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アップルに翻弄され続ける日本 山場は夏の「iPhone5」

ジャーナリスト 石川 温

スマートフォンブームに沸いた2011年。その話題の中心は米アップルのiPhoneだった。「iPhone5」が登場すると思いきや、10月4日に発表されたのは「iPhone 4S」。当初は肩すかしを食らった印象を受けたが、世界中で爆発的なヒット商品になっている。11年12月以降は日本メーカーによるワンセグおサイフケータイ、赤外線通信、LTEWiMAXといった高速通信機能までを積んだ「全部入りスマートフォン」が売られているが、それでもiPhoneの人気は衰えず、不動のものになった。

では12年はどういう1年になるのか。夏にも発売される「iPhone5」を巡る携帯電話業界の行方を、日本の3大携帯電話会社の思惑と重ねながら予測してみよう。

ネット品質に自信を持つKDDIの悩み

日本でiPhone人気がいっそう過熱したのは、11年10月にKDDIが取り扱いを始めたことが大きく効いている。KDDIは、つながりやすいとされる800MHz帯周波数を使ったネットワークを生かし、「iPhoneにもっとつながりを」とアピールする。11年末からゴルフ場や地下、鍾乳洞などKDDIのiPhoneが使えて、ソフトバンクモバイルが圏外になる場所をピンポイントで紹介して、エリアの充実度をアピールするCMを放映。一般にも広く「つながる」ことをアピールしている。

KDDIではネットワーク品質に圧倒的な自信を持っている。ソフトバンクの孫正義社長が決算会見で「ドコモ並みの接続率を誇る」としていたのに対し、KDDIは山手線内で実施した独自調査結果を公開。スループット測定サイトに接続した結果、KDDIがエラー率0%だったのに対し、ドコモは4.3%、ソフトバンクは11.3%で、大きく差が出たという。山間部でも「ソフトバンクのエリアマップでは圏内と書いてあるが、実際は圏外という場所も多い。圏内でもダウンロード速度は遅く、接続遅延(レイテンシ)も大きかった」(KDDI関係者)。

ソフトバンクは山間部などでは衛星回線を経由してエリアを構築している。衛星回線は安価にネットワークを広げるためには最適だが、通信速度は決して速くない。その点KDDIは、山間部でも光ファイバーなどを敷設してネットワークを構築している。この方式ではコストはかかるものの、安定した速度を提供できる。

その一方で、iPhoneの取り扱いノウハウがまだ蓄積されていないことがKDDIの大きな悩みとなっている。「我々にはまだiPhoneの販売に対する知見がない。日本国内に入ってくる在庫も少なく、お客さまにご迷惑をおかけしている状態が続いている」(KDDIの田中孝司社長)。端末の流通や在庫の調整がうまくいっておらず、消費者の需要を満たせていないのだ。

 現実に月に数台しかiPhoneを確保できない地方のauショップもあれば、潤沢に在庫を抱えている都内の家電量販店もあったりする。「在庫の偏りができているため、豊富に端末を抱えている代理店からKDDIが買い戻し、別の代理店に流すといったこともしている」(KDDI関係者)。

10月までauショップでは"Android(搭載のスマートフォン)がiPhoneよりもいかに優れているか"をアピールしてきた。それだけに、いきなりiPhoneを扱えるようになっても数カ月は現場が混乱し、苦労する場面が少なくなかった。田中社長は「販売現場の教育もこれから強化していく」として、iPhoneの扱いで現場をてこ入れする構えを見せた。

ばらまき戦略を取ったソフトバンク、アンドロイドも強化

iPhoneの販売力で大きなリードを保っているのがソフトバンクだ。10月のiPhone 4S発売以降、タブレット端末の「iPad2」を絡めたキャンペーンを展開し、従来のiPhoneユーザー囲い込みに成功している。

ソフトバンクのiPhoneユーザーが、ネットワーク品質を求めてKDDIに切り替えるケースもあるが、発売前の推定と比べると影響は軽微だったもよう。旧モデルとなるiPhone3Gや3GSからの機種変更で、負担を抑えられるキャンペーンの効果が見事に効いたようだ。

KDDIがiPhoneを取り扱い始めた直後は、ソフトバンクとしてアンドロイド搭載機の販売を強化してくるかと思いきや、むしろ逆の戦略を選択。これまで以上にiPhoneに肩入れするようになってきた。そのあおりを食ったのがソフトバンクにアンドロイドスマートフォンを納入する端末メーカーだ。「ソフトバンクがiPhoneの販売でインセンティブ(販売奨励金)を増額した。これでは販売店はiPhoneばかりを売るようになる。アンドロイド(端末を作る)メーカーには死活問題だ」(端末メーカーの営業担当者)。

これまでソフトバンクはiPhoneの販売で、販売店に支払うインセンティブを少額にしていた。販売店はiPhoneは薄利多売でさばき、一方でインセンティブと利益率が高いアンドロイド搭載スマートフォンを売ってきた。iPhoneで客を引き寄せ、アンドロイド端末を売るという構図であり、ソフトバンクにアンドロイド端末を納入するメーカーもそれなりに利益を出せていた。しかし10月以降KDDIと競争を強いられたソフトバンクは、iPhoneのインセンティブを増額せざるを得なくなった。その結果、アンドロイド端末を製造したメーカーがあおりを食ってしまった――というわけだ。

ソフトバンクは、他社からもiPhoneが発売されることは予測していたが、あの時期にKDDIが発売するとは思っていなかったようだ。そのため、矢継ぎ早にキャンペーンを打ち、インセンティブをバラまく対応しかできなかったと思われる。KDDIの参入で、販売戦略を大きく見直さざるをえなくなったようだ。

さしあたってはキャンペーンでiPhoneの販売を強化したソフトバンクだが、水面下ではアンドロイドスマートフォンの開発にも力を入れている。11年中ごろから開発部隊を強化しており、その成果は12年春に発売予定の「AQUOS PHONE 104SH」から出始めるという。

 ソフトバンク向けにはドコモ向けに開発した端末の兄弟機種が納入されるパターンが多い。開発コストを極限まで抑えたいメーカーが、「マルチキャリア展開」を選択するからだ。しかしそれでは、ソフトバンクとしての差異化が難しくなってしまう。

「iPhoneのものづくりを間近で見ていることもあり、日本メーカーのスマートフォンの開発に対するアラが目立って見える。徹底的に注文をつけることで、兄弟機種でもドコモ向け製品よりもクオリティーの高いスマートフォンを作っている自信がある」(ソフトバンク製品開発担当者)。見た目はドコモの兄弟機種だが、中身や細部にこだわり、徹底した"ダメ出し"で品質を高め、ドコモとの差異化を図ろうとしている。

他社がiPhoneを取り扱うことで大きな個性を失いつつあるソフトバンクだが、これからは、長年iPhoneを見てきたノウハウをアンドロイドスマートフォンにも生かそうという考えのようだ。

急激なXiシフトで割を食った日本メーカー

もう1社、大きな方向転換を迫られたのがNTTドコモだ。ドコモは「NEXT」と「WITH」という2つのシリーズのうち、11年の年末商戦では「WITH」を訴求するはずだった。同シリーズはおサイフケータイ、ワンセグ、赤外線といった日本特有機能を載せ、さらには日本市場のニーズに合わせている。

しかし秋にKDDIがiPhoneを投入し、ソフトバンクとiPhone販売合戦に乗り出すという変化に直面。高機能路線としてLTEに対応した「Xi」スマートフォンを中心に据える戦略にシフトした。

戦略転換の割を食ったのが、WITHシリーズに注力していた日本のメーカーだ。「Xiスマートフォンを準備できていればよかったが無理だった。まさかNTTドコモがこれほどXiスマートフォンに注力するとは思っていなかった。KDDIによるiPhone販売の影響がここまで波及してきた」(メーカー関係者)。

販売の現場では、Xiスマートフォンに人気が集中した一方で、WITHシリーズの「AQUOS Phone」(シャープ製)や「ARROWS Kiss」(富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製)も健闘している。バッテリー寿命やXi対応エリアの狭さなどから、3Gスマートフォンを売りたがる販売員も多いようだ。

ただ、やはり気になるのが、NTTドコモでも「iPhoneを取り扱うのではないか」という噂だ。

答えはアップルの開発者向けイベントで

11年12月初旬、NTTドコモとアップルがiPhone発売に向けて合意した、という報道が一部であった。ドコモはすぐさまこの報道を否定するコメントを自社ホームページに掲載。「社長が渡米したという事実もない」(広報部)と言うほど強く反応した。

実際、12年6月に登場する可能性が高いiPhone次期モデルの発売について、半年以上前からドコモとアップルが合意できるとは考えにくい。水面下でLTE対応iPhoneの技術試験を進めている可能性はあるものの、最終合意は発売の直前になるのが自然だ。

 アップルからNTTドコモに対しては、販売に関して厳しい条件が突きつけられている。これは世間で言われている販売台数やプロモーション程度で済むレベルではなさそうだ。それくらいの条件であれば、山田隆持社長の判断でどうにでも受け入れられるはずだ。「iPhoneではiモードのような日本特有のサービスに対応できないのが欠点」というドコモ幹部のコメントも、表向きの言い訳にしか聞こえない。こうした次元の話ではなく、アップルからは山田社長やドコモ幹部だけでは了承できない、NTTグループも関連した突拍子もない条件が与えられているという。

ドコモからiPhoneが発売されるかどうかは、例年6月ころに開催されるアップルの開発者向けイベント(WWDC)で答えが出るだろう。この場でiPhoneの次期モデルが発表され、LTEに対応していれば、NTTドコモからの発売は現実味を帯びてくる。12年夏にiPhoneが対応する周波数帯で、全国規模でLTEの商用サービスを展開できているのは国内ではNTTドコモだけ。日本でLTE対応iPhoneを扱えるパートナーとしてはNTTドコモが最適なのだ。

もうひとつドコモでは、6月に役員人事があるとされている。山田社長は6月で社長就任から満4年。慣例通りなら交代するタイミングである。KDDIが田中社長に交代したとたんにスマートフォンへのシフトを加速させたように、ドコモでも社長交代がiPhoneシフトへのきっかけになってもおかしくない。

iPhone 4S発売以降のMNP(モバイル番号ポータビリティー)制度を使った流出数が転出超過となっている現状からも、ドコモとしてはiPhoneを導入したいというのが本音だろう。しかしアップルからの厳しい条件を飲むことはできない。

ドコモとしては他社に先駆けて構築したLTEインフラにアドバンテージがあるうちにアップルの態度を軟化させられるかが、iPhone導入の鍵を握ることになりそうだ。

iPadもマルチキャリア化へ

アップルのタブレット端末iPadは、「iPad3」と噂される次期モデルでは、iPhone同様に1台でW-CDMA方式とCDMA2000方式の2つをサポートするのは間違いないだろう。そうすればKDDIがiPadを取り扱うのも自然な流れだ。

iPhone、iPadが複数の携帯電話会社で使えるマルチキャリア展開を進めるほど、ソフトバンクとKDDI、さらにはNTTドコモまでもがアップルに翻弄されるようになる。アップルの支配力が高まっていくなか、12年はますます「携帯電話会社として、ほかとどう差異化するか」について頭をひねる年になるだろう。

石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「スティーブ・ジョブズ 奇跡のスマホ戦略」(エンターブレイン)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

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