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JAL機内食に「ケンタッキー」 肉に一工夫、地上の味を再現

日本航空(JAL)は日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)と共同で、国際線の機内食としてフライドチキンを提供する。JALはこれまでも外食大手各社との協業で限定機内食「AIRシリーズ」を提供しており、今回はその第7弾。とはいえ、機内食として揚げ物を提供するのは異例のこと。地上のKFC店舗と変わらぬ味のフライドチキンを高度1万メートルの上空で実現するには、多くの試練があったという。

今回提供する「AIRケンタッキーフライドチキン」は、12月1日から2013年2月末までの期間限定。日本発の欧米行きの長距離国際線で、エコノミー/プレミアムエコノミークラスの2食目の機内食として、3カ月で計10万食の提供を予定する。骨付き手羽元と骨なし胸肉のほか、パン、レタス、マヨネーズベースの特製ソース、コールスローから成る。

「ケンタッキーのフライドチキンを機内で提供するのは、全世界で史上初めて。機内で店舗とどこまで同じクオリティーのものを提供できるかにこだわった」(日本ケンタッキー・フライド・チキンの渡辺正夫社長)という自信作だ。

開発は1年前に始動、「協業開始は1日で決まった」

両社の協業が始まったのはおよそ1年前、11年の冬のこと。JALは同年6月にAIRシリーズの限定機内食サービスを始めており「AIRモスバーガー」や「AIR肉まん」などを提供していた。その評判を聞きつけたKFCがJALに声をかけたのがきっかけだ。

協業を始める話は、わずか1日で決まったという。「実はJALも同じころ、KFCのフライドチキンを機内で出したいと考えていた」。機内食や機内エンターテインメントといった機内サービスを統括する、JAL商品サービス開発部開発グループの田中誠二グループ長はこう振り返る。

機内食は手軽に食べられ、多くの乗客に喜んで食事をしてもらえるものが求められる。しかも短時間に大量の配膳ができ、コストを際限なくかけられないという条件がある。こうした要求を満たす食材はおのずと絞られるわけだ。こうして、高度1万メートルの上空でフライドチキンを提供するというプロジェクトが始まった。

とはいえ、機内の厨房(ギャレー)はKFCの店舗よりはるかに小さく、調理に使えるのも出力の小さい電気オーブンのみ。しかも機内食で揚げ物を提供することはほとんどない。限られた設備で地上と同じ味を実現するため、試行錯誤を重ねたという。

ビスケットは断念も、パンに一工夫

最初のハードルは、提供するメニュー選びだ。当初はフライドチキンに添えるサイドメニューとして、パンではなくビスケットを提供する案もあったという。KFCのビスケットは、サクサクとした食感を保ちつつ生地を軟らかい仕上がりにした独自のもの。KFCらしさを打ち出せるメニューとして候補に挙がったという。

しかしビスケットの提供を実現するには、機内設備の少なさが壁となった。KFCのビスケットは、地上の店舗では温かい状態で提供される。機内で温めるには電気オーブンを使うことになるが、「フライドチキンを加熱するだけでオーブンが満杯になってしまうことが分かった」(田中グループ長)。

欧州線で使われるボーイング777型機は、エコノミー/プレミアムエコノミーの合計で200席に上る。200人分の機内食を適温まで加熱し、乗客を待たせることなく提供するには、オーブンを使う食材を絞り込むしかない。泣く泣くビスケットは断念し、常温で提供できるパンに変更した。

とはいえ、そこは意地の見せどころ。パンにも工夫を施した。地上の店舗で提供しているのと同じハンバーガーに使われる円形のバンズでは、乗客の両手がふさがってしまう。スペースに限りのあるエコノミークラスの座席で、両手がふさがるバンズを出すのは不親切だ。

そこで田中氏は、楕円形で厚さ2センチ程度の平べったいパンをKFCの開発チームに作ってもらった。そして、骨なし胸肉とレタス、マヨネーズソースを添え、乗客がこれらをパンに載せ、2つ折りにして食べられるようにしたのだ。平べったいパンなら、2つ折りにしても片手で十分持てる。併せて、乗客自身が食材を載せる仕組みを採ることで、そのプロセス自体も楽しめるというわけだ。

オーブンで加熱したらべちゃべちゃに……

AIRケンタッキーの開発過程で最大の難関だったのは、KFCの象徴ともいえるフライドチキンの仕上がりだ。実は機内食では、揚げ物をメニューに加えることはほとんどない。理由は簡単。調理が難しいからだ。

「天ぷらはもちろん、付け合わせで空揚げを加えるといった程度でも記憶にない」(田中グループ長)。機内で食用油を使い揚げ物をすることは、過熱や乱気流による火災といったリスクを考えれば難しい。厨房の限られたスペースの一部を揚げ物だけのために占拠するわけにもいかない。

既存の機内設備を改修せずにできることは、地上であらかじめ揚げたフライドチキンを冷凍し、機内の電気オーブンで加熱するという手法だ。ところが、機内と同じ設備で試作してみると「フライドチキンがべちゃべちゃになってしまう」(田中グループ長)。KFCの店舗では、フライドチキンを「ふっくらジューシー」な食感で提供することを至上命題としている。試作品の仕上がりは、KFCのブランドを付けて提供するには到底及ばない代物だった。

だからといって、「KFCとの協業でフライドチキンを出さないという選択肢はありえない」(田中グループ長)。そこからは地道な試行錯誤の繰り返しだった。出力が小さく、温度の上がらない機内の電気オーブンで、中まで十分な温度で熱するには、肉の形状と大きさを工夫する必要がある。火が通りやすいよう小ぶりなサイズとし、骨付き肉は地上の店舗で提供している手羽先ではなく手羽元とした。

また、機内食をスムーズに提供するには、2種類の肉の加熱時間をぴったりそろえなければならない。骨付き手羽元はやや小さめの30グラムとした一方、骨なし胸肉は食べ応えのある100グラムとして、異なる2種類のチキンの味を楽しめるようにした。

それだけではない。KFCでは肉の下ごしらえとして、肉を圧力釜で蒸して柔らかくする過程があるが、この時間をさまざまに変更して、機内での仕上がりにどう影響するかを確かめた。さらに、機内での仕上げ加熱も、オーブンの設定温度と時間を調整し、ようやく「ふっくらジューシー」な食感を再現することができたという。

営業便でこっそり試作

「実際の営業フライトに便乗して、サービスの空き時間にオーブンを使い、こっそりフライドチキンを加熱してみたこともあった。居合わせたお客様の中には、匂いで気付いた人もいたかも」。田中グループ長はちゃめっ気を見せながら振り返ったが、開発中は相当の重圧感を抱えていたようだ。最終的には、KFCの日本法人と米国本社から、それぞれ製品開発と品質管理部門のメンバーが集まり、上空で試食会を実施。お墨付きを得て、KFCのブランドを冠したフライドチキンの提供にゴーサインが出たという。

ようやく実現したAIRケンタッキー。鶏肉は国内産で、地上の店舗と同様に臭みを取るため餌にハーブを混ぜて育てた「ハーブ鶏」を使用。「11ハーブ&スパイス」と呼ぶ独自の味付けも、地上の店舗と同じという。一般に機内食は、系列のJALロイヤルケータリングなどの機内食工場で作られるが、AIRケンタッキーに関しては「ケータリング会社は積むだけ」(田中グループ長)。フライドチキンはもちろん、サイドメニューも含め、全てKFCの工場で製造し、品質検査を経て機内に積み込まれるという。

JALの植木義晴社長は「クリスマスシーズンでもあり、クリスマスメニューの代名詞であるチキンで乗客の皆様に喜んでほしい。お客様に喜んでいただけることが当社の活力になる」と狙いを語る。KFCの渡辺社長も「店舗に来る機会がない方にも、機内食という新たな機会でケンタッキーの商品を知ってもらい、地上で改めて来店いただければと思う」とプロモーション効果に期待を込める。

気になる1食あたりのコストを田中グループ長に尋ねると「通常の機内食とほぼ変わらない程度。とはいえ、KFCにはかなりご協力いただいているはず。お得感のある内容ですよ」と笑みを見せた。

(電子報道部 金子寛人)

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