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知の逆転、キャリアポルノ…年末年始に読みたい10冊

7~12月書評閲覧ランキングから

 景気回復と日並びの良さで少しぜいたくな休みが期待できる今年の年末年始。忙しくなりそうな2014年に備え、アタマをリフレッシュする時間をじっくり取るのも悪くなさそうだ。電子版に掲載した書評で2013年7~12月に閲覧数の多かった書籍からお薦めの10冊を選んだ。「超」大型連休にふさわしく重厚なラインアップとなった。(文中敬称略、7~12月の書評ランキングは最後に掲載しています)
(NHK出版新書・860円) 

知の巨人たちと向き合う

2013年下期の書評ランキングからは、日経電子版読者が読みたい1冊を探すときに3つの流れがあるのが読み取れる。1つは知の巨人たちと向き合って今の世界を知ろうとするもの。さらにミステリーの巨匠たちが描く豊潤な世界に身を委ねようとする欲求。最後は通説を覆そうとする新刊に刺激を求める傾向だ。

書評ランキングでは「知の逆転」(吉成真由美編)がトップを独走(後半部分に編者インタビュー)。上期も3位にランクインしている。ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキーら現代最高の知性6人のインタビューをまとめたもので、既に約20万部が売れたベストセラーだ。70~80歳代を中心にした卓越した碩学(せきがく)たちから巧みに信条や個人的な嗜好までを聞き出している。ほぼ全員が他人の信仰を否定しないまでも無宗教か宗教に頼らない生き方をしている点が興味深い。

(ちくま学芸文庫・1500円) 
(河出書房新社・2500円)

「若い世代には今本物の考え方に触れたいという欲求があるのではないか」(吉成氏)。今回は「数学序説」(吉田洋一、赤攝也著)が7位に、「動きすぎてはいけない ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学」(千葉雅也著)が8位に入った。「数学序説」は初版が1954年。いわば古典を文庫化した。大学教養課程のレベルを分かりやすく解説しようとしたもの。確かにどっぷり文系の人間でもついていける。著書の目指す「数学嫌いを直す」までたどり着けるかどうかは読み手本人次第だろうけれど。

千葉雅也氏は本書がデビュー作。まだ30歳代半ばながら浅田彰、東浩紀といった思想界の先達に続く「ポスト構造主義」の次世代旗手の一人と注目されている。一種奇抜なファッションに身を包みイケメンで優しげな容姿に親しみを感じる読者もいるだろうが、だまされてはいけない。内容はストレートに難解だ。博士論文を改稿したドゥルーズ入門書だがそれでも10月発刊にもかかわらず1万2000部を売り切り「予想以上の出だし」(河出書房新社)という。

ミステリーの世界に浸りきる

(講談社・1700円)
(新潮社・各1800円)
(毎日新聞社・各1600円)

ミステリーは今回も好調。上期に1位だった「冷血」(高村薫著)が5位に、2位だった「ソロモンの偽証」(宮部みゆき著)が3位に入った。しかし巨匠たちは寸時も立ち止まってはいない。高村氏は新作「土の記」の連載を雑誌「新潮」でスタート。一方特定秘密保護法など時事問題にも精力的に持論を発表している。

宮部氏は「ペテロの葬列」が発刊されたばかりで、今各地の書店を華やかに彩っている。コンツェルングループ会長の娘婿「杉村三郎」シリーズの最新刊だ。

ミステリー2大女王の作品に「祈りの幕が下りる時」(東野圭吾著)が6位に。この3冊あれば家から一歩も出なくても退屈することはあるまい。東野ワールドで最も人気のある刑事の1人、加賀恭一郎が主役の1冊。緻密なタッチで約400ページを休まずに読ませる。いつか映像化も期待したい仕上がりになっている。

昨日と違うもう一つの真実

(朝日新書・760円)
(大田直子ほか訳、早川書房・1~2巻各2000円、3巻2200円)

2位の「キャリアポルノは人生の無駄だ」(谷本真由美著)は定説を覆そうとする野心作。「キャリアポルノ」とは自己啓発書一般を指す。自己啓発書を読んだからといって自分の能力がレベルアップするわけではないが、やはり手が出てしまう。無駄だよ、ひと時の満足感に浸れるだけだよ、ほかにやるべきことがあるよと説く。何冊もの自己啓発書を購入した向きには耳が痛い。それでも何かの拍子に買ってしまうのではあるが……。下期の書評閲読ランキングで自己啓発ジャンルは「世界のエリートはなぜ『この基本』を大事にするのか?」(戸塚隆将著)が11位でトップだった。

定説に挑戦したもう一作「オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史」(オリバー・ストーン、ピーター・カズニック著)が4位。「プラトーン」「JFK」などハリウッドの名監督であることは説明の必要がないだろう。同名のドキュメンタリー作品がNHKで繰り返し放映されているものを書籍化した。内容はいわゆる「反米」の人々が説く現代史の解説を軌を一にしている。ただストーン監督はベトナム戦争に従事していたのだ。その体験が本書の源泉で「米国の自虐史観か」などと揶揄(やゆ)させない迫力を生んでいる。

(集英社文庫・650円)
(本の雑誌社・2200円)

謎の独立国家ソマリランド」(10位、高野秀行著)は高村薫氏が絶賛した作品。確かに今年発刊されたノンフィクションの中で、控えめに言ってもベスト3を外すことはまず無いだろう。遠いアフリカの姿がうっすらと見えてくる。3半期連続でベスト10入りしたのが「私を知らないで」(9位、白河三兎著)。前期6位、前々期8位。不思議な浮遊感で包んだこの若い作家のみずみずしい感性が読者の関心を引き続けている。

(電子整理部 松本治人)

◇     ◇

本質を見極める姿勢大切に 「知の逆転」編者・吉成真由美氏インタビュー

吉成真由美さん

――「知の逆転」発刊からちょうど1年経ちました。

「真面目な直球本ですが、読者の評価を受けてうれしく思っています。情報があふれる中で自分たちの思考や行動の基盤となるような本物の考え方、本質を問う読者が増えてきたと解釈しています」

――本書に登場する知の巨人に共通するものは。

「いずれも科学を基盤としてもっている人たちです。共通するのは徹底してファクト(事実)を見極めようとする姿勢、時代や社会に屈しない精神を感じました」

――6人の碩学はインタビューに答えつつ若い世代にエールを送っているようにも思えます。

「若い読者の方には折に触れ何度か繰り返して読んでぐっと感じるところを見つけてもらえると有り難いですね。私自身、インタビューした時と今とでは影響を受ける箇所が変わってきています」

「世界で一体何が起きているか、これからの人生の指標をどこに置いたらいいのか、様々な情報の中からことの本質がどこにあるのか見極めようとする姿勢がますます大事になってくると思います」

――2014年の計画は。

「4月にカーター米元大統領ら各国元首クラスの集まりである『エルダーズ』のインタビューをまとめたものを出版予定です。進化論入門関連の本も」

「年末年始は南米のチリに行く予定です。お薦めの1冊ですか? ラッセルの『幸福論』を。特に若い人は一読して損はしません」

(12月26日、米ボストンの自宅と東京を結んで)

2013年7~12月に読まれた書評 ベスト20
(書名をクリックすると書評を表示します)
1知の逆転
吉成真由美インタビュー・編
2キャリアポルノは人生の無駄だ
谷本真由美著
3ソロモンの偽証 第1部~第3部
宮部みゆき著
4オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史(1~3)
オリバー・ストーン、ピーター・カズニック著
5冷血(上・下)
高村薫著
6祈りの幕が下りる時
東野圭吾著
7数学序説
吉田洋一、赤攝也著
8動きすぎてはいけない ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学
千葉雅也著
9私を知らないで
白河三兎著
10謎の独立国家ソマリランド
高野秀行著
11世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?
戸塚隆将著
12出雲と大和
村井康彦著
13等伯(上・下)
安部龍太郎著
14雑誌の王様
塩澤幸登著
15グリード(上・下)
真山仁著
16色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
村上春樹著
172666
ロベルト・ボラーニョ著
18血盟団事件
中島岳志著
19統計学が最強の学問である
西内啓著
20エイズの起源
ジャック・ペパン著

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