ドコモが年内製品化 新OS「Tizen」が発進
ジャーナリスト 石川 温
オープンソースのモバイル端末向けOS(基本ソフト)「Tizen(タイゼン)」を展開するTizenアソシエーションは、スペイン・バルセロナで開催中の「Mobile World Congress(MWC)2013」で、Tizenの現状や今後の展開を説明した。スマートフォン(スマホ)の「第3のOS」を目指し有力な携帯電話会社やメーカーが集結したTizenからは、年内に製品が登場し、その姿を具体化させる。

初号機はサムスン製、ドコモも年内製品化
TizenはWebページ作成の次世代言語「HTML5」をベースにしたモバイルプラットフォームで、今回のMWCでKDDIが製品化を発表した「FirefoxOS」と方向性が近い。
Tizenの推進企業には、韓国サムスン電子を筆頭に、米インテル、中国ファーウェイ(華為技術)、NEC、富士通、パナソニックモバイルコミュニケーションズといったメーカーや、NTTドコモ、仏オレンジ(フランステレコム)、韓国KT、同SKテレコム、英ボーダフォン、米スプリント・ネクステルなどの携帯電話会社が名を連ねる。Tizenアソシエーションの議長はNTTドコモの永田清人氏が務める。
これまでサムスン電子は独自に「SLP(Samsung Linux Platform)」を展開し、米インテルも「Meego(ミーゴ)」と呼ぶプラットフォームを手がけていた。Tizenはこれら企業が集結し、HTML5をベースにした新たなモバイル向けプラットフォームとして誕生した。
Tizen初号機の製造メーカーは、当然ながらサムスン電子製になるとみられている。「サムスンはTizenに本気で取り組んでいる。(サムスンが独自に手がけるスマホ向けプラットフォーム)『bada』のメンバーがベースであったが、いまでは毎週のように開発メンバーが増えており、急ピッチで開発を進めている」(サムスン関係者)という。
FirefoxOSはどちらかというと、新興国向けの安価なスマホから製品化が始まるようだが、TizenはグーグルのOS「Android」でGALAXYシリーズを手がけるサムスン電子が製品化するため、ミドルからハイエンドにかけて商品となりそうだ。永田氏は「サムスンが手がけることで、いいデバイスを期待できるのではないか」と語る。
Tizenにはファーウェイも参加している。説明会には、ファーウェイ・デバイス会長兼コンシューマー向け事業最高経営責任者のリチャード・ユー氏も登壇。ファーウェイも積極的にTizenを搭載したデバイスを開発していくと明言した。ミドルクラスだけでなく、安価な価格帯のスマホが登場する可能性も広がってきた。

日本市場について永田氏は、「年内にもNTTドコモがTizenを採用したスマホを発売する」と明言した。Tizenは、誰もが自由に運営できるアプリ配信ストアが大きな魅力となっているが、ドコモは主力コンテンツサービスである「dマーケット」「dメニュー」のTizen版を提供していく計画を示した。
ユーザーインターフェース(UI)には、Androidスマホ向けに共通で提供している「パレットUI」ではなく、HTML5を生かした新たなUIを採用する。ただし日本特有機能となるワンセグやFeliCa、NOTTVなどへの対応は、しばらく先となりそうだ。
ファーウェイの参加が裏付けた「オープン性」
永田氏はTizenの魅力について「HTML5ベース」「完全にオープンなプラットフォーム」といった点を強調した。すでにHTML5対応アプリは数千近く存在する。これまではサムスン電子が強い存在感を発揮していたが、そのライバルともいうべきファーウェイが積極的に参加を明言したことで、Tizenがオープンなプラットフォームであると裏付けられた。
Tizenの主要メンバーとなる企業はいずれも主張が強く、わがままに振る舞うように見える。見方を変えれば、パワーがあるとも取れるだけに「プラットフォームとしての推進力」が強くなるかもしれない。
「すべてが中立」であるFirefoxOSは、参加企業間のわだかまりがないが、旗振り役を担うのが携帯電話会社やメーカーとの付き合いをこれから始める米モジラである点が、やや不安でもある。Tizenにはモバイルに精通した強力なメンバーがそろっているため、製品化が一気に進むことも考えられる。
Tizenの主要メンバーたちは、過去には「Limoファウンデーション」と呼ぶ組織をつくり、世界共通の端末プラットフォームを作ろうとしたり、「WAC(Wholesale Applications Community)」という共通化団体で、アプリケーションの配信プラットフォームを整備しようとしてきたが、いずれも成功しなかった。これまでもバルセロナのMWC会場ではLimoやWAC関連の展示があったが、どれも携帯電話会社が中心になる閉鎖的な空気のなかで、「自分たちが自由なことをできる世界をつくりたい」という思惑が強すぎて、うまくいかないような雰囲気を漂わせていた。LimoにもWACにもかかわっていたオレンジの幹部が「過去は失敗だった」と認めるほどだ。
今回、Tizenをまとめる永田氏は「振り返ると、Limoなどでは携帯電話会社が本来得意ではない技術的な分野にも首を突っ込んだことが敗因だった。今回は、技術的なことを(Linuxの普及に携わる)Linuxファウンデーションに任せたことでうまくいきつつある」と語った。

失敗といえば、インテルもMeeGoプラットフォームを共同で立ち上げようとしていたフィンランドのノキアを、米マイクロソフトのWindows Phoneプラットフォームに「略奪」され、袖にされた経験を持つ。サムスン電子もAndroidは好調だが、独自に立ち上げたbadaは鳴かず飛ばずの状態だ。
いわば、Tizenは「バツイチ」「バツニ」の傷心メンバーが集まった組織でもある。だからこそ、自分に何が足りないのかを理解し、相手に優しさを持って接するようになったもようだ。Tizenでは同じ過ちを繰り返すことなく、心機一転新しい道に歩み出す強い意志が感じられる。
アップルとグーグルに追いつき追い越せるか
今回、MWCで話題となったFirefoxOSとTizenは、どちらも現段階では、「脱アップル」「脱グーグル」という、携帯電話会社やメーカーの思惑が一致してできたプラットフォームという感が強い。
どちらが優れたプラットフォームなのかは、製品が出ないことには判断できない。「第3のOS」として普及し、先行する2つのOSに追いつき追い越せるかは、「新しいOSがどのような新しい価値をユーザーに提供できるか」という点にかかってきそうだ。
月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著は、本連載を基にした「iPhone5で始まる! スマホ最終戦争―『モバイルの達人』が見た最前線」。ニコニコチャンネルにてメルマガ(http://ch.nicovideo.jp/channel/226)を配信中。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

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