/

日本発のカードバトルが海外でヒット 「常識」を覆した切り札

ゲームジャーナリスト 新 清士

5月12日に米アップルの「iPhone」向けにリリースされたゲーム「神撃のバハムート(Rage of Bahamut)」が、世界的なブームと呼べるまでのヒットに至っている。日本のサイゲームス(Cygames)が開発し、ディー・エヌ・エー(DeNA)が全世界にリリースした。グリーが3月にリリースした「ゾンビジョンビ(ZombieJombie)」を上回る成功を果たし、"日本のカードバトル形式のソーシャルゲームは海外でヒットしない"という常識を完全に覆した。

米国では予想外だった人気

調査サイトAppAnnieによると、米国で最も競争が激しいアップルのアプリ市場「AppStore」の販売金額ランキングで、6月12日に1位を取った。トップには1カ月で到達した格好だ。その後もランキング上位に食い込み続け、6月25日時点でも6位につけている。ダウンロード数では、リリースした5月15日に341位だったが、5月24日には101位にまで上り、6月12日には25位につけている。

ダウンロード数は最高位が17位で、現在では180位台に落ちたものの販売金額は6位。それだけ安定してユーザーを獲得していることを示している。この傾向はほかの英語圏も同じで英国では販売ランキング8位、シンガポールでも3位(いずれも6月25日)と高い人気を獲得している。

この成功は、米国のゲーム業界ではまったくの予想外だったようだ。複数のゲームアプリのレビューサイトが紹介してはいたが、これほどのブームを巻き起こすと予測していたサイトは見当たらない。むしろ「ブラウザベースを移植したようなゲームで、音楽もなく操作が複雑なので、あまりお勧めしない」というレビューがあるぐらいだ。

昨年、ある中堅ゲーム会社の幹部が欧州でのゲーム商談会に臨んだ際に、日本のカードバトルゲームは「まったく評価されなかった」という。専用アプリではなく、HTMLをベースにフラッシュで簡単なアニメーションを見せる日本型カードバトルゲームがヒットするのは日本だけの特殊事情というのが、欧米での一般的な評価だった。

ところが、グーグルのAndroid(アンドロイド)OS向けソフトのダウンロードサイト「GooglePlay」で神撃のバハムートは4月22日にランキング1位を獲得した。

 GooglePlayは、グーグルが市場を適切に管理できておらず、鳴り物入りで立ち上げたSNS(交流サイト)の「Google+」もユーザーの誘導に失敗している。このため、フェイスブックのように口コミの効果を見込めず、ソーシャルゲームが成立する条件ともいえる一定規模のユーザー数を集められず、収益を上げることが難しい状態が続いている。

欧米企業が見放すなか、GooglePlayで成功

カジュアルゲームの有力企業である米ポップキャップゲームズ(PopcapGames)は、ソーシャルゲームの要素を組み入れたパズルゲームの最新作「ビジュエルド・ブリッツ」の配信を18日に中止した。ドイツのソーシャルゲーム大手のウーガ(Wooga)もフェイスブックで人気を博した「ダイヤモンドダッシュ(DiamondDash)」など、有力3タイトルのサービスを7月1日から中止することを明らかにしている。

ところが内部関係者によると、神撃のバハムートはGooglePlayで、4月に1億円以上を売り上げ、1人当たりの売り上げもほとんど日本と変わらないほどの高い金額だったという。特に米国では、ソーシャルゲームに対する1人当たりの売り上げが月額1ドル以下とされており、にわかに信じられない数字だった。

ゲームバランスなどは、さらに丁寧に調整されたのだろう。iPhone版は全世界で同時にリリースされ、リリースから1カ月で販売金額1位を取るという過去になかった実績を達成したのだ。調査会社Flurryによると、同じアプリケーションを出した場合、アンドロイド端末に比べてiPhoneは、4倍近く売り上げが伸びるという。単純に当てはめると月に4億円以上を売り上げたと推測できる。

日本で成熟させてからリリース

もちろんゲームの完成度が高くなければ、これほどの成果は出ないはず。神撃のバハムートは、ゲーム開始時にはシンプルすぎるように見えるわりに、実際にプレーを始めると戦略的な奥行きを感じられる。

日本でサービスを成長させ、最初からボリューム感を演出できる大量のカードなどのコンテンツを抱え、ユーザーの好みを分析する手法を成熟させたうえで海外市場に打って出たことなどが成功の要因だろう。米国のサイトでは「トレーディングカードゲーム」と「ロールプレイングゲーム」の要素がミックスされたゲームと評価されており、過去に類似のゲームが存在しなかったこともヒットの要因だろう。

一般的には、米国発で実際のカードを使うバトルゲームとして根強い人気がある「マジック・ザ・ギャザリング」(米ウィザーズ・オブ・ザ・コースト)に近いタイプのゲームとして理解されている。

 収益の中心は、やはり日本のゲームで一般的な「ガチャシステム」だ。1回のプレミアムガチャにかかる料金は3ドルで、日本の1回300円とそれほど差はない。ただし複数のカードを組み合わせることでキャラクターの能力を高められるだけでなく、別のキャラクターへ「進化」させるといった機能がゲームの面白さを高めている。

手に入りにくい「レアカード」のグラフィックスは、米国のほかのゲームと比較しても突出して美しい。グラフィックス1枚に最高で20万円もの謝礼をデザイナーに支払っているともいわれている。動画サイトのYouTubeには、ユーザーが手に入れた複数のカードを披露する動画も登場したほどだ。

成功を生み出した日本独自の「口コミ」

さらに成功の秘密には、日本で生み出された独自の「口コミ」手法もある。

フェイスブック市場に慣れたソーシャルゲーム会社にとって大きな課題となったのは、スマホアプリではどのように口コミを引き起こせばいいのかということだった。

フェイスブックには、ゲームをクリアするたびにほかのユーザーにメールを送るよう促す仕組みがあり、友人にゲームを勧める行動を通じてプレーヤーを巻き込んでいける。これが短期間で数百万~数千万人といった規模までプレーヤーを取り込める要因になっている。ただ、それと同じ仕組みがスマホでは機能しない。

ところが日本独特のスマホ向けゲームには、口コミの機能として「招待ID」という制度が成長していた。これはゲームをプレーするユーザーに割り振られる7桁程度の固有IDで、新規にゲームを始めるユーザーがこのIDを入力すると、招待したユーザーと新規ユーザーにレアカードなどの特別なアイテムが与えられる。自分の友人にゲームを始めるように促すうえで効力を発揮する仕組みだ。

GooglePlayでも、AppStoreでも、さらにブログなどの外部サイトに対しても、ユーザーレビューの書き込みを促すことになり、ネット上で口コミを形成できる。フェイスブックといった実名主義のSNSでは難しいが、匿名主義が一般的な日本のソーシャルゲームだからこそできた優位性だ。

この結果、スマホ向けソーシャルゲームのレビュー欄には、山のように自分の招待IDの入力を促す書き込みが並んでいる。投稿する場合は、レビュースコアで5点満点中5点を付けるのが一般的なため、ゲームの評価が5点に近くなり、数多くのゲームがあるなかでも目立つこともできる。

神撃のバハムートは、米国でも同じ方式を採っており4000以上投稿されたレビューには、自分の招待IDを宣伝する投稿が多い。YouTubeには、自分の「招待IDを入力して」とIDを紙に書いて懇願する動画まで登場している。

 ただし関係者によると、アップルがAppStoreのレギュレーションを変更し、招待IDを使って口コミを起こす仕組みを禁止しようとする動きがあるという。実際、招待IDの投稿によって埋め尽くされているレビューはゲームの中身を正確に評価することが不可能な状態になっている。

しかし、現時点で「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンライン・エンターテイメント)、「拡散性ミリオンアーサー」(スクウェア・エニックス)など、ソーシャルゲームで日本の販売ランキング上位にいるゲームの多くがこの手法を使っている。実際にアップルが禁止に踏み切るのかは現時点ではわからない。

GooglePlayには、こうしたレギューレションはないため、匿名性が高い日本製のソーシャルゲームには、今後も有利に働く可能性がある。

日本のソーシャルゲームの海外進出の目標に

6月20日に、カードバトルゲームの本家とも言えるマジック・ザ・ギャザリングの「iPad」版がリリースされた。圧倒的な知名度の高さからダウンロードランキングは最高で5位となり、販売ランキングでも3位(5月25日)につけている。販売方式もランダムで登場する追加カードを1ドルで購入していく、一般的なトレーディングカードゲームのアイテム課金方式を踏襲している。iPhone版は今のところ登場していないが、こうしたゲームとの争いも激しくなるだろう。

米国のソーシャルゲーム業界は、日本製カードバトルゲームの人気が続くのかどうかを注視している。同時にアイデアが当たり前のようにコピーされる業界でもあるため、売れるゲームは研究され追従が始まるだろう。

こうした状況を割り引いても、神撃のバハムートが成功した事実は、日本で成熟したゲームが海外に通用することを証明したという決定的な意味を持つ。コンプガチャ問題という大きな課題を抱えた日本のソーシャルゲーム業界が、日本を飛び出し世界に打って出る転換が始まろうとしている。多くの日本企業にとって、今回の成功例は新しい目標になっていくだろう。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。
 また、グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にメンバーとして参加している。

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン