2019年8月24日(土)

日米外交60年の瞬間 第3部

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首相は米国務長官の同格者? サンフランシスコヘ(51)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2012/8/4 7:00
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1951年9月2日午後6時(日本時間3日午前11時)、吉田茂首相はアチソン米全権を宿舎パレスホテルに訪問、40分間にわたって懇談した――。

事実をそのまま伝えた9月4日付日経に載った記事の書き出しの一文である。現在ではありえないことがここには書かれている。それが何か、読者はお分かりだろうか。

答えの前に記事の紹介を続ける。

■首相がアチソンを訪問する

「内容は極秘に付されているが、参加した顔ぶれが米国側からアチソン長官、以下ラスク次官補、ダレス大使、シーボルト大使が出席し、日本側も西村外務省条約局長、武内全権団スポークスマン、松井首相秘書官らが出席しているので単なる儀礼的訪問でなく、日米安全保障条約の調印に関する打ち合わせなど突っ込んだ話が行われた模様である」。

「大軒、木原特派員」とクレジットのあるこの記事は「極秘に付されている」や「突っ込んだ話が行われた模様である」など、記者の興奮が伝わるような、大げさな表現が目立つが、クイズの答えはそこではない。

「アチソン米全権を宿舎パレスホテルに訪問」の部分が答えである。ささいな話と思われるかもしれないが、アチソンを国務長官と考えれば、これは現在ではありえない。

しかし当時は違う。

吉田もアチソンも全権同士である。だから、対等であり、敗戦国日本の全権が戦勝国米国の全権を宿舎に訪問するのは当然だったのだろう。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

アチソンは国務長官であり、吉田は首相だから、首相が国務長官の宿舎を訪問するのは、現在の日米関係ではあり得ない。日本の首相が訪米中に米側の閣僚と会談する場合、米側閣僚が首相の宿舎を訪問するのが普通である。

しかしサンフランシスコでの全権会談は現在の首脳会談に近い位置付けだったのだろう。米側のトルーマン大統領は、その上に君臨する形だった。ちなみに吉田・アチソン会談の時点でトルーマンはまだサンフランシスコの土を踏んでいなかった。

外交の世界にはカウンターパートという言葉がある。同格者という意味であり、どこの国の外交官もこれにこだわる。日本の首相の米側カウンターパートは、大統領ではなく事実上は国務長官だった。

サンフランシスコで結ばれる日米安保条約については後に詳しく触れるが、少しだけ先取りしていえば、この条約の署名者は日本では吉田であり、米側はアチソンら全権団である。

日本側が吉田ひとりの署名になった経緯も、後に述べるが、日本側が首相、米側は国務長官が署名する形は、1960年の安保条約にも引き継がれる。日本側の署名者の筆頭は岸信介首相であり、米側はクリスチャン・ハーター国務長官である。

■同席者は大物ぞろい

首相=国務長官の図式は、当時の日米関係の現実だった。米国は1972年のニクソン大統領の中国訪問では、ニクソンが毛沢東主席の格下に立つような扱いを受ける。ニクソンは周恩来首相と実務会談をし、その後に共産党主席である毛沢東を表敬訪問した。

ディーン・ラスク=毎日新聞社提供

ディーン・ラスク=毎日新聞社提供

それにしても51年9月2日の吉田・アチソン会談を伝える記事は、同席者を詳しく報じ、まさに現在の首脳会談のような感覚で記者が筆をとったようだ。

だから同席者の顔ぶれの意味もここで触れておくべき重さがある。

ダレスはこの物語の主人公のひとりであり、アイゼンハワー政権で国務長官となることは既に書いたが、ラスク次官補も後に国務長官になる。ケネディ、ジョンソン政権で国務長官を務めたディーン・ラスクであり、朝鮮半島に38度線を引いたのも陸軍省時代のラスクといわれる。ラスク国務長官は日米関係にも役割を果たす。

日本側の顔ぶれも重い。西村条約局長とは後にフランス大使になる西村熊雄であり、「サンフランシスコ平和条約 日米安保条約」という優れた著書がある。武内スポークスマンとは後に外務次官、駐米大使になる武内龍次、松井秘書官は後に国連大使、フランス大使になる松井明である。

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