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さらば「赤プリ」 解体さえも美しく

スゴイ工事現場シリーズ

解体が進む赤プリの新館。鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造の40階建てで、国内で解体する建物としては最も高い。2012年12月中旬に撮影(写真:日経アーキテクチュア)

東京都心の赤坂見附交差点を見下ろし、バブル期を象徴する建物の1つだった「赤プリ」が静かに姿を消そうとしている。約140mあった建物の高さは、既に4分の3程度に縮んだ。

「目立たないように美しく解体することが、長年使われてきた建物への気遣いだ」

解体工事を手掛ける大成建設・西武建設JV(共同企業体)が採用するのは「テコレップシステム」と呼ぶ工法。開発した大成建設建築技術開発部の市原英樹次長は、既存の屋根と足場で建物上部を覆って超高層を解体する同工法の特徴をこう説明する。

新工法でビルが静かに縮んでいく

足場に設けた採光窓を建物の窓の位置と同じ横方向に配置するなどして、足場の存在ができるだけ目立たないように工夫。解体工事にありがちな不安感を周囲に与えず、赤プリのイメージを保ったままスマートに縮ませる。

「赤プリ」の解体工事が本格化。新工法で静かにビルが縮んでいく

「赤プリ」の解体工事が本格化。新工法で静かにビルが縮んでいく

赤プリとは、グランドプリンスホテル赤坂(東京都千代田区。旧赤坂プリンスホテル)の愛称。1983年に開業した40階建ての新館は、丹下健三・都市・建築設計研究所(当時)が設計して、鹿島が施工した。若者の人気スポットとして、クリスマスシーズンなどは予約でいち早く埋まった。国会議事堂や政党の本部などに近いこともあり、しばしば政治家の会合の舞台にもなった。

客室の稼働率は、最盛期の1980年代後半に90%以上を記録した。しかし近年は、外資系の高級ホテルが都内に相次いで開業したことなどで競争が激化。2001年に改装したものの、客室単価は最盛期の半分ほどに落ち込んでいた。

建物を所有する西武ホールディングスは10年4月、施設の老朽化や客室の天井高が2.4mと低いこと、都心の一等地でホテル事業だけでは収益確保に限界があることなどを理由に建て替えを決断。ホテルは11年3月に営業を終えた。

跡地には高さ180mのオフィス・ホテル棟と同90mの住宅棟を新たに建設する。16年夏ごろの開業を目指す。

赤坂見附交差点(手前)を見下ろすランドマークだった。2010年5月に撮影(写真:日経アーキテクチュア)
クリスマスシーズンには毎年、巨大なツリーのイルミネーションを点灯していた。写真は最後となった10年12月に撮影(写真:日経アーキテクチュア)

2層を解体するごとにジャッキダウン

赤プリは国内で解体する建物としては最も高い。07年に解体された高さ約110mのソフィテル東京(東京都台東区)を上回る。

建物が高くなればなるほど、解体による騒音の拡散や粉じんの飛散、破片の落下を防ぐとともに、工事中に起こり得る地震や強風への備えも重要となる。

既存の屋根と足場で囲った建物上部の閉鎖空間。この中で解体工事を進める(写真:大成建設)
解体前の建物内部。既に内装は撤去している。ホテルの客室の配置に合わせて、鉄骨柱がジャングルジムのように並ぶ(写真:大成建設)

大成建設JVはまず、屋上階の外周に防音パネルを取り付けた専用の足場をつり下げ、建物上部に閉鎖空間をつくった。総重量が1500トンある屋根と足場は、15本の仮設柱で支える。

1本当たり100トンの荷重を支える仮設柱の長さは20m。仮設柱の下端にある支持材を2層下の大梁の上に載せて反力を取る。

外周の足場は、建物の外装にある清掃用ゴンドラのガイドレール(中央)に固定する(写真:大成建設)
仮設柱に組み込んだセンターホールジャッキ。複数本のワイヤを使うため、1本に不具合があっても取り換えやすい(写真:大成建設)

次に、屋根と足場に囲まれた空間の中で、ジャングルジムのように4m間隔で並んだ建物の鉄骨柱や梁、床などを重機やガスの熱で溶断。2層分の解体が終わるごとに、仮設柱に備えたセンターホールジャッキを使って屋根を下げる。

1回のジャッキダウンで、建物の2層分の高さに相当する6.4mだけ下げる。降下に要する時間は3~4時間。2層分の解体と屋根のジャッキダウンにかかる1サイクルの工期はおよそ10日だ。

上部に足場を取り付ける以前から、解体工事は始まっていた。

大成建設JVは12年6月、内装の撤去やアスベストの除去工事などに着手した。鉄筋コンクリートでできた屋根の床スラブは撤去し、折板屋根に替えることで軽量化。8月に解体のための足場を建物上部の外周に設置して、11月13日に1回目のジャッキダウンを終えた。

ジャッキダウンを20回繰り返して、13年5月ごろまでに地上部分の解体を終える計画だ。地下部分の解体は、跡地でオフィス・ホテル棟の新築工事を手掛ける鹿島・鉄建・熊谷組JVが引き継ぐ。

足場下端のディテール。騒音や粉じんのほか、破片の落下も防ぐ(写真:日経アーキテクチュア)
解体した鉄骨柱などは、建物内の床スラブに設けた開口部からつり下ろす。屋根の下に取り付けたテルハと呼ぶクレーンを使う(写真:大成建設)
赤プリ新館の平面図。各客室がコーナーウインドーを持ち、広い眺望を確保していた

工法の汎用性と安全性を追求

超高層ビルの解体は、外周に仮設の足場を取り付けて上から壊す方法のほか、建物全体を地上付近のジャッキで支えて「だるま落とし」のように下から壊す方法などがある。

大成建設が開発したテコレップシステムは、「ジャッキで支える重さはできるだけ軽い方が安全」(市原次長)と考えて、前者の上から壊す解体方法を選択。さらに、様々な形状や条件の超高層ビルに対応できる汎用性の高い方法を編み出した。

外周の足場は地組みした後、屋上に設置したクレーンでつり上げた。テコレップとは「大成(Taisei)エコロジカル(ECOlogical)リプロダクション(REProduction)」の略語だ(写真:大成建設)

それが、既存の屋根そのものを蓋として使って、建物上部に閉鎖空間をつくる方法だ。既存の屋根は仮設材でつくる覆いと比べて重いのが難点だが、地震や強風に耐えられやすい。

もし仮設材で覆う場合、解体する建物の形状が代わるごとに新しい覆いをつくり直さなければならない。しかも、平面が大きな建物になると、仮設材の覆いも大きく重たくなる。

「既存の屋根であれば、どんな建物でもそのまま覆いとして使える。工法を開発する際、建て替え計画が持ち上がっている複数の超高層ビルを調査して、工法が適用できることを確かめた」と市原次長は話す。

外周につり下げる足場も、強度の高いテコレップシステム専用のものを開発。何度も転用できるようにした。

建物上部の閉鎖空間で解体工事をすることで、騒音を15デシベル以上低減し、粉じんの飛散を90%削減できる。「騒音や粉じんが最も出やすい重機を使って解体作業した場合でも達成できる数値だ。カッターなどを使って静かに解体すれば、外に出る騒音や粉じんをさらに抑えられる」と市原次長は自信を見せる。

超高層ビルの解体では従来、建物の内部や外部にタワークレーンを立てるケースが多かった。タワークレーンは建物の外周に取り付けた足場を解体に合わせてつり下ろす際などに使う。しかし、この方法では建物の上面を覆うことが難しく、騒音や粉じんを完全に防げない。

テコレップシステムでは、外周に足場を取り付ける最初の1カ月間だけ、建物上部にクレーンを設置する。その後はクレーンを撤去。クレーンの代わりに仮設柱に備えたジャッキを使って、既存の屋根と足場を建物の解体とともに下げていく。

屋上階と塔屋階を補強してトラス構造に

大成建設がテコレップシステムを採用するのは、赤プリの解体が2件目となる。

初めて採用したのは、東京・大手町にあった旧大手町フィナンシャルセンターだ。高さ105mの24階建てで、工期は11年2月から12年7月までだった。

解体中の旧大手町フィナンシャルセンターの外観。同ビルは鉄骨造、鉄筋コンクリート造の24階建て。11年8月に撮影(写真:安川千秋)
旧大手町フィナンシャルセンターの屋根と足場で囲った建物上部の空間(写真:安川千秋)

同ビルでは屋根と足場の重さが計1300トンあり、12本の仮設柱で支えた。既存の屋根の下には水平搬送用の天井走行クレーンと、垂直搬送用のテルハと呼ぶクレーンを設置。天井走行クレーンは滑り出し機構を備え、建物の外側に張り出せるようにした。外壁を撤去しやすくするためだ。テルハには解体した鉄骨などをつり下ろす際に発電する機能を持たせた。

赤プリの解体では、旧大手町フィナンシャルセンターで使った足場をほぼ100%転用した。

両解体工事で異なる点は主に2つある。

1つは既存の屋根の補強だ。旧大手町フィナンシャルセンターでは、屋上階の大梁に梁せいが900mmあるH形鋼が使われていた。建物内にある数本の柱を撤去しても、梁せいが大きいので剛性が保てた。

一方、赤プリは4m間隔で細い鉄骨柱が何本も並ぶ構造だったため、屋上階の梁の梁せいが500mmしかなかった。建物内の柱を撤去すると、剛性が保てない。

そこで、大成建設JVは屋上階の梁を下弦材に、屋上階よりも7.7m上にある塔屋階の梁を上弦材にしたトラス構造で、建物上部に蓋をする方法を採用。トラス構造の剛性を高めるために、下弦材と上弦材との間に斜材を新たに追加して補強した。トラス構造の側面にある既存の外壁は、そのまま蓋の一部として使った。

赤プリの解体工事の模型。ヘリポートがあった塔屋階と機械室があった屋上階との間に斜材を追加してトラス構造とした(写真:日経アーキテクチュア)
赤プリの建物上部を写真で見る(写真:日経アーキテクチュア)

段取りの手間省き、工期2カ月短縮

赤プリを北東側から見る。仮囲いの向こうに少しだけ見える旧館は、曳き家して竣工当時の姿に復元する(写真:日経アーキテクチュア)

もう1つの違いは、既存の屋根と外周の足場をジャッキダウンするタイミングだ。

旧大手町フィナンシャルセンターは約4mの階高があったため、1層分の解体を終えるごとに屋根と足場をジャッキダウンした。1層分の解体と屋根のジャッキダウンにかかる1サイクルの工期は6日だった。

一方、赤プリの階高は3.2mとやや低いため、2層分を解体するごとにジャッキダウンする方法に改めた。1層ごとに解体とジャッキダウンを繰り返すのと比べて、解体前の準備や解体後の片付けの手間が減る。ジャッキダウンの手間も同様だ。

「解体とジャッキダウンの段取りが半減するので、全体では2カ月の工期短縮になる」と市原次長は言う。

テコレップシステムは高さがおおむね100m以上の超高層ビルの解体に使うと、費用や工期などの面で有利になる。

大成建設によると、国内にある高さ100m以上の超高層は700棟以上。うち100棟以上が築20年を過ぎており、天井高や耐震性能の不足、周辺の再開発などによって、建て替えが選択肢の1つとなりつつある。

「建物を長く使い続けてほしい気持ちはある。しかし、様々な理由で解体される建物があるのも事実。近隣に迷惑を掛けず、安全に解体することも使命だ」と市原次長。汎用性の高いテコレップシステムは国内だけでなく、海外でも需要があると見て、展開を目指している。

解体が進む赤プリの新館。12年11月10日に撮影した(写真:大成建設)
12月10日に撮影。低くなったことが分かる(写真:大成建設)
跡地に建てるオフィス・ホテル棟(手前)と住宅棟(奥)のイメージ(資料:西武ホールディングス)
仮囲いには、復元後の旧館のイメージ図が示されている(写真:日経アーキテクチュア)
解体工事の概要
 所在地:東京都千代田区紀尾井町1-2、敷地面積:3万1024.38m2(平方メートル)、解体する建物:赤プリ新館のほかに鉄筋コンクリート造5階建ての別館など計8棟の地上部分や一部、発注者:西武プロパティーズ(東京都豊島区)、施工者:大成建設・西武建設JV、解体期間:2012年6月~13年5月

赤プリ新館の建築概要(竣工当時)
 建築面積:3098.373m2、延べ面積:6万7750.607m2(駐車場989.452m2を除く)、構造:鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、階数:地下2階・地上39階、発注者:西武鉄道とプリンスホテル、設計・監理者:丹下健三・都市・建築設計研究所/鹿島(構造・設備)、総合管理者:西武建設、施工者:鹿島、設計期間:1977年1月~79年9月、施工期間:1980年3月~82年10月

跡地に新築する建物の概要
 名称:(仮称)紀尾井町計画、用途:事務所/ホテル/店舗/共同住宅/駐車場、敷地面積:3万428.79m2、建築面積:約1万1500m2、延べ面積:約22万7000m2、構造:鉄骨造/鉄筋コンクリート造/鉄骨鉄筋コンクリート造、基礎:直接基礎/杭基礎、階数:地下2階・地上36階(オフィス・ホテル棟)/地上26階(住宅棟)、高さ:約180m(オフィス・ホテル棟)/約100m(住宅棟)、発注者:西武プロパティーズ、設計者:日建設計、施工者:鹿島・鉄建・熊谷組JV(オフィス・ホテル棟)/西武建設・大林組・前田建設工業JV(住宅棟)、施工期間:2013年1月~16年5月

(日経アーキテクチュア 瀬川滋)

[ケンプラッツ2012年12月27日付記事を基に再構成]

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