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マイクロソフトが買収した「企業向けツイッター」 実力と潜在性

ITジャーナリスト 小池良次

米国時間の6月25日、米マイクロソフトは企業向けソーシャル・サービスの「ヤマー(Yammer)」社を12億ドル(約960億円)で買収すると発表した。米国メディアは、約2週間前から両社が買収交渉を進めていると報道していた。マイクロソフトは、企業情報システムにSNS(交流サイト)を導入する「ソーシャル・エンタープライズ」市場に本格参入を果たした。

ベンチャーの社内システムを社外に展開

Yammerはもともと、家系図作製のベンチャー「ジニー(Geni)」が社員間の情報交流を目指して作製したマイクロブログだった。その後ジニーは2008年にヤマーを設立し、社外にもサービスを開始した。

当時は"企業版Twitter"と呼ばれていたYammerは急速に普及し、現在はフォーチュン誌の米トップ500社の85%を含む20万社以上が利用し、ユーザー数は約500万人を超えている。日本ではNTT研究所が同サービスを利用している。

企業版Twitterと呼ばれるとおり、Yammerの主力サービスはメッセージ機能にある。Twitterに比べ、Yammerはセキュリティー機能が高く、グループ作成や文書共有、コンテンツのタグ付けなど法人向け機能が充実している。

ソーシャル・エンタープライズ・アプリケーションを手掛けるベンダーでは、米ジャイブ・ソフトウエア、米ニュースゲーター・テクノロジーズ、米ソーシャルテキスト、米セールスフォース・ドット・コムなどが注目を浴びてきたが、ユーザー数ではヤマーが大きくリードしていた。

クラウド型の「フリーミアム」で急成長

Yammerが急成長を遂げた理由は、ユーザーがサーバーを構築する必要がないクラウド・サービスだったことと、無料版で会員を集め拡張サービスで有料化する「フリーミアム戦略」にある。

無料の基本サービスは、個人単位でヤマーのWebサイトから申し込む。

 有料版には、プレミアム・グループス(グループ単位で月額79ドル)、ビジネス・ネットワーク(ユーザーごとに月額5ドル)、エンタープライズ・ネットワーク(ユーザーごとに月額15ドル)のほか、ストレージ(記憶装置)の追加サービスなどがある。

ヤマーは12年2月に8500万ドルの追加資金をベンチャー・キャピタルから集め、海外支店の拡張やマスメディア広告によるブランド確立などを展開している。

技術面では、オープンAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を充実させ、企業基幹業務アプリケーションとの融合を強化していた。

ソーシャル活用に出遅れたマイクロソフト

マイクロソフトは、企業コミュニケーション分野で「Microsoft SharePoint」や「Microsoft Lync」といった製品を持っている。しかし2年前から始まったソーシャルブームに十分な対応ができなかった。

電子メールやネット電話、ビデオ会議システム、メッセージなどを統合する「ユニファイド・コミュニケーション」市場を見ると、米国ではIBMの「Lotus Sametime」製品群とマイクロソフトの「SharePoint/Lync」製品群が普及している。これらは既存の通信サービスを統合することを主体にしており、ユーザーは部署や氏名などを書いたディレクトリーを頼りに利用する。ソーシャルでは、ユーザーの関心や専門性、交友関係などを詳しく記述し、しかもアプリケーションで情報を処理できる「プロファイル機能」が欠かせない。ユニファイド・コミュニケーション製品群には、そうした機能が欠如していた。

マイクロソフトはSharePointでソーシャル機能の拡張を進めていたが、顧客の希望に応えられるだけの機能を提供できなかった。そのため多くの企業では、既存のSharePointにニュースゲーターなどを組み合わせて、ソーシャル機能を構築している。

ヤマー買収により、SharePointのソーシャル機能は大幅に充実すると見られている。同マイクロソフト製品のユーザー企業を狙ってニュースゲーターなどは苦境に立たされる可能性がある。

進むライバルたちのソーシャル対応

ヤマー買収の2つめの目的は、CRM(顧客情報管理)ソフトウエア「Microsoft Dynamics CRM」の機能強化にある。約2年前からクラウドCRMベンダーのセールスフォースがソーシャル・エンタープライズを提唱しており、この分野でもソーシャルの活用が進んでいた。

 セールスフォースはYammerと同じツイート機能を持つ「チャター(Chatter)」を無料で提供しているほか、ソーシャル・マーケティング機能なども投入している。

基幹業務アプリケーション大手のSAPも10年3月に「ストリームワーク(StreamWork)」と呼ぶサービスを投入してソーシャル機能の強化に着手し、11年12月には人事考課ソフトを開発する「サクセスファクターズ(SuccessFactors)」を買収した。同買収によりネット上で特定のアプリケーションを提供する「SaaS(サース)」系人材管理アプリケーションでソーシャル機能の導入を進めている。

こうしたライバルに対しMicrosoft Dynamics CRMは、ソーシャル機能で後れを取っていた。ヤマー買収によって、これからCRM分野での機能強化が進むと予想されている。

手に入れたのはソーシャル・ビジネスへの「入場券」

マイクロソフトは、Yammerの機能を自社製品に取り込むとともに、既存の一般向けサービスはそのまま継続すると述べている。これは先に買収したネット電話サービスの大手スカイプ(Skype)と同じやり方だ。

ただ、ソーシャル・エンタープライズ市場は黎明(れいめい)期にあり、サービス開発はこれから。現在はツイート(つぶやき)やプロファイル、グループ化などの基礎機能を拡充しているが、今後はツイートの内容分析による専門家発掘、各種ソリューションの推奨機能、企業アプリケーションとの柔軟な機能統合などの付加サービスが必要になってくる。

そうした観点から見れば、ヤマー買収はソーシャル・エンタープライズ市場への「入場券を手に入れた」段階でしかなく、競争はこれからだ。とはいえマイクロソフトがソーシャル・エンタープライズ分野に本格参入を果たした意義は大きいといえる。

小池良次(Koike Ryoji)
 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストおよびリサーチャー。88年に渡米、93年からフリーランスジャーナリストとして活動している。サンフランシスコ郊外在住。主な著書に「クラウド」(インプレスR&D)「クラウドの未来」(講談社新書)など。

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