子どもを守る 「いじめ」見抜く方法 - 日本経済新聞
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子どもを守る 「いじめ」見抜く方法

 いじめの報道に接するたびに心を痛める。子どもたちを傷つけないために、親が何をできるのだろう。自分たちの問題として考えたい。わが子が発しているサインを見逃さないためのチェックポイントも紹介する。

「親友にだけは本音が言えない」。最近の子どもたちがよく言う言葉として児童心理司の山脇由貴子さんが著書『震える学校』(ポプラ社)の中で触れている。親友だからこそ本音が言えるのではないか。山脇さんにその点を尋ねると、「そもそも親友の意味が違うのです」と説明してくれた。

「彼らにとっての親友とは表面的に一番仲のいい子、一緒にいる時間が一番長い子です。本音を言ったら嫌われるかもしれない、いじめられちゃうかもしれないと思っているのです」

友達関係に「信頼」がない。では子どもたちが信頼に基づいた本当の意味での親友を持てれば、いじめをめぐる環境も変わるのだろうか。だが山脇さんは懐疑的な見方をしている。

ネットが変えた交友関係

「そもそも携帯電話がある限り、そういう信頼関係ができないのではないかと考えているのです。メールが来たらすぐ返す。LINEで取り残されないようにする。そうしないと明日から友達がいなくなってしまうという不安の中で生きている」

誰にでもなれるネットの中で、ひょっとしたら"友達"が自分の悪口を言っているかもしれない。見えないところで自分を傷付ける何かが進んでいるかもしれない。子どもたちにとって、この不安はとてつもなく大きい。だからいまどきの子どもは自分の名前を入力してネットで検索したりするのだ。自分に関する何かが書かれているのではないかと。

では携帯電話を持たなければいいのではないか。

「今度は持っていないことでいじめられます。持っているのがスマホじゃないということで中学生がいじめられたケースもあります」(山脇さん)

際限のない話なのだ。これくらい子どもたちとネットは切り離せない関係になっており、いじめには必ずネットが絡む。ケータイやスマホばかりいじっていた子どもが急に触らなくなったのなら、背景にいじめがあると考えてもいいのである。

いじめは全員が加害者

いじめは誰もが加害者になるし、いじめが始まると全員が参加することを強要され、全員が加害者となる。ターゲットが変わり、いじめていた子がいじめられるようになったり、いじめられていた子がいじめるようになったりする。いじめる側にいることが、いじめられないための最適の手段である。山脇さんは著書『教室の悪魔』(ポプラ社)で、いじめの実態についてこう指摘している。

誰もがいじめをする可能性はあるのだ。この認識がいじめ問題に取り組むときに欠かせない。

ただ、いじめる側の中心になりがちの子には共通した要素が見られると指摘するのは、いじめ問題に取り組むNPOジェントルハート プロジェクト理事の武田さち子さんだ。

「子どもが何らかのストレスを受けている場合が多い。受験のために毎日勉強で、点数が下がるとお小遣いがもらえないという子もいる。そういう子がストレスをため込んで、いじめに走ります」

勉強にしてもスポーツにしても早期教育が流行。普段から課題ができないと大人から厳しく注意されたり、場合によっては罵倒されたりしている。すると、「学校でできない子を見て、自分がされるのと同じようにその子にきつく当たるようになる。頑張らない子を見ると、許せなくなる」(武田さん)。

自分の親や他の大人を通じて身に付けた価値観や物事に対する態度が、いじめに関する行動にもつながっているのだ。

こういった点から武田さんは、中心となった加害者に対するカウンセリングこそ必要と主張する。「私の知る限り、大きな事件を起こした子どもたちには、必ずストレスにつながる背景があった。ほとんどが親の問題。加害者の子が何にストレスを感じているのかを突き止めるのが大切です」

悪いのは誰かが問題なのではない

今のいじめは子どもだけで解決するのは難しい。親や教師が問題解決にどう取り組むかが大きなポイントだ。だがその大人の行動がずれている。

「子ども世界に問題が起こると、必ず大人同士が敵対する。悪いのは誰かという話に終始して、うちは関係ない、悪くないと思おうとする。その延長線上にはうちの子さえよければいいという考えがある。それではいじめは絶対に解決しません」と山脇さん。

武田さんもこう指摘する。「今のいじめは被害者や加害者だけでは絶対に解決しない。社会の問題としてさまざまな人が取り組みに参加する必要があります」

いじめはすべての親にとっての問題。こう考えることが解決への最初の一歩なのだ。

サインを見逃さない ~いじめを見抜く方法~

いじめの報道に触れるたびに、「親はどうして気が付かなかったのだろう」と疑問に思うことはないだろうか。自分の子どものことなのだから親なら気が付くはずだと。だがそれを児童心理司の山脇由貴子さんはあっさり否定する。「気付かなくて当然です。子どもは必死に隠しますから。一生懸命明るく振る舞っていますよ。たくさんウソをついて。学校からの帰り道、家ではこういう話をしようと、一生懸命作り話を考えながら帰るんです」

なぜウソをつくのか。それは親に知られたら、結果としてもっとひどい目に遭うと思うからである。「両親は自分のことを大事にしてくれる。いじめのことを知ったら、きっと学校に行くだろう。するとそのことを知った加害者が、『どうしてチクった』と言って、もっとひどいことをするに違いない。こう考えるわけです」

山脇さんは『教室の悪魔』の中で、「子どもは自分の親が子ども思いで正義感が強いと信じていればいるほど、いじめの事実を必死に隠そうとする」と指摘している。

ではいじめを見抜く方法はないのか。上に示したのは、同書から引用したいじめを見抜くためのチェックリストだ。この項目を意識しながら子どもの様子を普段からきめ細かく観察したい。ただし、当てはまる項目があったとしても、子どもに対してすぐに「いじめられているんじゃないの」と問いただすのはNGだ。

さてもう一つ気になるのが、自分の子がいじめをしていないのかということ。「いじめている」兆候というのはないのだろうか。

この点について山脇さんは、「授業参観などに来なくていいと言うなど、いじめられているケースとポイントは似ている」と説明する。そのうえで、金遣いが荒くなった、持ち物が急に増えた、付き合っていなかったはずの友達と最近仲がいい、妙にテンションが高いといった点に注意すべきと指摘した。

この人たちに聞きました
山脇由貴子さん
 児童心理司。東京都児童相談所の児童心理司として年間200以上の家族から相談を受ける。教育委員会などからの依頼を受け、学校改革アドバイザーとしても活躍。著書に『震える学校』(ポプラ社)など。
 
武田さち子さん
 ジェントルハート プロジェクト理事。いじめ問題に取り組むNPOの理事であり、教育評論家としても活躍。全国の小中学校などで講演活動を行っている。著書に『わが子をいじめから守る10カ条』(WAVE出版)など。

(日経BP生活情報グループ別冊編集長 尾島和雄)

[『日経キッズプラス 当たり前ができる子に育てる 心の教育』の記事を基に再構成]

 『日経キッズプラス 当たり前ができる子に育てる 心の教育』では、「いじめをどう解決すればいい? 親ができること」「子どもにストレスをかけているのはこんな親」「親に必要な発想の転換ポイント7」「子どもの生きる力を育てるために親ができること」などを掲載している。

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