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日本のカボチャは「パンプキン」ではない?

NIKKEI STYLE

ハロウィーンの季節がやってきた。ハロウィーンといえばカボチャ。この時期、あちこちで「パンプキン」の文字が躍っている。しかし実は、日本のカボチャのほとんどはパンプキンではないという。どういうことか。専門家に聞いてみた。

パンプキンはオレンジの果皮のカボチャだけ

「カボチャには大きく分けて西洋カボチャ、日本カボチャ、ペポカボチャの3つがあります。米国では熟したオレンジ色の果皮のペポカボチャのことを、パンプキンと呼んでいるようです」

北海道農業研究センターの主任研究員、嘉見大助さんが教えてくれた。嘉見さんによると、英語ではカボチャのことを総称して「スクワッシュ(Squash)」といい、西洋カボチャは「ウインター・スクワッシュ」、日本カボチャは「トロピカル・スクワッシュ」などと呼ぶことが多いという。ペポカボチャは「サマー・スクワッシュ」といい、その一部をパンプキンというらしい。

つまり、パンプキンとはカボチャの中のごく一部のものを指す。裏返せば、日本で一般的に食べられているカボチャはパンプキンではなく、「ウインター・スクワッシュ」ということでもある。日本の店頭に並ぶカボチャは大半が西洋カボチャになっているからだ。

北米では日本で主流の西洋カボチャのことを「カボチャ・スクワッシュ」と呼ぶこともあるようだ(ルーキー・ウェール、ジル・コックス著「世界の食材図鑑」より。同書では日本カボチャは「ジャパニーズ・スクワッシュ」となっていた)。日本では「西洋からきた」といわれ、海外では「日本のもの」とみなされる。カボチャの呼び方の混乱は、こんなところにも垣間見える。

カボチャは英語で「スクワッシュ」「スカッシュ」

このパンプキン、日本ではもっぱらハロウィーンの飾り物だが、米国ではペースト状に加工して食べている。繊維質で処理が大変なため、裏ごししてペースト状になったものが缶詰として売られている。スープやパイなどに使われるらしい。

ちなみにカボチャを意味する「スクワッシュ」には、同じつづりの動詞や名詞がある。動詞では「押しつぶす」「鎮める」などの意味があり、名詞になると「スカッシュテニス」「レモンスカッシュ」といった言葉でおなじみだ。このため、カボチャのこともスクワッシュではなくスカッシュと書くこともある。ただし「サマー・スカッシュ」だとなんだか飲み物のようで紛らわしい。

辞書で調べてみると、パンプキンには様々な意味がある。ランダムハウス英和大辞典(小学館)によると、「He is some pumpkins」は「彼はたいした男だ」という意味になるが、一方で「s」を付けない「pumpkin」には「ずうたいの大きい人、抜けている人」という意味もあるという。さらには「pumpkin head」だと「のろま、うすのろ、ばか者」となるとか。英語は難しい……。

カンボジア経由で伝わったからカボチャに

ところで、そもそも日本ではなぜ「カボチャ」という名前が付いたのか。

「野菜園芸大百科」(農文協)によると、16世紀中ごろ、カンボジア経由で大分に漂着したポルトガル船が伝えたことからカボチャ、と呼ばれるようになったらしい。

最初に伝わったのは今でいう日本カボチャだったという。中国の南京から伝わった瓜(ウリ)という意味で「南京瓜」「南京」と呼ばれることもある。日本カボチャは煮崩れしにくく、煮物用として定着していった。

19世紀になると米国からも別の品種が伝わり、「西洋カボチャ」と呼ばれるようになった。当初は飼料用だったが、品種改良が進み食用として急速に普及していった。西洋カボチャは日本カボチャに比べて甘みが強く、ホクホクした食感が特徴。高度成長期以降は西洋カボチャが主流となっていった。

大手卸、東京青果の加藤宏一さんは「日本人はホクホクした食感が好き。流通しているカボチャの8割くらいが西洋カボチャではないか」と話す。スーパーの店頭では、「えびす」「みやこ」など西洋カボチャの品種が大半を占めている。

家計調査をみると、カボチャを最も多く食べる都市は新潟市。最も少ない那覇市の倍近い量だ。日本経済新聞の「食の日本地図」を見ると、カボチャのここ数年の支出金額が一目で分かり興味深い。

タネ専門のカボチャも登場

最近では新品種も増えてきた。大手種苗会社、タキイ種苗が開発した「ロロン」はラグビーボールのような形。ホクホクしていてきめ細かい味が特徴だという。

「くり将軍」は非常に大玉で、甘みが強い。「鈴かぼちゃ」は生で丸ごと食べられる個性派だ。皮やタネもそのまま食べられるという。

カボチャの主産地、北海道で今年から本格的に栽培が始まったのが「ストライプペポ」。その名の通り、ペポカボチャの一種だ。北海道農業研究センターが育成した期待の品種だという。

このカボチャ、最大の特徴はタネを食べるための品種だということ。これまでもカボチャのタネを食べることはあったが、加工に手間がかかることからなかなか普及しなかった。

ストライプペポはこの問題点を解決した。一般的にカボチャのタネは硬い殻に覆われているが、新品種にはこの殻がない。いためればナッツのように食べられるという。タネの量も多いといい、関係者の期待を集めている。

ただし他のペポカボチャと共通の悩みが、果肉部分の活用法。北海道農業研究センターの嘉見さんによると、甘みが弱く、水分が多くてべちゃべちゃした食感だという。同センターでは加工品開発の協力者を募集している。

カボチャの旬は夏から秋だが、貯蔵することで甘みが増していく。食欲の秋。パンプキンを飾り、ペポのタネをつまみ、甘いスクワッシュを楽しみたい。(電子報道部 河尻定)

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