激しい生存競争 米コメディー番組は女性モノが強い
海外ドラマはやめられない!~今 祥枝
アメリカのお家芸とも言うべき30分のコメディー。毎シーズン多くの新番組が誕生しますが、各局が目玉とするシリーズが生き残るのは得てして難しく、意外な伏兵の健闘が多いジャンルです。
オスカー俳優ロビン・ウィリアムズ主演の『クレイジーワン ぶっ飛び広告代理店』(CBS)、『マイケル・J・フォックス・ショウ』(NBC)など、ビッグネームを冠した新作はキャンセルに。一方で、更新が決まったシリーズには、1980年代を舞台にした古き良き時代を懐かしむ系の『The Goldbergs』(ABC)、同名映画のリメイク『About a Boy』(NBC)ほか、万人受けするノリのコメディーが目立ちます。
今期、とりわけコメディーに力を入れていたのは、『CSI』や『NCIS』シリーズ、『クリミナル・マインド』などのヒット番組を擁するCBSです。CBSといえばクライム・サスペンスのイメージが強いですが、『ビッグバン★セオリー』や『ハーパー★ボーイズ』、近年は『NYボンビー・ガール』といったヒット作を着実に生み出すことに成功しています。
CBSはドラマでは手堅く王道感のある作りをモットーとしており、コメディーもしかり。今期の新作では、ボー・ブリッジスとマーゴ・マーティンデイルの芸達者が演じる夫婦が、熟年離婚に直面する家族のドタバタを描いた『The Millers』と、シングルマザーの奮闘を描いた『Mom』の2本が、来期も継続されることになりました。

男性主役のコメディーは苦戦
注目したいのは、映画『最終絶叫計画』のアンナ・ファリスふんするバツイチのクリスティが、ウエートレスをしながら10代の娘と小学生の息子を育てる『Mom』です。
クリスティは、学歴もお金もなく、男運もないシングルマザー。時々訪れる元夫は大きな子供のようだし、現在付き合っている彼は既婚者。さらに娘は反抗期と、問題は山積み。最大の難関は自分の母親ボニーの存在です。男好きで無責任な母親の影響で、自身もアルコール依存症に陥ります。そこから何とか立ち直り、母親のようにはならないよう奮闘しますが、ボニーは悪気もなくクリスティの家庭に入り込んできます。明るくチャーミングな主人公と、演技派アリソン・ジャネイふんする憎めない母親、そして生意気盛りの10代の娘とのやりとりは、軽く見えてドキリとさせられるものもあります。
米国ドラマにおける家族像の変化は、秀作コメディー『モダン・ファミリー』などに象徴されますが、『Mom』は今時のネタでエッジを効かせつつもオールドスタイルの良さがあります。ちなみに、今期もまた男性が主役のコメディーは苦戦しました。『NYボンビー・ガール』に続き『Mom』の成功で、たくましく生きる元気な女性像が印象に残ります。
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●今月のオススメドラマ
『ブレイキング・バッド』
余命少ない化学教師が家族のために麻薬を密造

高校のさえない化学教師ウォルター・ホワイト。身重の妻と脳性麻痺(まひ)で歩行にはつえが手放せない長男ジュニアを養うために、放課後は洗車場でアルバイトをしながら生計を立てていた。そんなある日、突然、肺がんで余命はわずかと告げられる。家族に何とか現金を残すべく、化学の知識を生かして違法ドラッグのメタンフェタミンの密造を思いついたウォルターは、かつての教え子でドラッグディーラーのジェシー・ピンクマンと組み、危険な商売を始める。
まじめ一筋に生きてきた男が、悪の世界に踏み入れ、後戻りのできない深みへとはまっていく。衝撃的な内容で米国テレビ界に一石を投じた本作は、『マッドメン』『ウォーキング・デッド』などの秀作を輩出しているAMCで放送され、エミー賞ほか数々の賞に輝き、2013年に全5シーズンで完結した。
シーズンを重ねるごとにすご味が増していく主演のブライアン・クランストンは、一世一代の名演を披露。妻役のアンナ・ガン、相棒役のアーロン・ポールら、俳優陣の鬼気迫る熱演も見もの。評価も人気も最高潮に達したシーズン5の最終回まで、一瞬たりとも見逃すことのできない傑作シリーズだ。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。
[日経エンタテインメント! 2014年7月号の記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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