ポスト京都議定書、米の提案が議論のベースに - 日本経済新聞
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ポスト京都議定書、米の提案が議論のベースに

高村ゆかり名大教授

編集委員 滝 順一

地球温暖化対策の国際枠組みを話し合う国連の会議がこのほどドイツのボンで開かれた。現行の京都議定書に続く、新たな枠組みづくりに関し、米国が積極的な提案をして注目された。国連の交渉を追い続けている名古屋大学の高村ゆかり教授に会議の動向を聞いた。

代替フロンのHFC削減に注目

――国連気候変動枠組み条約に基づき「ポスト京都議定書」のありようを議論する「ダーバン・プラットフォーム特別作業部会」(ADP)の第2回会合が4月下旬から5月初旬にかけて開かれました。どのような会議だったのですか。

「まだ何かを決める段階ではないため、意見対立も少なく、温暖化ガス減らしの具体的な取り組みの推進について情報交換が前面に出た。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が再生可能エネルギーの展開のカギを説明したり、温暖化対策に取り組む都市の集まりである世界大都市気候先導グループ(C40)が成功例を紹介したり建設的な話題が目立った」

「ただ2020年以降の(ポスト京都議定書の)新しい枠組みの合意案を2年後(15年5月)までにまとめ、同年末の合意を目指すには時間があまりないことは、すべての参加国が意識している。次の会議(今年6月)はもっと白熱したものになるだろう。他方、20年までの(京都議定書第2約束期間の)削減をもっと高いレベルまで引き上げる必要もある。その点については、今年11月にポーランドで開くCOP19(第19回気候変動枠組み条約締約国会議)で具体的な成果をあげたいとする雰囲気が強い」

――例えば、どんな成果が考えられますか。

「代替フロンのHFC(ハイドロフルオロカーボン)の削減について、フロン対策を担うモントリオール議定書の下でしっかり進めることをCOP19で決議すべきだと欧州が提案した。HFCはオゾン層の破壊効果はないが、二酸化炭素(CO2)に比べ、数百~1万倍以上も大きな温暖化効果がある。代替フロンの削減では日本や米国など先進国に反対はない。中国やインドなどは代替フロンの生産に切り替えたばかりでもあり、反対にまわりそうだが、最終的にはHFC廃止に向けた資金や技術面での先進国の支援の引き出しを狙った交渉になるとみている」

 ――ほかには。

「化石燃料への補助金撤廃でも欧州は合意したいようだ。しかし資源国から抵抗があり、どうなるかわからない」

小島しょ国など途上国の納得得られるか

――ポスト京都の枠組みに関し、米国がボトムアップによる目標設定方式を提案したことが注目されました。現行の京都議定書第2約束期間の目標(13年~20年)は「カンクン合意」と呼ばれ、各国が達成目標をそれぞれ宣言しました。これと似たやり方らしいですね。

「カンクン方式だけでは世界全体で削減が必要な量に届かない恐れがあるので、米国提案は一工夫して、各国が目標を出した後、国際的な協議(コンサルテーション)を通じて目標の積み増しをするという内容だ。なるほどとは思うが、モラルハザードの懸念がある。どうせ積み増されるのなら『のりしろ』を残して(低めの)提案をする国が出てきかねず、まじめに出した国が損をするかもしれない」

「ただ、米国がこうした提案をすること自体は注目すべき動きだといえる。中印もこの提案には強く反対してはいない。先進国がより高い目標を掲げるのなら、自分たちもこの方式にのってもよいと考えているようだ。議論のベースになると思う」

「難しいのは、小島しょ国など途上国の納得が得られるかどうかだ。各国の自主的な約束だけでは、地球の平均気温の上昇を産業革命以前に比べ2度未満に抑えるとの国際的な共通目標が実現できないかもしれないからだ。気温上昇に伴う気象災害や海面上昇に対し、途上国の危機感は高い。逆に2度未満に抑える目標達成を狙って、各国の目標の積み増しに向け強い国際圧力がかかるのでは、結局は京都議定書と同じトップダウンの決定に似てくる。このさじ加減が難しいだろう。先進国が目標引き上げに前向きになるインセンティブを備えた仕組みにする必要があるだろう」

取材を終えて


 米海洋大気局(NOAA)は、ハワイ島のマウナロア観測所で5月に観測したCO2の大気中濃度が400ppm(ppmは百万分の1)を超えたと発表した。産業活動の影響を受けにくい太平洋の真ん中でCO2の継続観測が始まったのは1958年。当時は約315ppmだった。産業革命以前は約280ppmだったとされる。CO2濃度は急ピッチで上がっており、「2度未満」の目標達成に必要とされる450ppmをこのままでは突破しそうな勢いだ。
 世界全体でCO2排出に歯止めをかけねばならない。しかし厳しい義務的目標を課そうとすると大排出国の米国や中国などが参加を渋るだろう。ボトムアップ方式は全員参加の体制づくりとして一案であり交渉のベースになるかもしれないが、あまり緩すぎては意味がない。「中間のどこに落とすか」(高村教授)がこれからの温暖化対策の国際交渉のポイントになりそうだ。

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