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素朴な、でも奥深い「8つの疑問」

PCオーディオの世界(4)

 音楽CDを超える音質と利便性が魅力の「PCオーディオ」システム。CDプレーヤーの代わりにパソコンと音楽再生ソフト、「DAC(音楽データをアナログ信号に変換する装置)」と呼ぶ機器を用意し、スピーカーやアンプと接続すれば完成だ。連載最終回となる今回は、PCオーディオにまつわる素朴な疑問について、オーディオライターの御田照久氏に解説してもらった。素朴な疑問ほど技術的に奥深い場合もあるが、答えは分かりやすく示してあるので、初心者から上級者まで役立つはずだ。(電子版編集部)
(イラスト:ハラアツシ)

【Q1】古いオーディオシステムを持っているのだけれど、PCオーディオには使えない?

【A1】基本的には大丈夫。まずは試してみましょう。

PCオーディオでは、比較的データ量の大きいハイレゾ(ハイレゾリューション=高解像度)音源を再生することもありますが、アンプやスピーカーに対して特別なスペックを要求するものではないので、古いオーディオシステムでも基本的に使えます。

ただし、音質の傾向などは、ドライブとの組み合わせや、音楽再生ソフトの環境設定などで大きく変わります。その違いを試してみるのもPCオーディオの楽しみの一つと言えるでしょう。お手元に遊んでいるオーディオシステムをお持ちなら、悩む前に、ぜひ、挑戦してみてはいかがでしょう。

【Q2】ハイレゾ音源のデータって、超高域までちゃんと再生されるのでしょうか。

【A2】元データの録音品質によって異なります。

ハイレゾデータは、より高いサンプリング周波数で録音しているため、CDより高域再生の上限は高いですが、それは「再生可能な範囲」が大きいことを意味するだけで、元のデータに超高域の音が入っていなければ当然の事ながら再生されません。

一方で、アナログ信号をデジタイズするときには、サンプリング周波数の2分の1以上の高域データは存在しない、というのがデジタルオーディオの基本原理である「標本化(サンプリング)定理」の前提条件になります。しかし、現実のフィルター特性では理論通りにはカットできないため、超高域データは結構悩ましいものです。

以前、ローリングストーンズの24ビット/192kHzのハイレゾ音源で、「20数kHz以上がスパッと切れているではないか! 超高域成分をカットしているのか」と話題になったことがありました。これなどは当時のアナログテープデッキの磁気ヘッドの特性で、高域がレベル的にばっさり切れていたわけです。超高域成分が問題なくきれいに切れている方がデジタルデータ化するにははるかに問題が少なく、逆にこれは喜ぶべきことだったわけです。

【Q3】PCオーディオでもケーブルの良しあしが音質に影響する?

【A3】アナログの超高周波が流れるので、音質には影響があります。

音にこだわりたいなら、ケーブルも高品質なものを選びたい(写真は、クリプトンの「UC-HR」、1mで4万4100円)

信号伝送については、それがコンピューターデータであっても、理想的なデジタル信号(立ち上がり・立ち下がり時間がゼロである完全な方形波)を作り出す方法がありません。現実にはアナログ回路上でデジタル情報を処理するという構成になっています。

つまり、ケーブルの中を流れるのは「超高周波アナログ信号」ですから、当然ケーブルによって損失(ロス)など信号の伝送状況は影響を受けます。また、取り回しさえ問題なければ、基本的にはケーブル長は短くする方が音質に与える影響を低減できます。

さらに規格が定まっている伝送の場合、その規格に合ったケーブルであるかどうかが重要です。USB、FireWire、LANなどは、例えばインピーダンス(抵抗値)などの規格が定められています。材質よりも何よりも、まず規格にマッチしている事が第一です。

材質に関して言えば、例えば業務用高周波ケーブルには芯線にスチールを使ったりしているものがかなりありますが、芯線は「母材」として強度や曲げやすさなどを重視して製作しているものです。その表面を銅クラッドや銀メッキなど良導体でカバーすることで、高周波信号が表面側を通過していくという「表皮効果」を利用して信号を通過させています。

忘れてはならないのは、これら超高周波信号は放送電波帯域と言っていい周波数であり、外部に出たがり、また外部の影響を受けやすいので、十分なシールドを施すことが必要です。影響を与えやすいケーブルとは距離を置くなどの工夫も必要です。

さらに安定した接点のコンタクトも重要ですので、取り回し方をよく考えて、ケーブルを適宜固定してやるなど、振動しにくく安定したコンタクトを確保する工夫も大切です。

Windowsパソコンにするか、それともMacか。最後まで迷ったときは、MacでWindowsを動かすという奥の手もある

【Q4】WindowsとMac、これからPCオーディオを始めるならどちらを買えばいいのでしょうか。

【A4】どちらにも得失があります。興味のある方で試してみましょう。

どのようなソフトウエア、ハードウエアも、これが絶対というものはなく、使い勝手、音質などでそれぞれに得失があります。OS環境をどの程度チューニングするか、リッピングソフト(CDなどから音楽データを取り込むソフト)や音楽再生ソフト、オーディオインタフェースの選択と設定、電源など環境によっても音質は相当に異なりますから、お答えするのは結構難しい問題です。

ご存じの通り、スマートフォンやタブレット端末の生産台数がすでにパソコンのそれを上回り、パソコン用OSもモバイル端末との融合を強く志向している激動期にあります。それだけに、プラットフォーム選びはいっそう難しいと言えるでしょう。

本稿執筆時点では、すでにアップルからOS X Mountain Lionがリリースされています。今年(2012年)10月26日にはWindows 8もリリースされる予定です。

現段階での筆者の感想ですが、OS XはCore Audioと呼ばれるOSの音声フォーマット管理部分の動作がやや重く、マシンパワーが求められる傾向があります。Windowsの場合はデフォルトではやや頼りないのですが、不要機能を停止するなど環境設定をチューニングすると、しっかりした音になってきます。このように、変化の余地が非常に大きいこともPCオーディオの魅力の一つと考えましょう。

どちらも試してみたいという向きには、Macを買って、Boot Campや仮想化ソフトでWindowsもインストールするという方法があります。

【Q5】Windows XP搭載ノートやPowerPCの古いMacはPCオーディオに使える?

【A5】制約はありますが、その範囲ならお試しをはじめ、十分使えます。

現役を退いたちょっと古いパソコンも、PCオーディオ専用機として復活可能だ

まずWindows XPは2014年4月8日でサポートが終了し、その後はセキュリティ更新プログラムが入手できなくなります。その場合、インターネットに全く接続しないスタンドアローンで使う場合ならともかく、ネットに接続したいならお勧めできません。また、現在ではXPに対応していないアプリケーションやハードウエアも多数ありますので、その点も注意が必要です。

PowerPCを搭載するMacなどもアプリケーションはもちろん、使えるオーディオインタフェースなどの制限に注意が必要です。

これらの範囲内であれば古いパソコンも使用できますし、XPパソコンなどはPCオーディオを始める時のお試しとしては好適と言えるでしょう。

独自のクロック技術、高性能なコンバーター、高品質のパーツ、この製品のために特別に設計されたUSB入力回路を備えるアンテロープ・オーディオのUSB DAC「ZODIAC gold」(39万9000円)。別売の専用電源(10万5000円)と組み合わせることで、さらなる高音質を追求できる

【Q6】DACは1万円以下のものから100万円以上するものまでありますが、何が違うのでしょうか。

【A6】高音質なパーツや設計製作上のマンパワーなどに違いがあります。

DAC(デジタル/アナログコンバーター。音楽データをアナログ信号に変換する装置)の回路設計や使用するチップ類、あるいはクロック発信器などのハードウエアデバイス、コンデンサーや抵抗などの各種の部品のグレード、そして電源部の回路設計や実装上の部品などのグレードが音質に大きく影響します。加えてノイズ対策も非常に重要です。

また、DACをパソコンに接続するためのUSB入力部はコンピューター部品ですから結構ノイジーなものもあり、基板上のノイズフィルターやアースの取り方、基板のインピーダンス管理など、さまざまな場面できちんと対策が講じられないと、ノイズそのものは耳につかなくても、あっという間に全体の音質は損なわれます。これらは測定や検聴で注意深くチェックしなければならず、相当のマンパワーが必要とされます。

USB入力部についてはさらに、パソコン側とのデータパケットの受け渡し方はもちろん、DAC回路に渡す前のこの段階でクロック信号が与えられ、データをそれに同期して読み出してD/A変換させるため、クロック信号の質は音質に決定的な影響を与えます。つまり、内蔵クロック発信器の質、あるいは外部ワードクロックの引き回し方などは音質への大きな影響があり、この部分の設計と回路実装も非常に重要になります。

このように、どれだけの音質や性能を要求し、設計・基板製作、部品の選択を行うかでコスト、つまり価格は大きく変わりますし、音質も変わります。

単に音楽データがちゃんと通ればよいと言うことではなく、音質を重視する場合には、スピーカーやアンプなど他のオーディオ機器のグレードに叶う内容でなければいけない、と言ってもいいでしょう[注1]

Windows 7には、用途によって、いくつかのバリエーションが存在する。PCオーディオに使う分にはHomeでも十分だが、できれば64ビット版を選びたい

【Q7】Windows 7のHomeとPro、32ビットと64ビットなどの違いは、PCオーディオも気にした方がいい?

【A7】メモリーをたくさん使うなら64ビットがお薦めです。

Windows 7の音声システムそのものは内部的に32ビットのままですが、その環境によってもちろん音の違いが生じます。Home PremiumとProfessionalではXP互換モードなど一部機能の違いがありますが、何か非常に重要な古いアプリケーションを使いたい場合でなければ、Home Premiumで十分でしょう。

[注1]本記事の基となるムック『これ1冊で完全理解 PCオーディオ』では、10万円以下で買えるUSB DAC14製品を紹介。各製品の仕様や機能、3人の評者による音質チェック結果などを記載した。

32ビットか64ビットかについては、最近のアプリケーションはリソース、つまりメモリー使用量に余裕を必要とするものが多いので、その意味では64ビットの方が多くのメモリーを使えますし、向いていると言えるでしょう。

最近のパソコンはUSB 3.0対応製品が普通になってきているが、PCオーディオとして使う場合、高速になるとノイズの問題がシビアになる

【Q8】USB 3.0は従来の2.0より高速なデータ転送ができるようですが、音質的にも優れるの?

【A8】速ければいいというものではありません。高速になるとノイズの問題がシビアになります。

コンピューター的効率とはハイスピードであったり、省エネであったりしますが、コンピューター的効率とオーディオ的音質とは、基本的に別物であるという点をご理解ください。USB 2.0でも当初はノイズに悩まされましたし、最終的にオーディオの側の規格も整備されて立ち上がるのにおよそ9年かかっています。

現状ではUSB 2.0とオーディオクラス2.0は24ビット/192kHzのハイレゾ再生にも特にスペック的な問題はありません。もちろんハードディスクなどのストレージ分野では今後USB 3.0対応製品は増えていくと思われますし、単発的にUSB 3.0のオーディオインタフェース製品が登場する可能性もありますが、USB 3.0がオーディオの標準規格になっていく可能性は、現段階では非常に小さいと思われます

(連載終わり)

[ムック『これ1冊で完全理解 PCオーディオ』(日経BP社)を基に再構成]

[参考]日経BPパソコンベストムック『これ1冊で完全理解 PCオーディオ』(2012年8月29日発売)では、身近なパソコンを高品質な音楽再生機器として活用する「PCオーディオ」の世界を紹介。CDを超える音質のオーディオシステムを組む方法や、DACやスピーカー、再生ソフトの選び方、注目の「ハイレゾ音源」の入手法など、初心者から上級者まで役立つ情報をカバーしている。

これ1冊で完全理解 PCオーディオ (日経BPパソコンベストムック)

著者:麻倉怜士 ほか.
出版:日経BP社
価格:1,280円(税込み)

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