2019年9月16日(月)

スマートシティが「業界」の壁を崩す日

2010/6/1 9:00
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世界で一斉に「スマートシティ」の実証実験が始まった。有名なところではアラブ首長国連邦の「マスダール・シティ」、オランダの「アムステルダム・スマートシティ」、中国の「天津エコシティ」などがあるが、これらは氷山の一角にすぎない。実は200を超えるプロジェクトが世界中で進行している。

写真1 2010年5月に日本経済団体連合会(経団連)が視察団を送り込んだ、中国唐山市にある「曹妃甸エコシティ」

写真2 曹妃甸エコシティは「新都市型」の典型例といえる。2020年には人口80万人の大都市にしようという構想だが、現在はまだ一人も住んでいない

このスマートシティとは一体何なのか。実は明確な定義がなく、立場によってとらえ方が違うというのが本当のところだ。あえて言えば「最新技術を駆使してエネルギー効率を高め、省資源化を徹底した環境配慮型の街づくり」となろう。そこではエネルギー関連はもちろん、水、交通、廃棄物など、あらゆる産業が絡み、多くの最新技術が使われる。

その市場規模も巨大だ。スマートシティの中核技術の一つであるスマートグリッド(次世代送電網)について、日米欧で進められているプロジェクトの投資額を合計しただけでも、2030年までの累計で100兆円を大きく超える(野村証券の予測)。スマートシティ全体となると、都市インフラ整備への投資額が2030年までに世界で41兆米ドル(1米ドル91円の換算で約3730兆円)という途方もない数字になる(ブーズ・アンド・カンパニーの調査)。

ここまで大きいと、さすがにとらえどころがない。そこで、スマートシティをいくつかの視点で分類してみよう。

壮大な実験が始まった

最も分かりやすいのは「新都市型」と「再開発型」に分類する方法である。新都市型は、それまで都市がなかった場所に文字通り最新鋭の都市を造るもので、新興国に多い。代表例は、前述したマスダール・シティのプロジェクトである。

マスダール・シティでは、すべての電力を太陽電池や風力発電などの再生可能エネルギーで賄う。石油などは使わない。2006年に「マスダール・イニシアチブ」という組織が立ち上がり、建設費だけで220億米ドルを投じる。マスダールには1500社が入居し、居住者は4万人になる計画である。このように新都市型は、交通や電力、水といったあらゆるインフラに最先端技術を盛り込めるため、エネルギー効率を一気に高めやすく、それだけ環境負荷も小さくなる。ただし、事業費は数兆円と大きくなる場合が多い。

一方の再開発型は、先進国に多い。アムステルダムのプロジェクトが、その代表例といえよう。既にあるインフラを利用するが、そこにセンサーや制御機器を追加してエネルギー効率を高める。新都市型ほど劇的な効果は望めないが、街の景観はあまり変えずに済むし、事業費は数億円から数百億円に収められることが多い。我が国で「次世代エネルギー・社会システム実証地域」として2010年4月8日に経済産業省が発表した横浜市、豊田市、京都府、北九州市における取り組みも、この再開発型に分類できる。

この分類法とは視点を変えて、「離島型」や「広域型」といった分類をすることも可能である。

離島型の代表例は欧州のマルタ島や韓国の済州島などである。離島は、電力網をはじめとするインフラが独立性の高い状態で存在していることが多い。このため、大陸側の大規模なインフラなどに影響を与えない形で各種の実証実験を展開できる。事業費は数億円から数十億円の場合が多い。こうした性質を生かし、例えば済州島のプロジェクトでは韓国企業の最先端技術を集め、世界進出に向けたショーケースを作ろうとしている。

これに対して、複数の都市にまたがってエネルギー効率を高めることを目指し、事業費が数十兆円と大規模になることもあるのが広域型である。中でも有名なのは「デザーテック」だろう。サハラ砂漠に降り注ぐ太陽熱を電力に変換し、地中海ケーブルで欧州の各都市に送り込む。総事業費は4000億ユーロ(1ユーロ110円の換算で44兆円)の壮大なプロジェクトである。

100都市のスマートシティ化に動き出す中国

今、日本企業が熱いまなざしを送っているのが中国のスマートシティである。市場規模が大きいことに加え、事業参入の可能性が欧州や米国に比べて高く見えること、地理的に近いことなどが理由である。冒頭で述べた天津郊外の「中新天津生態城(中国・シンガポール天津エコシティ)」が先行しており、2012年までに基本インフラを整え、2020年までに人口35万人の都市を造る計画だ。総投資額は2500億元(1元15円の換算で3兆7500億円)。上記の分類では新都市型に当たる。

実はこの天津エコシティ、中国で13あるエコシティ・プロジェクトの一つに過ぎない。このほか、新都市型で3つ(唐山曹妃甸、北川、トルファン)、再開発型で9つ(蜜雲、延慶、徳州、保定、淮南、安吉、長沙、深セン、東莞)のプロジェクトが進んでいる。最近、この中で一躍注目を集めたのが「曹妃甸エコシティ」である(写真12)。2010年5月に日本経済団体連合会(経団連)が視察団を送り込んだこのプロジェクトは、2020年に人口80万人という大都市をつくり出そうという構想である。

中国には大都市が600近くあるが、このうち100都市を「エコシティ化」する計画だ。つまり、今回の13のエコシティ・プロジェクトはモデルケースであり、技術や政策を実証するのが目的である。その後、これを100都市に展開する。国内の産業界が今、中国のエコシティ・プロジェクトに注目するのは、最初の「13」に食い込むことで、その後の「87」での事業も手に入るのではともくろんでいるからである。

スマートシティは今後、あらゆる産業界に影響を及ぼしていく。前述の電力網や交通、水のほかにも、スマートハウス、スマートビル、グリーン・ファクトリー、電気自動車、ゴミ処理など多岐にわたる。これを産業別で見ると、電機、自動車、機械、IT(情報技術)、建設、素材、金融など、関係のない産業が見つからないほどだ。そして、それぞれの産業が新たなビジネスチャンスを持っている。例えば電機業界はスマートメーター、スマートグリッド家電、IT業界は超高速通信ネットワーク、クラウドコンピューティング、建築業界は省エネ照明・空調、新型断熱材、自動車業界は電気自動車や充電設備など、挙げていけばきりがない。

「もう『業界』という考え方は限界を迎えている」。スマートシティにかかわろうとする企業の中には、このような考え方を持つ経営者が出てきている。例えばスマートグリッドはIT業界とエネルギー業界の交わったところに位置し、スマートハウスになるとこれに建築業界が加わってくる。既存産業の枠組みでスマートシティの事業をとらえていては、事業獲得に乗り遅れるかもしれない。

(日経BPクリーンテック研究所長 望月洋介)

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