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自由か脱落か インディゲームに魅せられた開発者たち

ジャーナリスト 新 清士

 わずか数人のチームで、これまでにないゲーム開発を目指す――。そんなインディーズ(=インディ、独立系)ゲーム開発会社が続々と生まれている。海外では5年ほど前からインディゲーム開発熱が高まっていたが、日本にも今年その波が押し寄せてきた。長年勤務したゲーム会社を飛び出してインディゲーム開発に乗り出す人もいる。ゲーム開発者団体「2Dファンタジスタ」代表の渡辺雅央氏もそんな一人だ。競争の激しいゲーム業界で生き残っていくのは容易なことではないはず。インディゲームの何が開発者を引き付けるのか、その魅力を追った。
2Dファンタジスタ代表の渡辺雅央氏

積み上げたキャリア捨て参入

国際ゲーム開発者協会日本が12月21日に都内で開いたゲーム開発者向けセミナーで、渡辺氏は11月にiPhone向けにリリースしたゲーム「タップ・シーフ・ストーリー」の開発経緯について講演した。このゲームは、プレーヤーがかわいらしいシーフ(泥棒)になってリズムに合わせ通路を渡り、ベッドで眠っている宝箱の持ち主に気付かれないように宝箱までたどり着くまでを楽しむという内容だ。

2Dファンタジスタは4月に発足した。ゲームの企画とプログラム開発は主に渡辺氏が担当。グラフィックス作成や部分的な開発などで他に3人が参加、合計4人で開発した。ゲーム開発ツールは価格が安くて簡単に使用でき、それほど高性能でないパソコンでも十分にゲームが作れるという。こうした手ごろな開発ツールの普及が近年、インディゲーム開発が盛り上がってきた要因の一つだ。誰でも簡単にゲームを作れることが新しいインディゲームの登場を促している。

「タップ・シーフ・ストーリー」のゲーム画面

渡辺氏が直前に勤務していたサイバーコネクトツー(福岡市)は、人気漫画「NARUTO-ナルト-」を使ったアクションゲームなどで高く評価されている有力ゲーム開発会社の一つ。渡辺氏は同社でゲーム開発者としてのキャリアを順調に積んできた。

それでも独立を決めたのは「会社の創業者たちが偉大すぎて、このままでは永遠に追いつくことができない」(渡辺氏)という思いがあったからだという。同時にゲーム開発者として「自分の実力がどれくらいあるのかを試してみたいと思うようになった」(同)ことも大きな理由だ。

しかし、現実は甘くなかった。飛び出してすぐに、インディゲーム開発者の誰もが直面する壁に渡辺氏もぶつかった。それはゲーム開発中、日々の生活をどうやって維持するのかという現実的で切実な問題だ。ゲーム開発だけで食べて行ける状況には、まだまだほど遠いからだ。

手ごろなゲーム開発ツールの普及により、基本的なゲームの仕組みを整えるプロトタイプ版の制作も簡単になった。渡辺氏は基礎的なゲームの仕組みを数時間で作り、それを開発チーム内で共有。グラフィックス担当者は魅力的な画面の構成案をすぐに作成し、本格的にゲーム開発作業に入った。ところが、そこからが長かった。

生活費は別の仕事で稼ぐ

2Dファンタジスタの公式ページ

今回のゲームをリリースするまで5カ月かかったのだが、実際に開発作業をした時間は合計で25日程度にすぎない。渡辺氏をはじめメンバーの都合が付かず、ゲーム開発の時間は細切れに確保するしかなかったからだ。各メンバーがゲーム開発だけに集中すれば開発期間はもっと短くなっただろう。だが、そうすると開発期間中は無収入になってしまう。しかもできあがったゲームが発売後、必ずヒットするという保証もない。

渡辺氏らは生活費を稼ぐため、ゲーム開発とは別の仕事をする必要があった。渡辺氏は専門学校の講師をしており、1日のうちゲーム開発に充てられる時間はどうしても限られてしまう。それは他のメンバーも同様だった。

ゲーム開発中に別の課題にも突き当たった。ゲームで収益を上げるための見通しが甘かったのだ。渡辺氏らは当初、ゲームそのものは無料で、ゲーム内に表示されるバナー広告で収入を得るというビジネスモデルを考えていた。広告を見てもらうには、ユーザーが繰り返しゲームを遊ぶ必要がある。ところが、開発中のゲームはシンプルな内容で、繰り返し遊んでもらうことは難しいと判断せざるをえなかった。

もうける仕組みの設計は「完全に失敗」

そこで対策に乗り出した。渡辺氏らは当初、ゲームの面数を数面にとどめ、それで何度も遊んでもらうことを想定していた。だが、それではすぐに飽きられてしまうとして、面数を50面と大幅に増やし、クリアするために必要な時間を延ばすようにした。さらにゲーム内のストーリーを作成。これにユーザーが共感し、少しでも長い期間遊んでもらえることを期待した。

しかし、結果的に「お金を得る仕組みの設計には完全に失敗した」(渡辺氏)。家庭用ゲーム会社に在籍していた開発者が陥りやすい失敗の一つは、ゲームに終わりを作ってしまうことだという。ユーザーは通常、一度終えたゲームは二度と遊ばないからだ。渡辺氏自身、ユーザーに繰り返し遊んでもらえる仕組みを作る経験が足りなかったと率直に認めていた。広告の認知度を上げるために、ユーザーのダウンロード数をどのように引き上げるかという課題もある。渡辺氏らはその壁もうまく乗り越えられなかった。

ロビオ・エンターテインメントの日本語公式ページ

ゲーム内の広告を通じて収益を得る方法では、フィンランドのアクションパズルゲーム「アングリーバード」(ロビオ・エンターテインメント)が最も成功しているとされる。このゲームはシリーズ累計で2億以上もダウンロードされており、ゲーム内広告の効果も高い。多くのインディゲームがゲーム内広告モデルを組み込み、アングリーバードのような成功を目指しているが、ダウンロード数を増やすのは容易ではない。

リリースしただけでは注目されない

市場が急拡大しているスマホゲームもそうだが、そもそもユーザーにどうやってゲームをダウンロードしてもらうかは大きな問題なのだ。iPhone向けコンテンツ配信サービスである「アップストア」やアンドロイド端末向けの「グーグルプレイ」にはすでに十数万本のゲームがあふれている。いかに優れたゲームであったとしても、リリースしたというだけでは注目されるのは難しいのが現実だ。

米マグニン&アソシイツのエド・マグニン氏

渡辺氏らは何とかゲームをリリースするところまでたどり着いたが、ダウンロード数も収益面も当初の期待を大きく下回り、生活費を支えるほどの売り上げを得ることはできなかったようだ。

渡辺氏が講演した21日のセミナーには、インディゲーム会社の米マグニン&アソシエイツ(テキサス州)開発ディレクターのエド・マグニン氏も講師として登場した。マグニン氏は講演で、規模の小さなインディゲーム会社にとってマーケティング活動の重要性を強調していた。同氏は27年間ゲーム開発に関わってきたベテランで、20年前から「ニンテンドーDS」など携帯ゲーム機用のゲームを開発。現在はiPhone用ゲームの開発に特化している。大学で教えながら、たった1人でゲーム開発を続けている。

自分の好きなようにゲームを作れる

インディゲーム開発の魅力として、たとえ収益は小さくても自分の好きなようにゲームを作れることを挙げていた。現在までにドミノ倒しシミュレーターやスカイダイビングなどのゲームを開発。2ドル程度で販売しているが、めざましいほどの大ヒットを飛ばしたわけではなく、「1人で開発を続けるには十分な収益がある」(マグニン氏)程度という。

講演後、筆者のインタビューに応じたマグニン氏は、ゲームのダウンロード数を増やすためには地道なマーケティング活動を重ねることが重要だと強調した。ツイッターやフェイスブックといったネットワークを通じて自分たちのファンをつくり、ゲーム開発が現在どの程度進んでいるのか、新しいゲームはどんなものを予定しているのか、といった情報を積極的に発信し、ユーザーとの結びつきを強めていくべきだという。

「アイデアがわいてきて仕方がない」

マグニン&アソシエイツの公式ページ

マグニン氏の指摘通り、資金力に乏しく大きな広告費を持たないインディゲーム開発者は、ゲームを開発するだけではなく、自らマーケティング活動にも取り組む必要がある。2Dファンタジスタの渡辺氏のように苦戦している多くのインディゲーム開発者たちには、ゲーム開発に加え、マーケティングに関するノウハウの習得も求められているのだ。

ただ、そうしたいくつもの難題にぶつかりながらも、渡辺氏ら多くの開発者たちが前向きにインディゲームに取り組んでいる。渡辺氏はすでに10本以上のプロトタイプ版を制作。失敗を重ねた経験から得たものも多いといい、「とにかくたくさんのゲームを出していきたい」と意欲をみせている。

さらに「いくつもアイデアがわいてきて仕方がない」といい、来年は専用のゲーム開発室を設けるという。3本ほどのゲームを同時に開発し、ゲームをリリースする速度をもっと上げるためだ。渡辺氏は「私がゲーム開発を楽しんだのと同じぐらい、ユーザーにはゲームを楽しんでほしい」と抱負を述べていた。

日本のインディゲーム市場は今後さらに参入者が増え、競争が一段と激しくなるのは確実だ。ただ、淘汰されるリスクも大きい厳しい環境の中でも、自分が面白いと信じるゲームを作り続ける日本のインディゲーム開発者たちには自由があり、何よりも、新しい何かを追いかける熱意がある。しがらみの多い大手ゲーム会社の開発者にはない多くのものを彼らは持っているのだ。これまで誰も見たことがない、あっと驚く斬新なインディゲームが2014年の日本に登場するかもしれない。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。立命館大学映像学部非常勤講師も務める。グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にもメンバーとして参加している。著書に電子書籍「ゲーム産業の興亡」 (アゴラ出版局)がある 。

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