昔ながらの喫茶店 復権 シニア憩う場、参入相次ぐ

昔ながらのフルサービスの喫茶店が復権しつつある。約30年前をピークに「スターバックスコーヒー」をはじめセルフ式カフェに押されるなどして衰退をたどっていたが、シニアが時間を過ごし交流を深める場として見直されている。需要を取り込もうという大手チェーンの動きも活発だ。
「地域コミュニティーの場として『喫茶店』が活躍できればと思い、この店を作った」。2012年12月20日、埼玉県朝霞市の生活道路沿いに開いた「ミヤマ珈琲」の1号店。銀座ルノアールの小宮山文男社長は、あいさつに力を込めた。首都圏の駅前立地にこだわってきた同社が喫茶店で全国を目指すという「宣言」だった。
店舗面積は約210平方メートルで客席数は98。木目調の明るい店内は天井が高く、日がたっぷり差し込んで開放感がある。三角巾をかぶった女性店員が客に水とおしぼりを出し、注文の商品を席まで運んでくれる。
布フィルターで入れる「ミヤマブレンドコーヒー」(400円)のほか、食べ物には定番のナポリタン(680円)などのほか、生クリームを山盛りにしたマフィン(690円)など流行のメニューもそろえた。

「『純喫茶』世代だから落ち着く」と笑うのは沿線の東京都練馬区に住む70代夫婦。「タリーズよりソファが広く座りやすい」と満足げ。2人の会計はコーヒー2杯とカツサンドで約1600円だった。主な客層は人口に厚みがある65~75歳。退職してホームタウンで悠々自適の生活を送るシニアに商機をみた。
想定客単価は開業前の800円を、開業後に650円に引き下げた。何度も足を運んでもらう算段だ。銀座ルノアールは110店を営業するが、ミヤマ珈琲を軸に5年間で店舗を倍増させる。
ドトール・日レスホールディングスが11年3月から出店する「星乃珈琲店」も好調だ。店内はアンティーク調のソファや照明などで落ち着いた雰囲気。自家焙煎(ばいせん)のコーヒーが味わえる。店舗数は約40店と4カ月で倍増。来年中の100店も見えてきた。

鶴ケ島店(埼玉県鶴ケ島市)を娘、孫2人と訪れていた60代女性は「気兼ねなくゆっくりでき、値段も高くない」とくつろいでいた。店内の新聞・雑誌をのんびり読む1人客や、雑談に花を咲かせる女性のグループ客など過ごし方は様々だ。
1972年誕生の喫茶店チェーン最古参「カフェ コロラド」にも変化が出ている。約250あった店舗は約80まで減ったが、かつて通った団塊世代が集うようになり、「2年ほど前から売上高が落ちない」。
都心で50~60代をつかむのが東和フードサービスの「椿屋珈琲店」だ。サイホンで入れるコーヒーは930円するが、「滞在時間で割れば高くない。街中で安心できる場所として選んでもらっている」(同社)。同部門の2012年5~11月の既存店売上高は前年同期比2.5%増。13年4月期まで4期続け増収を見込む。
火付け役のコメダ(名古屋市)は客の長居を歓迎する店作りで支持を集め、店舗数は13年2月末に497店。1年で60以上増える勢いだ。
■若者も支持、距離感が魅力

20~30代の若い男女に「純喫茶」がひそかな人気を呼んでいる。12年12月15日、東京・荻窪の喫茶店「6次元」に純喫茶好きが約25人集った。目当ては東京・内神田で1971年に開業した老舗「エース」の店主、清水英勝さんと全国約1000店を巡り「純喫茶コレクション」を出版した難波里奈さんの対談だ。
清水さんは「大手チェーンの画一さが当たり前の若い世代には純喫茶の個性が魅力に映るのだろう」という。店が長続きするコツは「どれだけお客様の声に耳を傾けられるかだ」と説く。
30代OLで純喫茶巡りは趣味という難波さんは「つかず離れずの距離が温かい。居心地が良くて日ごろのストレスから解き放たれる」とすっかり魅了されている。
■店主高齢化、数は半減
総務省の統計によると、喫茶店は1981年の約15万4000軒をピークに減り続け、2009年は約7万7000軒と半減した。下げ止まり感はあるが、店主の高齢化などで廃業は後を絶たない。清水さんも「今のうちにうまくバトンを渡し、日本の良き文化が残せたら」と語る。
いま広がる喫茶店再評価の動きは最後のチャンスかもしれない。(関口圭)
[日経MJ 2012年12月26日付]
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