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スマートシティに本腰入れる自動車メーカー

自動車メーカー各社が、スマートグリッド(次世代送電網)やスマートシティなどのプロジェクトに対して積極的な動きを見せ始めている。こうしたプロジェクトでは、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEVまたはPHV)といった「低炭素型」の交通システムの導入が必ずと言っていいほど求められる。自動車メーカーは、こうした次世代自動車の導入を橋頭堡(きょうとうほ)として、都市インフラのビジネスに食い込もうとしているのだ。

具体的な作戦はこうだ。次世代自動車のほとんどは、大型の蓄電池を搭載している。この蓄電池を、太陽光発電や風力発電などの発電量の変動を吸収するために使うのである。

単に「使う」と書くと簡単そうに思えるが、実際には複雑だ。発電量の変動を吸収するのは自動車の蓄電池だけではなく、住宅が備える蓄電池や地域に設置された大型蓄電施設なども使われる。どのような状態であれば充電し、逆に放電(ためてある電気エネルギーを住宅やビルに対して供給)するのかは、これらのさまざまな蓄電池の性質や容量を考慮して、きめ細かな制御によって決めなければならない。

つまり、次世代自動車の充電状況を把握・管理すると同時に住宅やビル、地域レベルのエネルギー管理システムと連携した大規模なITシステムの開発が必要になる。自動車メーカーはここに力を注ぐことで、スマートグリッドやスマートシティのプロジェクトの中核を握ろうと狙っているのである。

トヨタ、「トヨタスマートセンター」を発表

例えばトヨタ自動車は2010年10月5日、スマートグリッドに積極的に取り組むと発表し、その一環として「トヨタスマートセンター」と呼ぶシステムを開発したことを明らかにした。同システムは、PHEVやEVに載せた蓄電池の充電状態に加え、住宅に搭載する太陽光発電システムの発電量や電力消費量、住宅用蓄電池の充電状態、ヒートポンプ式給湯器などを一元的に把握することでエネルギー管理の最適化を目指すもの(図1)。

図1 「トヨタスマートセンター」の概念図

9月にスタートした「六ヶ所村スマートグリッド実証実験」で同センターは既に稼働し始めており、トヨタホームが建てた2棟とPHEV2台を対象に、制御の実績データを蓄積しつつある。この経験をもとに実用上の課題を解決していくという。また、トヨタは経済産業省のスマートシティプロジェクト「次世代エネルギー・社会システム実証地域」の一つである愛知県豊田市のプロジェクトに中心企業として参加しており、そこでもトヨタスマートセンターを中核としたシステムを実証していくもようだ。

豊田市のプロジェクトでは、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)、太陽光発電、蓄電池、ヒートポンプ給湯器などを搭載したスマートハウスを70戸分譲する予定であり、ここにPHEVやEVをトヨタがレンタル方式で提供する計画。同プロジェクトでは、PHEVやEVに搭載されている蓄電池から電力を住宅側に供給する「V2H(vehicle to home)」や、住宅とCEMS(地域エネルギーマネジメント)を連携させてエネルギー消費を最適化するといった先進的な取り組みも行う。

日産、「グローバルデータセンター」がプロジェクトの鍵に

一方、日産自動車は、世界に出回るすべての同社製EVについて、搭載する蓄電池の状態や走行情報などを集約して統合管理する「グローバルデータセンター」を構築している。同社によると、同センターの機能をクラウドコンピューティングのように世界共通のインターフェースで使えるようにすることは容易なので、世界各地の事情に応じて、EVをHEMSやBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)、さらにはCEMSやカーシェアリングセンターなどと接続し、運用することが可能になる。

日産もトヨタと同様にさまざまなスマートシティプロジェクトに積極的に参加している。そこでは、このグローバルデータセンターを積極的に活用していく考えだ。

例えば、日産に加えて日立製作所、オリックス、オリックス自動車の4社は共同で、住宅や充電スタンドをネットワークで結んで再生可能エネルギーの比率を高めるプロジェクトをスタートさせた。同プロジェクトは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「蓄電複合システム化技術開発」事業の採択を受けている。日産自動車はここにグローバルデータセンターの機能と共に充放電可能なEVを投入するという。これは経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム実証地域」のうち横浜市が推進する「横浜スマートシティプロジェクト」の一部として、実証が進められる。

横浜スマートシティプロジェクトではまた、EV関連の取り組みとして、(1)カーシェアリング、(2)EVデマンドタクシー、(3)充電スタンド情報の共有化、(4)二酸化炭素(CO2)排出量の見える化――といった実証実験を行うが、このいずれについてもグローバルデータセンターの活用が鍵を握るとしている。カーシェアリング時におけるクルマの充電状態の把握、EVデマンドタクシーの予約システムの構築、充電スタンドの込み具合の把握などには、同センターの機能が必須となるためだ。

いち早くEVを市販した三菱自動車も「これまでのEVは自動車単体として環境負荷が小さいという面が評価されてきたが、今後は充放電可能な第2世代に移っていく」と、セミナーなどで明らかにしている。第2世代のEVは、エネルギー管理や社会インフラの一部として位置づけられるとみる。

同社は、その可能性を追求するために、各種のスマートグリッドやスマートシティプロジェクトに参加している。東京大学など28の大学や企業が参加し、再生可能エネルギーが大量導入された際の大規模発電から家庭までの電力需給を最適化する「次世代送配電系統最適制御技術実証事業」や、前述の経済産業省の次世代エネルギー・社会システム実証地域の一つである「けいはんなプロジェクト」などだ。

海外プロジェクトでも存在感を

日本の自動車メーカーの課題としては、国内のプロジェクトだけでなく海外のスマートシティプロジェクトにも積極的に参加することだろう。既に、トヨタは米国コロラド州のボルダー市で進められている「スマートグリッドシティ」でPHEVを、日産は米国カリフォルニア州でスタートした「EVプロジェクト」にEVを送り込む計画である。今後、こうした海外プロジェクトへの取り組みを強化すると共に、単にクルマの提供だけでなく、国内と同様にPHEVやEVを中核にしたエネルギー管理システムまで手掛けられるかが課題だ。

さらに注目されるのは、新興国における新都市開発型のスマートシティプロジェクトと自動車メーカーの関係である。というのは、新都市型のスマートシティプロジェクトでは、まず低炭素型の交通システムとして、次世代型路面電車システムLRT(Light Rail Transit)やバスなどの公共交通機関の整備が進められる事例が多いのだが、最終的には個人が自由に移動できる手段としてEVが必要になると考えられているからだ。

図2 マスダールシティで導入が検討された自動走行のコンパクトEV「PRT」  2010年10月の戦略変更の中で、導入規模を研究施設内だけに縮小し、その代わりに市販EVの導入が決まった。

実例は既にある。アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ首長国で開発が進んでいる環境未来都市「マスダールシティ」のプロジェクトの例で見てみよう。

マスダールシティでは、すべてのエネルギーを再生可能エネルギーで賄い、CO2の排出量をゼロにする計画だ。ここでは、LRTに加えて、当初「PRT(Personal Rapid Transit)」と呼ばれる、軌道上を自動走行するコンパクトカーの導入が検討された(図2)。

しかし、2010年10月に発表されたマスダールシティの戦略変更の中で、PRTの導入計画は規模を縮小して研究施設内だけにとどめ、個人の移動手段としては市販EVの導入が決まった。10月12日に来日した同プロジェクトの運営責任者のアーメド・バゴウム氏はその理由を、「検討の結果コスト面で見合わないことに加え、運転者自らが自由に移動する交通手段へのニーズも高かったため」と説明した。

また、中国でも再生可能エネルギーの利用率を20%以上にすることを目標にした「中新天津生態城(天津エコシティ)」でも、当初は自律走行するコンパクトカーの導入が検討されたものの、コスト面などから見送られて代わりにEVの導入が決定された。当面、中国のローカルメーカーのEVが導入される予定だが、「より安全性や信頼性の高い日本の自動車メーカーのEVにも注目が集まっている」と、同プロジェクトの関係者は明かす。日本の自動車メーカーが今からでも参入する余地とビジネスチャンスは十分にありそうだ。

(日経BPクリーンテック研究所 藤堂安人)

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