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骨盤の傾きを正して美しい姿勢を手に入れる

ゆがみリセット学(1)

竹井仁

 体の凝りや痛みは、体のゆがみに気づくための注意信号。理学療法士・医学博士であり、筋膜研究の第一人者、竹井仁さんが体とのつきあい方を基礎からレクチャーする新連載が始まります。1回目は、今の自分の体を知るうえで、一番の手がかりとなる「姿勢」がテーマ。骨盤が前・後ろどちらに傾いているかを調べて、二つの体操を実践すれば、きれいな姿勢の心地良さを発見できます。

私が理学療法士の資格を取得したのは24年前。理学療法士とは、ケガや病気などで体に障害のある人や障害が予測される人に対して、歩く・座る・立つなどの動作の回復や維持を図る、医学的リハビリテーションの専門職のことです。当時、東京都が新設した都立府中リハビリテーション専門学校(首都大学東京 健康福祉学部理学療法学科の前身)には、30倍もの高倍率をクリアした個性派ぞろいの面々が集まり、「新しい分野を学びたい」という意欲に満ちていたことを覚えています。

卒業後、母校で助手を務めながら東邦大学医学部の解剖学教室に通うなどして足かけ13年で医学博士号を取得しました。現在は理学療法士のタマゴたちに理論や手技を教えるほか、整形外科で患者さんの指導にも当たっています。理学療法はもちろん、解剖学教室で神経や筋線維をつぶさに観察したことなど、過去の経験が現在に生かされていると感じます。

今回のお話に入る前に、まずみなさんに提案したいのは、「体をもっと自分のものとして見つめてほしい」ということです。凝りや痛みがあるとき、まず最初に「マッサージに行こう!」と思ってしまう人へのメッセージだと受けとってください。

例えば、凝りは筋肉がぐっと収縮した状態のことをいいます。試しに、両手の指を組んでぐーっと力をこめてみて。この力をこめた状態が「収縮」、逆に指の力を抜いた状態が「弛緩」です。偏った姿勢で収縮がずっと続くと、筋肉の中を走る血管が圧迫されます。血管を流れる血液は酸素を運んでいますが、圧迫によって血流が邪魔されて酸素不足が続くと、いざ緩めようとしても、ぐっとくっつきあった筋線維ががちがちで離れない。このような凝りにどう対処するといいのでしょうか。

温める、さする、もむ……全て正解です。しかし、それは単に、外側から物理的な刺激を与える対症療法。本当の意味で筋肉をふっと緩めるには、筋肉自身のポンプ作用を復活させないといけない。筋肉は、自力で動かして初めて、筋肉内に通っている血管弁が閉じたり開いたりして、血の巡りが復活し、しなやかさを取り戻すことができるのです。

痛みや凝りがあったら、なぜそうなってしまったのか、日頃のどんな姿勢や動作が問題だったか、までさかのぼってみましょう。今この瞬間、あなたの肩甲骨は開いているか、閉じているか。肩は上がっているか、下がっているか。すごーく考えたり、鏡に映して確認しないとわからない、という人は、体の感度が下がってしまっています。

肩が軽く凝り始めた段階で、「気づく」ことができれば、ちょっと動かして緩めよう、と対処することができる。実は、体を一日中、そんなふうに少しずつ動かしながらリセットを繰り返しているのが人間なのです。マッサージを受けて良くなったけれど、また凝りが……とつぶやいているよりも、こまめにリセットした方が断然気持ちがいい。そんな体とのつきあい方を、連載でお伝えしていけたらと考えています。

さて、1回目のテーマは「姿勢」です。立った姿勢でまず意識。両足は地面にどんなふうについていますか。重心がずれていませんか? 頭は体の軸の上にきれいにのっていますか? 

「人間がきちんと立つ」という状態は、頭のてっぺんから体の軸が真っすぐ1本の線として突き抜けるようなイメージです。前後、左右、どこにも負担がかからないニュートラルな状態。しかし、そんな理想的な立ち方をしている人は少ないですね。私が教えている理学療法学科の学生でも、正しい姿勢の人を探す方が大変なくらい。

崩れた姿勢は骨盤に表れます。大きく分けると「骨盤前傾型」と「骨盤後傾型」の2タイプ。自分はどちらのタイプか、壁を背にして立ってチェックできます。

(この記事のイラスト/もと潤子)
【骨盤の傾きを確認しよう】
壁からかかとを5cmほど離して真っすぐ立つ。頭、お尻、背中を壁や柱にぴたっとくっつけて、壁と腰の隙間に手を入れてみよう。靴は脱ぎ、素足で行うこと。

ちょうど良い姿勢は?
壁と腰の隙間に手のひら1枚分がぴったり入る、あるいは手首ぐらいで止まるぐらいが理想的。骨盤が前にも後ろにも傾きすぎず、バランスが良い姿勢といえる

姿勢チェックの結果はいかがでしたか? もちろん、いつも理想的な姿勢でいるなんて不可能なことで、荷物を持ったり、デスクワークするときに、最も働きやすい作業姿勢をとるのが自然です。しかし、その姿勢をずっととり続けていると、悪い姿勢が固定されてしまう。その結果、上半身と下半身をつなぐ骨盤が、前、あるいは後ろに傾いた状態が「自分の姿勢」になってしまうのです。

姿勢の崩れは、見た目の印象の悪さにとどまりません。悪い姿勢は悪い動作につながり、たくさんの不調を連れてきます。

例えば、骨盤が前傾していても後傾していても、体のバランスをとろうとして猫背気味になります。猫背になると、両肩はぎゅっと縮こまり、息が浅くなって凝りが生じる。手がうまく上がらないから上にあるものを取るときに腰に過剰な負担がかかり、腰痛を引き起こします。背中が丸くなると顔は下向きになりますが、それでも前のものを見るために視線を上げるので首の後ろ側に負担がかかる。首凝りだけでなく、めまいや目のかすみ、耳鳴りや片頭痛が起こりかねません。

ちょっと意外かもしれませんが、顔つきも変わるんですよ。体の軸に頭が真っすぐのっていれば、顔の筋肉は上下に軟らかく動きます。しかし、首の後ろが縮むと口の周りやほおに、後ろ側に引っ張ろうとする抵抗がかかる。たるんだ締まりのない表情になってしまうのです。

骨盤の前傾も後傾も、放っておかず、ニュートラルな位置に戻すことが、不調を軽くするための何よりの解決策です。

私は、体をみるときに偏った姿勢の正体、つまり「片側の筋肉が縮み、もう一方は伸びている」という状態に着目します。骨盤が前傾している人は、ぐっと反っている腰の筋肉が凝り、反対に、お腹の筋肉が緩んで力を失っている。一方、後傾している人は、太ももの裏にあるハムストリングスという筋肉が常に短く縮んで張っていて、前側の股関節を曲げ伸ばしする腸腰筋が伸びて緩んでいます。

だから、対処法はセットで考えます。凝った筋肉をストレッチし、伸びて衰えた筋肉をエクササイズで鍛える。この考え方は前傾・後傾ともに共通です。

では、最初の姿勢チェックで壁と腰の隙間に手がすぽっと入ってしまった骨盤前傾タイプから。まずは、凝った腰をストレッチする「腰伸ばし体操」を行いましょう。前傾タイプは、この姿勢をとると背中全体を丸めてしまいがちなのですが、そうすると効果が出ません。背中は真っすぐにし、お尻を少し浮かせると腰部分だけが伸びます。腰がストレッチされると、伸びた分だけ体は動きやすくなり、次に行う「腹筋体操」の効果も高まります。ちなみに、一般的な上体を引き起こすタイプの腹筋運動は、腰に負担をかけるのであまり良くありません。

今回紹介するのは、おへそをぐーっとへこませて、下着のゴムからお腹が離れて背中にくっつくぞ、というイメージの腹筋運動です。腹直筋が鍛えられるばかりでなく、腹筋のさらに深い所にある腹横筋も刺激できます。呼吸は止めなければ特に意識しなくて大丈夫。慣れてきたら肩甲骨まで床から浮かせる動きも加えると、さらに効果的です。

続いて、壁と腰の隙間が狭くて手が引っかかった骨盤後傾タイプ。妊婦さんや太り気味の人、太ももの裏の筋肉が硬い人でこのタイプが多くなります。後傾タイプは、突っ張って凝っているハムストリングスを伸ばし、股関節を曲げ伸ばしする腸腰筋を鍛えることがポイントとなります。まずは、「もも上げ体操」で腸腰筋を鍛えます。骨盤を立ててももを引き上げると、腸腰筋をピンポイントで刺激できます。これをやっておくと、次に行う「ひざ伸ばし体操」の効果がより高まる。あらかじめ腸腰筋を刺激してあるから、スムーズに脚を持ち上げることができ、ハムストリングスが気持ちよーく伸びるんです。ハムストリングスのストレッチと同時に、腸腰筋を鍛える効果もミックスされた、一石二鳥の体操です。

いずれも、行うタイミングは朝の体の動かし始めと、夜、入浴後の体が温まったときがお薦め。しかし、それだけでは不十分です。日中もなるべく体が凝らない状態にするためには、できるだけこまめに行いたい。例えば前傾タイプの基本の腹筋体操は椅子に座った状態で行うこともできるし、後傾タイプの体操はデスクワークの合間でも実践できるはず。

骨盤の不自然な傾きをリセットするこの体操を今日からスタートして、2週間ほどの間は筋肉に働きかけ、再学習させる期間。繰り返して体操するうちに筋線維が刺激を受け、やがて協調して働くことができるようになります。実感としては、立つ、歩くなどの動きがすべて楽になる、体が動かしやすくなったと感じ始めるでしょう。

1カ月ほどすると、見た目にも体が引き締まってきます。立ち姿が美しくなり「やせた?」と人からいわれるかもしれません。背すじがきれいに伸びて胸を張り、あごを引いた姿勢をとるようになれば、気持ちも引き上げられていく。姿勢は心身を支える「おおもと」なのです。

竹井仁(たけい・ひとし)
首都大学東京 健康福祉学部理学療法学科准教授。1966年、愛媛県生まれ。筑波大学大学院修士課程(リハビリテーション)修了。2002年、医学博士(解剖学)学位取得。理学療法士。医学的知識に基づいた筋力トレーニング、リハビリテーションを研究する。著書に『不調リセット』(ヴィレッジブックス)などがある。

(ライター 柳本操、構成/日経ヘルス 宇野麻由子)

[日経ヘルス2011年5月号の記事を基に再構成]

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