2019年9月19日(木)

日米外交60年の瞬間 第3部

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暫定協定だった旧安保条約 サンフランシスコへ(7)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2011/10/1 12:01
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東京とワシントンからの発信の紹介を続ける。日本にとって直接関係があったのは、1951年4月19日のダレスの東京での記者会見である。一方、トルーマン大統領は記者会見ではなく、ホワイトハウス声明の形で太平洋の防衛構想を明らかにした。

■「相互援助が基本」とダレス

銃を携えて街頭を警備する進駐軍(1951年)=毎日新聞社提供

銃を携えて街頭を警備する進駐軍(1951年)=毎日新聞社提供

ダレスは記者会見では対日講和について話したと前回書いたが、正確に言えば、対日講和のパッケージのなかに入っている日米安全保障条約と対日講和条約そのものについて話した。2011年9月8日に60周年を迎えた安保条約は、1960年の改定を経て現在も日米関係の基本をなす条約である。したがってダレス発言は、丁寧に記録しておく意味がある。

ダレスは安保について3点を語った。

1、現在検討中の日米間の安全保障協定は暫定的なもので、講和後も米軍を日本本土およびその周辺にも駐屯させることによって米国が日本に対し、一方的に事実上の保障を与えるものである。だから日本への攻撃は米国への攻撃となる。

2、現在の日本は極東委員会の決定により、再軍備を禁止されている。しかし私が前回来日した際明らかにしたように、米国は相互援助という基盤に立つものでなければ恒久的な安全保障協定を結ぶことができない。吉田首相も日本が主権回復後、経済力に応じて自衛措置を講ずると言明している。したがって将来日本が自助できるようになったときは、はじめて米日間に恒久的な安全保障協定が結ばれ、日本は米国の保証(ギャランティー)を受けることになる。

3、米国が現在考えている太平洋安全保障体制は、米国が中心になってオーストラリア、ニュージーランド、日本、フィリピンの諸国と多角的に数個の協定を結ぶことである。米、オーストラリア、ニュージーランド3国の相互防衛協定は日本の安全を保障するものではないが、日本に駐屯する米軍が攻撃を受ければ、オーストラリアとニュージーランドは米国を援助する義務を持つことになる。この3国協定は対日講和条約、日米防衛協定と同時に米上院の承認を求めることになろう。

いまに通じる指摘がいくつもある。

1と2からわかるのは、1951年に吉田が結ぶことになる旧安保条約は暫定的と考え、いずれ恒久的な安全保障協定を、と期待していたことである。

3からわかるのは、オーストラリア、ニュージーランドとの3国協定と日米間の協定との間の基本的な差異だ。3国協定は集団的自衛権に基づく協定であるのに対し、日本は再軍備についての決定もないから、米国が一方的に日本を守る内容になっている。

「相互援助」を強調するダレスは、だから51年の協定は暫定的と説明した。しかし当時のダレスの観点からすれば、60年の改定を経た安保条約もまた恒久的な安全保障協定とは言い難い。日本側は集団的自衛権の行使はできないと2011年の現在も言い続けているからである。

■NATOと違う太平洋安保

法律家でもあるダレスは、日本はそう遠くない将来に憲法を改正し、9条を修正すると考えたのだろう。それは60年たっても実現していない。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

3にはもうひとつ現代に通じる指摘がある。ハブ・アンド・スポークと呼ばれるアジア太平洋における米国の安全保障システムの説明である。

ハブ・アンド・スポークを理解するには、自転車の車輪を思い浮かべる必要がある。中心に車軸(ハブ)があり、そこから数本のスポークが伸びる。

ハブは米国であり、スポークはオーストラリア、ニュージーランドとの太平洋安全保障条約(ANZUS)のほか、日本、韓国、フィリピン、タイ、シンガポールなど2国間の安全保障関係である。欧州の北大西洋条約機構(NATO)とは違う手法をとったわけだ。

ダレスは安保以外の対日講和に関してもニュースを発信した。

この物語でも触れてきた米英間の食い違いについては、英国の草案を検討中であると述べた。一時取りざたされていた訪英を否定し、米英間の意見調整に楽観的な見通しを述べ、「夏までに講和ができなかったら失望する」と語った。英国へのけん制なのか。

米英間の懸案である中国の代表については、台湾の国民政府と外交関係を持っている米国の立場を説明した。英国との食い違いは埋まっていない。

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