対照的だ。トラブルが発生する時間や場所が限定されていたり、被害を受けた側がカーテンやブラインドなどで対処できたりすることもその一因だろう。設計者などに取材してみても、現状では設計過程で反射光の影響を十分に検討しているケースは極めて少ない。

太陽電池の反射も「害」に?

しかし反射光は、これまで以上に無視できない検討項目として浮かび上がる可能性がある。改正省エネ法の施行や、前鳩山政権が打ち出した温暖化ガスの削減目標などを背景に、将来の建物には、「環境性能」という旗印が一段と求められるからだ。

図2 「反射」する建物が増加  左は、高反射率塗料の出荷量の推移。日本塗料工業会がまとめた資料に基づいて日経アーキテクチュア誌が作成。道路用と建築用の統計を示した。調査対象のメーカー数は、2005年度が14社、06年度が15社、07年度が18社、08年度が19社。高反射率塗料とは近赤外線領域の光を、従来の同一色相塗膜に比べて効率良く反射する製品を指す。右は国内住宅向けの太陽電池出荷量の推移。太陽光発電協会がまとめた調査結果に基づいて日経アーキテクチュア誌が作成。国内の電力用途のうち、住宅に用いる分を表記した。

外装材での日射の反射は、夏季を中心に室内の温熱環境を改善し、冷房負荷を減らす。近年、この手法を使う建物が目に付く。反射性能が高いガラスや金属の素地材、高反射率塗料の活用は、その代表例だ。ガラスの多用など特徴ある意匠に対するニーズの根強さも相まって、こうした建物は今後も増えそうだ。

加えて、補助制度の拡充や電力の買い取り制度の強化などが、太陽光発電パネルの普及を後押しする。太陽光発電パネルには表面にガラスが載る製品が多い。ガラスは光の反射を招きやすい素材の一つだ。

採光の観点に目を転じると、昼光を利用するニーズが高まる気配だ。昼にブラインドなどの利用を控える開口部も増えるかもしれない。

光を反射させる建物と外の光を取り入れる建物とがそれぞれ増せば、反射光によるトラブルのリスクは高まるというわけだ。

CASBEEでも反射光を評価

高齢化が進めば、高齢者の要望の重みは一段と増す。高齢者の視覚は若い世代に比べて明るさを必要とする半面、まぶしさに敏感だ。

建物の内側では照明効率の向上を図る目的で反射性能の高い内装材を選ぶことがある。内装において反射光を活用する場合には、まぶしさなどへの配慮が不可欠になる。

社会状況の変化は年齢構成に限らない。対人関係も変ぼうした。内閣府は2007年度の国民生活白書で、希薄になった近隣関係を報告した。

図3 希薄になる近隣関係  内閣府が公表した2007年度の国民生活白書に基づく。回答者は00年は全国の20歳以上70歳未満の男女、07年は全国の20歳以上80歳未満の男女。「あなたは現在、隣近所の人とどのくらい行き来していますか」という問いに対する回答。

ドライな近隣関係はトラブル発生時の要求を強めることにもつながりかねない。従来はささいな問題で済んだ光の反射が、大きな問題に発展するリスクは決して小さくない。

現状では、建築基準法などに反射光を規制する規定はない。建物における反射の使い方や、反射が及ぼす影響への配慮は、設計者たちに委ねられている。反射の特性を踏まえた快適な内外環境の実現力が、設計者たちに問われているのだ。

法令での規定はないものの、建物が外部に及ぼす反射の影響を考慮した評価基準は存在する。環境性能を評価するCASBEE(建築環境総合性能評価システム)だ。CASBEEの中でも新築時の設計段階に用いる「CASBEE-新築」の敷地外環境の評価では、「昼光の建物外壁による反射光への対策」を採用した。03年に新築向けCASBEEを制定した時からの項目だ。

「環境省が照明に着目して制定した光害対策ガイドラインを参考にするとともに、反射光によるクレームの実例があったことを踏まえた」と、建築環境・省エネルギー機構建築研究部課長補佐の吉澤伸記氏は説明する。CASBEEの普及が進めば、外皮での反射光への対策が一段と重要になってくるに違いない。

図4 反射などを利用した環境配慮型の設計がもたらすリスク

建物の内外で快適な環境を得られる、本当の「環境建築」を実現するにはどうすればよいのか。本連載の次回からは、反射光が招いた近年のトラブルとその原因、事後処理の状況などを紹介する。そして、建物がもたらす反射光の問題について、設計段階や苦情発生後にどう対応すればよいのかを探っていく。

(日経アーキテクチュア 浅野祐一)

[日経アーキテクチュア2010年2月8日号の記事を基に再構成]

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