好調のカーシェアに迫る伏兵、欧州で台頭の「ライドシェア」とは - 日本経済新聞
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好調のカーシェアに迫る伏兵、欧州で台頭の「ライドシェア」とは

新興国の所得水準が上がってクルマの所有意欲が高まる一方で、モータリゼーションが進んで成熟した先進国では「所有しない使い方」へのシフトが急速に進みつつある。消費者や企業は、自らの利用方法に合わせてリース、レンタル、シェアリングといった形態をうまく使い分けるようになった。

中でも今、急成長しているのがカーシェアリングである。交通エコロジー・モビリティ財団が2012年6月22日に公表した調査結果によると、日本国内のカーシェアリングの会員数は19万511人、車両台数は6988台、車両ステーション数は4565カ所に達した。2010年から倍々ゲームで伸び始め、その勢いは止まる気配を見せない。2011年末の会員数と車両台数はそれぞれ7万3224人、3911台だったので、2012年も会員数で3倍以上、台数で2倍以上に増えるのは間違いない状況だ。

ガリバーが撤退を表明

そんな成長市場にあって、ガリバーインターナショナルは2012年5月、カーシェアリング市場からの撤退を表明した。同社は2009年4月にカーシェアリング市場に参入。「ガリバー・カーシェアメイト」というサービス名称で、2012年1月までに車両ステーション10カ所に車両10台を配備し、会員数は144人になっていた。しかし2012年7月31日にサービスを終了し、希望する会員には他社を紹介するという。

国内のカーシェアリング業界では、今後、徐々に参入企業の淘汰が進むとの見方が強まっている。前出の交通エコロジー・モビリティ財団の調べでは、カーシェアリング事業を営むのは34企業・団体。シェアトップはタイムズ24の「タイムズプラス」で、ステーション数2509カ所、車両3458台、会員数8万5350人。2番手はオリックス自動車の「オリックスカーシェア」で、同1025カ所、1641台、7万3364人。この2社で会員数の83%を押さえるという寡占市場になっている。

オリックス自動車は2002年からカーシェアリングに取り組んでいる老舗で、日本の同市場を切り開いてきた。タイムズ24は、2005年にカーシェアリング事業に参入し、本業の駐車場を車両ステーションに併用できる強みを生かし、急速にシェアを伸ばしてきた。この2社の成長ぶりを見て、2008年以降、新規参入が相次いだ。ガリバーインターナショナルもその1社だった。今後、こうした後発組を中心に撤退が増える可能性がある。

いきなり大規模な投資が必要な鉄道や路線バスと違い、カーシェアリング事業は会員数の増加に伴って徐々に車両数を増やせるので、事業リスクは比較的小さいように思える。しかし実はそうでもない。意外に投資額が大きいのは、車両や会員を管理する情報通信システムだ。

カーシェアリングが事業として先進各国で普及したのは、車両の予約や会員認証、車両のドアロックの開閉などをすべてオンラインで遠隔管理できるようになったからだ。一般的なレンタカーと違い、車両の貸し出しや返却はすべて無人で行われる。短時間の利用も多いカーシェアリングの場合、現場にいちいち社員を配置していては運営コストが膨らんでしまう。

こうした車両管理システムへの投資は、会員数や車両台数の多寡によらず一定の規模が必要になる。つまり会員数が少ないうちは、システム投資の減価償却費が大きく利益が出にくいが、そこを我慢して一定規模を超えて大きくなれば利益が出てくるという構造である。タイムズ24を傘下に持つパーク24でさえ、カーシェアリング事業の収益性はまだ低く、2012年10月期にようやく部門収支が均衡する見込みだ。

車両の購入や車両ステーションの確保にかかるコストも、規模が大きいほど有利になるのは自明だろう。例えばオリックス自動車は、本業の自動車リースと合わせることで車両購入台数を増やすことができた。価格交渉力が強まるので1台当たりの購入単価を下げやすい。

世界のカーシェアリング市場を見ても、米ジップカー社が会員数36万人、スイス・モビリティー社が同約10万人を擁するなど、寡占化が進んでいる。その背景には、こうした事業構造も一因になっている。

欧州では「乗り合い」が市民権

だが、こうしたカーシェリングの巨人にとって、思わぬ伏兵が登場している。「ライドシェアリング」と呼ばれるシステムだ。自動車に空席がある場合、同じ方面を目指す人を募って同乗しつつ、目的に向かう「相乗り」のことだ。ガソリン代や有料道路の費用を「割り勘」にすれば、移動費用を大幅に節約できる。

欧州では、かつては駅や若者向けホテルの掲示板などで同乗者を募っていた。しかし2000年ころから、ドイツと英国を中心にインターネットの仲介サイトが立ち上がって、利用者が急増している。ライドシェアリング仲介サイト大手の「カープーリング(carpooling.co.uk)」や「リフトシェア(liftshare.com)」では、それぞれ欧州全体で毎月200万人以上がマッチングに成功し、ライドシェア(相乗り)しているという。

最近ではSNS(交流サイト)に小規模なライドシェアのコミュニティーができ、マッチングが始まっているが、現状では会員数の多い専用サイトが中心だ。むしろ、専用サイトで相手を探す際に会員がSNSの情報にアクセスしやすいように、一緒に乗る人やドライバーの詳細な情報を事前に得て信頼感を高めるという使い方のほうが広まりつつある。

ライドシェアのルールは、実際にかかった費用だけを同乗者が均等に割って負担すること。ライドシェアは、あくまで一般人同士の自発的な節約行為なので、旅客「事業」として「利益」を出してはいけない。また、ライドシェア成立の報酬として、サイト運営事業者に仲介料を払う場合と無料の場合がある。無料の場合、サイト運営者の収入はサイトへの広告料だけになる。

企業がCSR目的で推進する例も

欧州では、移動費用の削減とともに、企業の社会的責任(CSR)をアピールする目的で、ライドシェアを推進している例も多い。例えば従業員の自動車通勤に対し、ライドシェア仲介サイトを使って配車することでクルマの交通量を減らし、会社周辺の渋滞を緩和するといった効果を上げているという。ライドシェアリングは、もともと誰かが持っていた自動車の運行中の空きスペースを共有するため、1人で乗ることが多いカーシェアリング以上に自動車の利用効率を上げ、環境負荷削減に貢献できるともいえる。加えて、カーシェアリングよりコスト削減が大きい場合も多い。

2012年1月、米ラスベガスで開催された家電の国際展示会「International CES」で、ドイツのダイムラー社が「カートゥゲザー」というライドシェア推進プログラムを公表して話題となった。同社は将来的にSNSなど、ライドシェアに対応した通信アプリケーションを自動車に標準搭載するという。

日本でも2007年にターンタートル(東京都豊島区)が「のってこ!」というライドシェアリングの仲介サイトを立ち上げた。利用者数は当初伸び悩んだものの、2008年の原油高騰でガソリン価格が上がったのを機に増え始めた。2011年末に会員は2万人を超え、多い月には300~400件のマッチングが成立しているという。東名阪の間での利用が多く、20~30代が利用の中心という。

このようにカーシェアリング会社の成長の陰で、世界では市民同士で相手を探すライドシェアリングが根づき始めている。国内では「のってこ!」以外にも、駐車場の少ないマンションで住人同士が1台の自動車を共有する仕組みを自発的に作ったり、非営利組織(NPO)が軽自動車のカーシェアリングを運営したりするなど、企業を介在しないシェアリングが次々に登場している。

先進国では、クルマにかかわる革新(イノベーション)の比重は、走行性能や安全、製造から「利用法」に移ってきた。社会全体で、いかに便利に、そして効率的に利用するか。その1つの解が「共有」であり、そのリーディングカンパニーはますます影響力を高めている。だがその一方で、SNSなどの普及によって企業を介さない共有市場も拡大している。今後、どんな形で新たな利用法が進化していくのか。その中で企業はどんな役割を担えばよいのか。改めて問い直す必要が出てきている。

(日経BPクリーンテック研究所 金子憲治)

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