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米NYタイムズ、162年目の大改革 相次ぐ事業・資産売却

世界展開へ攻めのリストラ

1851年創刊の名門新聞社、米ニューヨーク・タイムズが事業構造の大改革に乗り出している。昨年以降、傘下の地方紙や情報サイトなど非中核事業を次々と売却。残る有力地方紙ボストン・グローブの売却方針も打ち出した。一見すると守りに入っているようにみえるが、看板の「NYタイムズ」に経営資源を集中し、グローバルなニュースブランドとして本格展開するしたたかな戦略がある。

資産圧縮のため、2009年には本社ビルも売却した(ニューヨーク市内)

経営資源を「看板媒体」に集中

「(ボストン・グローブを中核とする)『ニューイングランド・メディア・グループ』を売却する我々の計画は、NYタイムズのブランドと報道に戦略的フォーカスと投資を集中させるコミットメントを示すものだ」。昨年11月に就任したマーク・トンプソン最高経営責任者(CEO)は20日の声明でこう強調した。

NYタイムズは1993年にボストン・グローブを11億ドル(約1000億円)で買収。ともに100年以上の歴史を誇る新聞同士の"ロイヤル・ウエディング"として注目を集めた。

だが、インターネットの台頭でボストン・グローブの発行部数は20年間でほぼ半減。ニューイングランド・メディア・グループは今もNYタイムズの売上高の2割を占めるものの、業績は伸び悩んでいた。

NYタイムズの最近の主な動き
<2012年>
1月地方紙16紙を含む「リージョナル・メディア・グループ」を1億4300万ドルで売却
4~6月大リーグ球団ボストン・レッドソックスの残り保有株を6300万ドルで売却
6月中国語のニュースサイトを開設
9月情報サイト「アバウト・ドット・コム」事業を、米ネット複合企業IACに3億ドルで売却
求人情報サイト「インディード」の保有株を、リクルートに売却
11月英BBC元会長のマーク・トンプソン氏がCEOに就任
12月編集局で30人の早期退職者を募集開始
<2013年>
2月有力地方紙ボストン・グローブを含む「ニューイングランド・メディア・グループ」の売却方針を発表
傘下の国際紙「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」の名称を今年後半から「インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ」に変更すると発表
後半ポルトガル語のニュースサイトを開設(予定)

過去1年間あまりのNYタイムズの事業・資産売却のペースはすさまじい。

2012年1月に傘下の地方紙16紙を一括売却したのに続き、大リーグ球団ボストン・レッドソックスの保有株、情報サイト「アバウト・ドット・コム」事業、求人情報サイト「インディード」の保有株を立て続けに売却。ボストン・グローブの売却が実現すれば、11年末時点で4つあった事業部門は、NYタイムズを核とする「NYタイムズ・メディア・グループ」1つになる。

ダウンサイジングで成長への軍資金確保

大胆なダウンサイジングは2つのメリットをもたらした。1つは財務基盤の強化。売却益などにより、12年末時点の手元資金は9億5500万ドルと、11年末(2億7900万ドル)から大きく増加した。

負債総額を2億6000万ドル近く上回る実質無借金を実現しただけでなく、成長投資に回せる「軍資金」を確保した。

もう1つはNYタイムズへの経営資源の集中だ。1872年創刊のボストン・グローブは伝統ある有力地方紙として、ファンも多く(ゼネラル・エレクトリック前CEOのジャック・ウェルチ氏も熱心な読者の1人として有名)、最近始めた電子版も好調だが成長余地は小さい。

 一方、世界に目を転じれば、中国やブラジルなど新興国は先進国を上回る経済成長が見込まれている。英国放送協会(BBC)会長から転身したトンプソンCEOが「グローバルに通用するほんの一握りのニュースブランドの1つ」とほれ込んだNYタイムズの将来を考えれば、名より実を取るボストン・グローブ売却は「必然的な一歩」(米調査会社アウトセルのケン・ドクター氏)だった。

NYタイムズのグローバル・シフトはすでに始まっている。

中国、ブラジルでは人員増強

NYタイムズが昨年6月に開設した中国語ニュースサイト

昨年6月にまず中国語のニュースサイトを開設。今年後半にはポルトガル語のニュースサイトを開設する。さらに25日には、傘下の国際紙「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」の名称を、今年後半にも「インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ」に変更する計画を発表した。

急成長するNYタイムズの電子版(英語)は月11本以上の記事閲覧は有料だが、中国語とポルトガル語のニュースサイトはどちらも当面は無料。掲載する記事の3分の2は、NYタイムズの翻訳記事を掲載するが、残り3分の1は現地で新たに採用する記者が執筆する。

米本社では最近、編集局で約30人の人員削減を実施したが、中国では30人程度の記者と技術者を採用。ブラジルでも同程度を採用する計画で、人員面でもグローバル化が進む。

「20世紀末の事業モデル」から脱却へ

「すでに我々の事業は、(紙の広告収入に大きく依存した)20世紀末の米国の典型的な新聞事業のモデルとは大きく異なっている」。トンプソンCEOは今月7日の決算会見でこう強調した。2011年春に踏み切った電子版の有料化が奏功。12年は通期で初めて購読料収入が広告収入を上回ったのは、その一例だ。

「4月の決算会見では、策定中の新たな成長戦略についてより詳しく話したい」。こう予告したトンプソンCEOが、オーナー家出身のアーサー・サルツバーガー・ジュニア会長とともにどんな新戦略を打ち出してくるのか。全米のメディア関係者の視線が注がれている。

(ニューヨーク=小川義也)

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