集まれゲーム自慢! PS4が創るエンタの世界
ジャーナリスト 新 清士

テレビ番組のヒットで注目集める
プレー動画を使った遊び方が日本で注目されるようになったきっかけは、フジテレビCS放送で2003年に始まった番組「ゲームセンターCX」のヒットだろう。お笑い芸人の有野晋哉さんがファミリーコンピュータなどの古いゲームソフト1本をプレーし、制限時間内に最後までクリアできるかどうかを楽しめる内容で人気を集めた。有野さんが様々なリアクションをしながらゲームを何時間もプレーし続ける姿は、ゲームで遊んでいる人を見る面白さがあることを一般に認識させた。
その後、06年の「ニコニコ動画」をはじめ動画共有サイトが続々と登場。利用できる動画サイトのインフラが整ってくると、ユーザー自身がプレー動画を作製するようになった。プレー動画を録画したものに加え、リアルタイムでストリーミング配信する番組も出てきた。プレー動画はニコニコ動画では「実況プレイ動画」というタグで登録されており、その数は143万本に及ぶ。これはニコニコ動画に登録されている動画の約13%を占める。

プレー動画がゲーム販売に大きな影響力を持つことを認識させたのが、ハンドル名「ぬどん」氏が10年に作製した「マインクラフト実況」と呼ばれる13本のシリーズだ。累計800万回も再生されたこの動画は、スウェーデンのモージャン社が発売したものづくりゲーム「マインクラフト」(パソコン用)で遊ぶユーザーの様子をバラエティー番組風に編集している。マインクラフトの遊び方を広く知らしめる役割を担うことになり、日本では全くプロモーションがされていないにもかかわらず、このゲームのブームを生むきっかけとなった。
ユーザーにとってゲームのプレー動画作製は簡単だ。ゲームをそのまま素材として利用できるからだ。あるゲームの攻略がうまいユーザーが自分の技を見せたり、ホラーゲームで自分の反応を口にしながら遊んだりするだけで、プレー動画は十分に番組として成り立つ。一度作製したプレー動画を後から編集し、番組として品質を高めることもよくある。
こうしたゲームのプレー動画を作製する「実況者」の一部には、アイドルのような扱いを受ける人まで現れた。昨年9月に幕張メッセ(千葉市)で開催された東京ゲームショウの「インディーズゲームフェス」というイベントでは、普段は動画でしか接することができない人気実況者を生で見るため、会場の前列を一日中確保し続ける女性たちがいたほどだ。さらに、ゲーム会社がお金を払ってプレー動画の作製にかかわってもらう「プロ実況者」と呼ばれる人も出てきた。

ボタンを数回押すだけで動画配信
ユーザーによるプレー動画の配信には、これまで様々な制約があった。技術面では、高性能のパソコンや画面を撮影するためのキャプチャー機器が必要だ。画質にこだわる人向けの高機能な機材は高額なうえ、配信用のソフトウエアは誰でも簡単に利用できるものではなかった。
これに対し、SCEが投入したPS4はプレー動画配信のハードルを大きく下げた。高性能なハードを利用し、誰でも簡単にゲーム実況を配信できる仕組みを装備しているからだ。PS4にはコントローラー用のマイク付きイヤホンがついている。これを使えばゲームの音とともに自分が話す音声もそのままネット配信することができる。プレー動画を視聴できるデバイスもPS4のほか、スマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)、パソコンと幅広い。

PS4のプレー動画をストリーミング配信するサイトも増えている。米ツイッチインタラクティブ(ウィスコンシン州)の「ツイッチ」、米ユーストリーム(カリフォルニア州)の「ユーストリーム」に加え、今春からはドワンゴの「ニコニコ生放送」への対応も予定されている。
PS4でのプレー動画配信は本当に簡単なのか。筆者も実際に試してみた。ゲームのプレー中、いつでも好きなところでコントローラーの「シェア」ボタンを押し、配信を始めるように選択する。それだけの操作でツイッチで配信を開始できた。確かに簡単だった。
自分がネット配信したストリーミング動画はスマホでも確認できる。筆者はSCEが提供しているiPhone用アプリを使った。このアプリ上に自分のプレー動画の配信開始のお知らせが表示され、それをタッチするだけで見ることができる。
著作権問題をクリアしたPS4
ストリーミング配信中のプレー動画は、筆者が実際に遊んでいるプレー画面から約20秒程度の遅れがある。ただ、iPhoneに表示されたゲーム画面はテレビの画面と全く同じで、マイクに向けて話している自分の言葉もクリアに聞こえる。他の視聴者は、その配信映像を見てコメントを書き込み、プレーヤーとの交流を楽しむことができる。ネットを通じた視聴者の参加も非常に容易だ。

プレー動画にはもう一つ、大きな問題がある。著作権だ。作製されたゲーム映像の著作権はゲーム会社にある。そのため、ユーザーが配信したゲーム映像も本来はゲーム会社に著作権があり、ユーザーは自由に配信できない。ところが、著作権法は親告罪で、これまで配信されたプレー動画の多くはゲーム会社が黙認してきた。様々なプレー動画によりプロモーション効果が期待できるからだ。
プレー動画を配信できるゲームも、その条件はゲームによってまちまちだ。例えば、スクウェア・エニックスはオンライン・ロールプレイングゲーム(RPG)「ファイナルファンタジー(FF)14」と「ドラゴンクエスト10」についてはともにプレー動画配信を認めている。
ただ、FF14が利用規約で範囲を決めているのに対し、ドラクエ10はニコニコ動画のみでの配信しか認めていない。それ以外のゲームではプレー動画配信に関する公式な条件は明らかにしていない。こうした不透明な状況は、ユーザーがプレー動画配信を楽しむうえで壁になっていた。
そこで、SCEはPS4に関してこの著作権問題をクリアした。PS4で配信可能なゲームは、ゲーム会社が認めているものであれば著作権を気にしないで配信できる。ゲーム会社側は特定のシーンの配信を認めないといった設定も可能なため、物語の重要なシーンを配信不可にして、ユーザー以外へのネタバレを防いだりできる。今後、対応するゲームは着実に増えていくだろう。
米ではスポーツ観戦のような人気

このように、PS4は今まで多くのユーザーがプレー動画を配信するうえで直面していた技術面の課題や著作権といったハードルを一気に取り払った。ゲーム単体で遊ぶだけでなく、スマホと連携したり、ネットを通じて他のユーザーや友人と交流したりといった家庭用ゲームの新しい魅力をアピールするためだ。
一方、米国におけるプレー動画の成り立ちは日本と大きく違う。ゲームプレーをバラエティー番組のように面白く見せるというよりも、ゲーム内での対戦を他のプレーヤーが見ることを目的として普及してきたのだ。特に、うまいプレーヤー同士が対戦する動画は人気がある。ゲームをスポーツのようにプレーし、観戦して楽しむ「eスポーツ」と呼ばれるジャンルも確立しているほどだ。
ツイッチはプレー動画に対するユーザーの人気に対応し、11年にゲーム番組配信の専門チャンネルという形でサービスを開始。現在では月間3500万人もの視聴者を集める。総額10万ドルの賞金付き大会も開催される米ライオット・ゲームズ(カリフォルニア州)の戦略ゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」(パソコン用)のプレー動画は、10万人以上のリアルタイム視聴者を集めることも少なくない。対戦ゲームを手がけるゲーム会社は、自社作品の人気を得るためプレー動画配信を積極的に認めているようだ。
PS4はツイッチのサイトで「PS4チャネル」として新しいコーナーに区分されている。すでに数百のプレー動画が配信され、日本人と思われるユーザーのプレー動画配信も始まっている。ただ、それぞれの番組をリアルタイムで視聴しているユーザーは数人から、多くても300人といった程度で、本格的な人気番組が登場するのはこれからだろう。

さまざまなプレー動画のうち、筆者が思わず見入ってしまい、今後の可能性を感じるものもあった。米エレクトロニック・アーツ(米カルフォルニア州)のシューティングゲーム「バトルフィールド4」のプレー動画「ヘリコプターヘル」という番組だ。
このゲームは64人が同時に対戦できるゲームで、プレーヤーは一般の兵士として戦う以外に、戦車やヘリコプター、飛行機などを操縦して戦うこともできる。筆者がPS4で見たプレー動画は、ヘリコプターを操るユーザーが他のプレーヤーを倒し続ける内容だった。ビルの間をぬってヘリを縦横無尽に操作し、敵を倒していくテクニックのあまりの見事さにくぎ付けになってしまった。
ツイッチなどのプレー動画の配信サイトには、マイクロソフトの新型ゲーム機「XboxOne」も対応する予定だ。今後、プレー動画の手軽な配信環境を巡る競争も激しくなっていくだろう。
新しい遊び方を次々に見つけ出す
プレー動画は動画共有サイトの登場とともにユーザーが生み出したゲームの新しい楽しみ方だ。それを動画サイトが積極的に支援し、ゲーム各社もユーザーの声に押される形で認めてきた。ゲーム機がプレー動画の配信機能を備えることで、ユーザーはより手軽に配信できるようになった。
プレー動画を作製・配信する環境の進化とともに、ユーザーは次々に新しい遊び方を見つけ出してきた。例えば、1つのゲームを最短何分でクリアできるかを競ったり、24時間耐久で遊び続けたり、ゲーム内のバグを探して本来入ることができない場所にキャラクターを行かせようと試みたりと、ユニークな動画が相次いで登場している。いずれもプレー動画を扱える環境がなければ成り立たない遊び方だ。新世代の家庭用ゲーム機ではこうしたケースがさらに増えるだろう。
従来の家庭用ゲーム機は、大半のユーザーにとってゲームソフトで遊ぶだけの閉じた環境だった。しかし、プレー動画はゲーム機を通じて他のユーザーたちとの交流を大きく広げる可能性を秘めている。ゲーム情報サイトの米VGチャーツによると、PS4とXboxOneの世界販売台数は累計1000万台に迫っている。人気要因の一つがプレー動画への期待感なのは間違いない。
今後、プレー動画の人気番組が登場し、これをユーザーがゲーム機やスマホで視聴する姿は珍しくなくなるだろう。こうした楽しみ方は家庭用ゲーム機ならではの魅力といえる。日本をはじめ世界各地でスマホゲームが普及し、家庭用ゲームの人気を奪いつつある。新世代ゲーム機の普及とともに存在感を増すプレー動画は、家庭用ゲーム人気復活の起爆剤になろうとしている。
1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。立命館大学映像学部非常勤講師も務める。グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にもメンバーとして参加している。著書に電子書籍「ゲーム産業の興亡」 (アゴラ出版局)がある 。
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