2019年8月22日(木)

日米外交60年の瞬間 第3部

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太平洋条約で滑り出す サンフランシスコへ(47)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2012/7/7 7:00
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1951年9月、世界の耳目はサンフランシスコに集まっていた。対日講和会議の最初の成果物は9月1日に結ばれた太平洋条約だった。太平洋条約については、この物語でも既に触れたが、署名された事実は歴史的とされた。

■アチソンの署名見守るダレス

AP電は「歴史的な太平洋3国安全保障条約文書に最初に署名したのは豪州のスペンダー駐米大使」と書き出した。ニュージーランドの駐米大使が署名した後、米国はアチソン国務長官が署名した。対日講和条約交渉のためにアジアを駆け回ったダレス大使のほか、共和党のワイリー、民主党のスパークマン両上院議員が後ろから見守った。

アチソン(右)とダレス=毎日新聞社提供

アチソン(右)とダレス=毎日新聞社提供

ちなみにアチソンの後任国務長官になるのがダレスである。しかしダレスの国務長官就任は53年1月の共和党アイゼンハワー政権の誕生によってであり、サンフランシスコでアチソンの後方に立っていたダレスには予想もつかない話だったろう。

アチソンは太平洋条約署名にあたって演説した。

条約を「自由援護のために熱烈な努力を傾注して不断の警戒を続ける決意を表明したものである」と説明した。世界中を巻き込んでいた冷戦に豪州、ニュージーランドとともに備えるとする表明である。

アチソンは続ける。

「米比相互防衛条約および日米両国間に平和条約締結後結ばれる協定とともに、われわれはこの条約が太平洋における平和の基礎となるよう希望する」。当時の、そして今も変わらぬ米国のアジア太平洋戦略がみえる。米国を中心とする、いわゆるハブ・アンド・スポーク構想である

■朝鮮戦線は戦闘激化

冷戦が終わってほぼ20年になる。21世紀の読者には、アチソンやダレスの話は理解しにくいかもしれない。だが、サンフランシスコでの華やかな外交の場と別世界の現実が日本のすぐそばにあった。

朝鮮半島である。太平洋条約が署名されたころ、朝鮮はすでに9月2日だった。

UPIのチャップマン記者が東京のオフィスで猛烈な勢いでタイプライターをたたいていた。「朝鮮の戦闘は2日、半島を横断する戦線の約3分の1で再び燃え上がってきた」と書きだした。

昔のハリウッド映画に出てくる記者はしばしば左右2本の人さし指だけを使ってリズミカルに原稿を書く。チャップマンがどうだったかはわからないが、文章のリズム感、歯切れの良さは戦況報道の見本のような原稿である。日本語に翻訳しても、それは伝わる。

「国連軍地上部隊は限られた目標に向かって前進を開始した。一方、海空軍部隊は兵力集結中の共産軍に対し、昼夜を分かたぬ猛攻を加えている。国連軍飛行士の報告によれば、共産軍は新鋭部隊、装備および物資を満州から鴨緑江を越えて続々と送っている。1日の第5軍発表は『鴨緑江から新安州、沙里院、成川、陽徳および平壌の各地に向かう街道は共産軍輸送隊の往来で活気を呈している』と述べている」

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

「国連軍地上部隊の進撃状況は明らかではないが、金城南方を進撃中の国連隊は2日未明共産軍の激しい攻撃を3回にわたって撃退、夜明けとともに再び前進を開始している」(共同通信訳)

記者なら、こういう原稿を書きたいと思わせるような、事実を淡々と積み重ねていく名文である。しかし文章に酔ってはいけない現実がそこには描かれている。講和のために集うサンフランシスコとは全く違う、熱戦が朝鮮では展開されていた。

サンフランシスコの取材陣に対する対抗意識があったのだろうか、チャップマン記者の仕事ぶりは精力的だった。同じ日、連合軍総司令部(GHQ)からの情報として休戦会談の場所を香港に移す説を報道した。

休戦会議の開かれている付近でも戦闘が激しくなっているためだった。

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